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『あの世界』の常識に巻き込まれていく話  作者: 渡しログ
カラフルな『あの世界』
551/558

6.6.02


 目の前の、色のついた男子生徒。

 それが、イジメの標的になっている。


 事情に介入するつもりはなかったが、色がついている理由が知りたい。

 すぐに立ち去るよりも、その気持ちが勝っていた。


「ねぇ」

「あ、みきちゃん」

「悪口って、どんなこと?」

「さゆちゃんの、弟の悪口」

「弟……?」

「バカとか、嘘つきだとか、先週から何回もだよ」

「ふーん。SNSとか、やれないからわかんないけど」

「あ、みきちゃんて、親がうるさいんだっけ?」

「うん。毎日チェックされるから、SNSとかはやれない」

「うわぁ。きびしー。メールとかも見られる系?」


 SNSは、やってないことにしている。

 実際、メッセージのやりとりにしか使っていない。

 こういうことに巻き込まれるのを避けるためだ。


 お父さんが、わたしのSNSとかを、気にしているのもホントのこと。

 警備会社で働いていると、そういうのが気になるらしい。


 お父さんがわたしのスマホをチェックしたりはしないけど、お父さんに許可をもらって、そういうことにしている。

 わたしも言い訳できるし、お父さんも安心だから、いいアイデアだった。



 この男子生徒は、どうなんだろうか。

 心が抜け落ちたような印象だけど、SNSで悪口とかするんだろうか。


 っていうか……この男子。

 学年章が、1年生だった。

 体格は、どっちかっていうとやせ型。

 言ってしまえば、パっとしない、量産型の男子。


 その1年生を捕まえて、2年生の女子生徒が寄ってたかって……

 ヒドイのはいったい、どっちなんだ。


 それにしても、ずいぶん落ち着いた顔をしている。

 ぼーっとしているというか、心ここにあらずというか。

 その表情が、女子生徒の感情を、ますます逆撫でしているようにも見える。


 でも、この男子。

 どうして色がついているんだろう。


 知りたい。聞きたい。

 この男子も、もしかして……ニフィル・ロードに?

 気になる。


 でも、ここで聞くのは論外だ。

 かといって、助けてあげることもできない。

 その勇気も、気概も、わたしにはない。

 そもそも、どちらにも加担したくない。


 真ん中の女子生徒が、男子に言った。

「せがわっ、スマホ出しなよ。触りたくないから、自分で出してよ」

「だから、ぼくは……スマホは、持っていません」

 その男子の口調は、教科書を朗読しているかのようだった。

「マジで言ってんの? どうする? 服全部脱がす? 触りたくないけど」

「ほんとうです。頭が痛くなるので、スマホは持っていません」


 『せがわ』が、この男子の名前なのかな。

 やはり、ずいぶん落ち着いてる。

 イジメられているというより、先生の話を聞いているような顔。

 せがわ君を見る限り、ほっといても大丈夫そうな気がした。

 まさか、2年生の女子が、1年生の男子に暴力を振るったりもしないだろう。


「みきちゃん、それ重くない?」

「あ……うん。重い」

「置いてきたら?」

「うん。そうする。じゃね」


 ごめんね。せがわ君。

 わたしには、君を助けることができない。

 それも、この魔境で、いい子を続けるためのコツ。


 代わりに、先生を呼んできてあげるから。

 もう少し、がまんしててね。



 でも、わたしが呼んできたってバレないように、工夫はする。


 今日は書道部がある。

 職員室には直行せずに、途中で校舎へ。

 美術室のドアを静かに開けると、教壇に顧問の姿。

 おじいさんの、古文の先生。


 わたしは、段ボール箱の中の冊子を1冊取り出し、美術室の中へ。

 突然入ってきたわたしに、先生が視線を向た。

 書道部員はみんな真剣に、筆を動かしている。

 わたしに気付いたのは、たぶん先生だけだ。


 先生に、冊子を見せる。見せただけ。

 この先生には、なんの関係もない、理科の課題本。


「どうした? なんだいこれ」

「あのね……」


 小声で、手短に、先生に事情を話す。

 先生はすぐに教室を出て、現場へ向かってくれた。


 これでいい。


 わたしは職員室へと向かい、部屋に入って、段ボール箱を教員机の脇に置く。

 隣で座っていた女性の先生に言伝を残し、わたしは職員室を出た。



 あとは家に帰るだけ。

 教室にカバンを取りに行く前に、さっきの校舎裏へ寄ったが、もうダレもいなかった。

 せがわ君の姿もない。



 明日、探してみよう。


 いまのところ、色のついたヒトは、他にだれもいない。

 簡単に見つけ出せる。 




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