6.6.08
4月23日。日曜日。
時間はお昼過ぎ。
信じられないことに、雨が降り出していた。
だから待ち合わせ場所を、駅の中に変更した。
世川君にも、変更の連絡を送ったけど、返事もなければ既読もつかない。
そういえば、スマホ持ってないって言ってたっけ?
大丈夫かな。
わたしが着いたのは、待ち合わせの5分前。
すでにまゆさんは、そこで待っていた。
すごく久しぶりに感じたけど、よく考えたらまだ3週間も経っていない。
今日も家着みたいなパーカーと、同じ色味のスウェットパンツ。
ちょっとコンビニではなく、もっと近くの自販機へ行くような服装。
フードを被り、背中にナップザックを背負っている。
地味すぎだ。
帰国した女子大生予備軍のコーデではない。
それでも、衝動が湧き上がる。
ルシアが、頻繁にわたしにハグを求める理由が少しわかった気がする。
わたしは我慢するつもりだったけど。
手を振りながら駆け寄ると、まゆさんもわたしも、お互いに我慢できなかった。
わたしと、まゆさんは、10秒くらい無言でハグした。
「まゆさん、かわんないね」
「ん、でもなんか、1年ぶりくらいな気がする」
「ずっとひとり暮らしだもんね」
「ん……それはこっちと、あんまり変わんないけど。やっぱ生活はぜんぜん違う」
「そうだよね。わたしには想像つかないなぁ」
「知らないヒトばかりのところって、ツラいよね」
「あー……それはキツイ……知ってる」
「ん。ムリ」
「今日、どうしよっか。なんにも決めてないんだけど」
「みきさん、ごはんたべた?」
「たべてきたけど」
「わたし、まだだから、ファミレス行きたい」
「ファミレスでいいの?」
「日本のファミレスは、めちゃくちゃ美味しいってことを痛感した」
「そうなの?」
「とにかく行こう。駅ビルのやつでいいよ」
「うん!」
って……忘れてる。
「まって、まゆさん。待ち合わせしてるから!」
「あ、そっか。なんだっけ。セガールだっけ」
「世川君だよ!」
「あの……こんにちわ……世川です」
「あ、いた」
世川君が来たのは、待ち合わせ時間ピッタリ。
たぶん、数秒しかズレていない。
雨だろうか。少し肩が濡れている。
世川君は、グレーのジップパーカーだった。
その下にも、グレーのシャツを着ている。
そして、服よりも地味な、ナップザックを右手に提げている。
「世川君、待ち合わせ場所変更したのわかった?」
「いえ……知りません。でも外は雨だし、みきさんの姿が見えたので」
「そっか、よかった」
色があるのに、色がないのと変わらないくらい地味だ。
「あ、それでね、この子が友達のまゆさん」
「……まゆ……です」
ああ……まゆさん。
コミュ障全開だ。
さっきまでの勢いはどこ。
「と、とにかく行こ。世川君はお昼食べた?」
「はい。食べてきました」
「じゃあ、ケーキかアイスでも食べに行こっか」
「は……はい」
駅ビルの中に入り、エレベーターへと向かう。
まゆさんは、わたしの左腕を掴み、びったりと後ろを歩いた。
数歩遅れて、世川君もついてくる。
エレベータに乗り、ボタンを押してファミレスのあるフロアへ。
まゆさんは、わたしの影と同化した。
世川君とは、狭いエレベータの端と端。
その距離は、無関係に居合わせたヒトと変わらない。
ダレも、ひとことも喋らない。
なんなの、この空間。気まずい。
とにかくファミレスへ。
千円くらいしかもってないわたしが、3人ですと告げて、席に案内された。
わたしとまゆさんは、隣り合って座り、世川君はその向かい。
壁際のメニューを拾って、まゆさんの前に広げた。
まゆさんが、なにか言ってる。
「え? なに?」
「……が、……すから……」
「え? から揚げたべるの?」
「わたしが……出すから、好きに食べて」
「えー!」
実はわたし。
まゆさんが、おカネを払ったところを、まだ見たことがない。
以前は、おにいちゃんが払っていたし。いないときは、おにいちゃんからもらったおカネで、わたしが払っていた。
まゆさんは、大金持ちのご令嬢なのに、おカネを払わない!
って言うかたぶん、おカネというものを知らなかった!
「まゆさん、おカネの存在を、やっと理解したんだね。すごい!」
「ん……ボストンでは、それが普通」
「いや、日本でも同じだから!」
まゆさんが奢ってくれるというので、わたしはプリンとチーズケーキのセット。
世川君は、アイスクリームのセット。
まゆさんは、グラタンとサラダ。
せっかく日本に帰ってきたのに、それでいいのか。
とりあえず、注文を済ませた。
ドリンクバーへ行こうと立ち上がると、左腕にしがみついたまゆさんの重み。
「世川君は、なに飲む?」
「あ、あのじゃ、ほうじ茶で」
まゆさんを引っ張り上げて、ドリンクバーへ向かった。
「まゆさん、コミュ障、改善したんでしょ」
「ん……日本人相手はまだ慣れてなかった」
「ここも、ニフィル・ロードだと思えばいいじゃん」
「ん、そうか。セガ君も、デバイス持ってるんだよね」
「それを聞きにきたんでしょ今日。あと世川君ね」
「ん……善処する」
もう。
ホントに女子大生なのかな。
ぜんぜん変わってないよ。
まぁいいケド。
まゆさんも、世川君も。
服装も存在も地味だけど。
この世界で数人しかいない、カラフルなふたりだ。




