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『あの世界』の常識に巻き込まれていく話  作者: 渡しログ
カラフルな『あの世界』
552/561

6.6.03


 翌朝。

 わたしは、いつもより少しだけ早く家を出た。


 電車に乗って、通学路を辿り、学校までの坂を登る。

 探しながら歩いたけど、色のついたヒトは見当たらない。


「ゆうこちゃん、おはよ」

「あ、おはよう未希。早いね今日」

 途中で見つけた、ゆうこちゃんと、ふたりで校門を抜ける。

「えへへ、1本早い電車」

「なんか用事?」

「うーうん。ちょっと早く起きただけ」


 教室に辿り着くまで、せがわ君を見つけることはできなかった。

 1年生の教室は、別の棟にある。

 休み時間に、何度か探しにいったけど、見つからない。


 ダレかに聞けばよかったかもしれないけど。

 昨日の今日だ。

 関連があると勘ぐられるのを避けて、それはしなかった。




 帰りのホームルームが終わると、わたしは教室を飛び出した。

 階段を駆け下りて、シューズロッカーへ。

 まだ学校は、終わったばかりだから、ダレもいない。

 ここで待っていようかと思ったが、念のため小走りで校門の方へ。


 いた。みつけた。


 まだ生徒のいない門の先。

 少し早足で、坂の端っこを下っていく男子生徒の背中。


 制服はグレーで、髪の色も黒だけど。

 首のうなじの肌色が、はっきりと見えている。


 間違いない。せがわ君だ。

 駆け寄って、声をかけようとして思いとどまった。

 ちょっとまって。

 わたし。なにを考えているの。

 それはおかしい。積極的すぎる。


 そもそも、逃げるように学校を出ていく男子生徒。

 声をかけたら、走っていってしまうかもしれない。

 スカートで、坂道を駆け下りるのはイヤだ。


 まって、それ以前に。

 学校の近くで、男子を呼び止めて、立ち話をするのもダメだ。

 なにが起きるか、予測がつかない。


 だからわたしは、意味もなくその後ろ姿を追いかけることにした。



 せがわ君は、ひたすら坂を下り、駅前のロータリーへ。

 そして、改札を抜けていく。

 わたしも、その後を追う。


 ホームは、わたしが乗る電車とは、反対方向だった。

 千円くらいしかチャージしてないけど、大丈夫かな。

 学校から帰るんだから、そんなに遠くまでは行かないよね?


 せがわ君は、ホームでやたらとキョロキョロしている。

 別に見つかってもいいと思うけど、念のため3両くらい距離を取った。



 時間帯が早いからか、ホームに滑り込んできた電車はガラガラ。

 ホームの人影も少ない。

 せがわ君とわたしと。あと数人しかいない。


 せがわ君が電車に乗り込むのを確認して、わたしも乗り込む。


 あとは見逃さずに、同じ駅で降りればいい。

 大丈夫だ。

 せがわ君にだけ、色がついている。

 人ごみの中だって、見逃さない。


 だから、すぐにわかった。

 動き出した電車の窓の向こうに、色のついたせがわ君の顔。


 せがわ君は、電車に乗っていなかった。

 すれ違う瞬間、目が合った気がする。


 わたしは電車に乗っている。

 せがわ君は、ホームに残ってる。


 えっと、なんなの。

 どういうつもりなの?

 どういうことなの?



 次の駅で、電車を降りた。

 せがわ君は、わたしの尾行に気がついていたのだろうか。

 まさか、逃げられたの?

 まんまと、まかれたの?


 ……もう!

 逃がさない!


 わたしは、最後尾のホームに立ち、次の電車を待った。

 見つけるのは簡単だ。

 流れる電車の中にいたって、見つけられる。

 肌色が光る瞬間を見逃さない。


 でも、次の電車には、乗っていなかった。

 その次も。

 どういうわけか、その次も。


 すでに同じ学校の生徒も、多く電車に乗っている。

 この駅で降りていく生徒もいる。

 顔見知りの女子生徒も電車から降りた。

「みきじゃん。何してるの? 待ち合わせ?」

 などと、会話。


 わたしは、こんなところで、なにをしているんだ。



 それからもしばらく、ホームに滑り込む電車を眺めた。

 次の電車が来るのを、時計を見ながら待っていた。

 ベビーカーを押して降りてくるママ。

 違う制服の、3人組の女子生徒。

 じろじろと見てくる、スーツ姿のサラリーマン。

 不良っぽい男子生徒もいたけど、わたしのことはスルー。


 電車が混み始める前に、階段を昇って反対のホームへ。




 わたしは家に帰った。



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