6.6.03
翌朝。
わたしは、いつもより少しだけ早く家を出た。
電車に乗って、通学路を辿り、学校までの坂を登る。
探しながら歩いたけど、色のついたヒトは見当たらない。
「ゆうこちゃん、おはよ」
「あ、おはよう未希。早いね今日」
途中で見つけた、ゆうこちゃんと、ふたりで校門を抜ける。
「えへへ、1本早い電車」
「なんか用事?」
「うーうん。ちょっと早く起きただけ」
教室に辿り着くまで、せがわ君を見つけることはできなかった。
1年生の教室は、別の棟にある。
休み時間に、何度か探しにいったけど、見つからない。
ダレかに聞けばよかったかもしれないけど。
昨日の今日だ。
関連があると勘ぐられるのを避けて、それはしなかった。
帰りのホームルームが終わると、わたしは教室を飛び出した。
階段を駆け下りて、シューズロッカーへ。
まだ学校は、終わったばかりだから、ダレもいない。
ここで待っていようかと思ったが、念のため小走りで校門の方へ。
いた。みつけた。
まだ生徒のいない門の先。
少し早足で、坂の端っこを下っていく男子生徒の背中。
制服はグレーで、髪の色も黒だけど。
首のうなじの肌色が、はっきりと見えている。
間違いない。せがわ君だ。
駆け寄って、声をかけようとして思いとどまった。
ちょっとまって。
わたし。なにを考えているの。
それはおかしい。積極的すぎる。
そもそも、逃げるように学校を出ていく男子生徒。
声をかけたら、走っていってしまうかもしれない。
スカートで、坂道を駆け下りるのはイヤだ。
まって、それ以前に。
学校の近くで、男子を呼び止めて、立ち話をするのもダメだ。
なにが起きるか、予測がつかない。
だからわたしは、意味もなくその後ろ姿を追いかけることにした。
せがわ君は、ひたすら坂を下り、駅前のロータリーへ。
そして、改札を抜けていく。
わたしも、その後を追う。
ホームは、わたしが乗る電車とは、反対方向だった。
千円くらいしかチャージしてないけど、大丈夫かな。
学校から帰るんだから、そんなに遠くまでは行かないよね?
せがわ君は、ホームでやたらとキョロキョロしている。
別に見つかってもいいと思うけど、念のため3両くらい距離を取った。
時間帯が早いからか、ホームに滑り込んできた電車はガラガラ。
ホームの人影も少ない。
せがわ君とわたしと。あと数人しかいない。
せがわ君が電車に乗り込むのを確認して、わたしも乗り込む。
あとは見逃さずに、同じ駅で降りればいい。
大丈夫だ。
せがわ君にだけ、色がついている。
人ごみの中だって、見逃さない。
だから、すぐにわかった。
動き出した電車の窓の向こうに、色のついたせがわ君の顔。
せがわ君は、電車に乗っていなかった。
すれ違う瞬間、目が合った気がする。
わたしは電車に乗っている。
せがわ君は、ホームに残ってる。
えっと、なんなの。
どういうつもりなの?
どういうことなの?
次の駅で、電車を降りた。
せがわ君は、わたしの尾行に気がついていたのだろうか。
まさか、逃げられたの?
まんまと、まかれたの?
……もう!
逃がさない!
わたしは、最後尾のホームに立ち、次の電車を待った。
見つけるのは簡単だ。
流れる電車の中にいたって、見つけられる。
肌色が光る瞬間を見逃さない。
でも、次の電車には、乗っていなかった。
その次も。
どういうわけか、その次も。
すでに同じ学校の生徒も、多く電車に乗っている。
この駅で降りていく生徒もいる。
顔見知りの女子生徒も電車から降りた。
「みきじゃん。何してるの? 待ち合わせ?」
などと、会話。
わたしは、こんなところで、なにをしているんだ。
それからもしばらく、ホームに滑り込む電車を眺めた。
次の電車が来るのを、時計を見ながら待っていた。
ベビーカーを押して降りてくるママ。
違う制服の、3人組の女子生徒。
じろじろと見てくる、スーツ姿のサラリーマン。
不良っぽい男子生徒もいたけど、わたしのことはスルー。
電車が混み始める前に、階段を昇って反対のホームへ。
わたしは家に帰った。




