6.5.31
噴水広場からメモリアへ。
またやってしまった。
ここは、おやしろではなく、レクサムコンフィの畑の前。
そこで風呂桶のように、タオルと石鹸の入ったカゴを抱えて佇んでいた。
ついでに、レクサムコンフィの家へ寄る。
そして、モモを10個もらう。
「ねぇ、レクサム」
「おう。コンフィだけどな」
確率5割なのに。
まだ1度も当たらない。
「お風呂ある?」
「あるわけねぇだろ。外にタライならあるぞ」
「じゃあ、この近くに、池とか川ってある?」
「あの小川じゃダメなのか?」
「うーん、いいんだけど、もう少し村から離れた場所」
「南西に行くと、灯巫女川っていう大きな川があるが、どうした?」
「あかりみこがわ?」
「おう。大きな川だから、歩いて渡るのはムリだな」
「ふーん」
「念のため言っとくが、ひとりでいくのはあぶねぇぞ。なんか用事か?」
「うーん、そうだよね。なんでもない」
コンフィからズタ袋を借りて、3度目のモモを10個を受け取る。
両手でカゴを抱え、右手からズタ袋を提げる。
「7日くらいしたらまた来るね」
「そうか。7日といわず、いつでもいいぞ。シチリも会いたがってるしな」
嬉しい。
この村のヒトは、みんないいヒトだ。
そうだ。次は、ショコラを貰ってきてあげよう。
どんな顔してくれるかなぁ。
そんなことを考えながら、畑を離れ、おやしろへ。
酒場には寄らず、おやしろに直行する。
距離は体感で3~4キロ。
ズタ袋を提げる右手が疲れてくると、左手に持ち替えながら道を辿る。
1時間くらい歩いた気がする。
おやしろに着いて、荷物はいったん床に置く。
ログインデバイスを出し、バケツだけもって、噴水広場へ。
石像の足元から流れ落ちる水は、とても綺麗だ。
ここで泳いでいるヒトはみたことないけど、そのままガブガブと飲んでいるヒトもマレに見る。
いったい、どういう理屈でここに水が溜まっているのか。
どうでもいいことだけど、こんどまゆさんに聞いて見よ。
わたしは、バケツに水を汲んで、おやしろに戻った。
水は綺麗だけど……冷たい……
服を脱ぐと……寒い……
タオルに水を浸し、石鹸をつけてカラダを拭く。
はぁ……
お風呂入りたい。
カウント24のおうちの近くにあった池が恋しい。
ソフィアや、まゆさん。
ルカや、リュウタと浸かった、魔法の温泉。
そうだね。
そうしよう。
わたしは目を閉じて。
おやしろの中の空気を、サウナに変えた。
あったかい……
さっぱりして、噴水広場に戻ると午後の中盤。
拠点まで歩き、先にモモを、ハンナちゃんに届けた。
そのあと、石鹸とタオルのカゴを、フリッツに返す。
「それでは、お着換えをいたしましょう」
「うん……」
クララに連れられて、またあのテントへ。
どうやらこのテント。
調理スタッフの仮眠室でもあるらしい。
ミシェルも、ハンナちゃんも。そしてクララも。
朝早くから、夜遅くまで、調理に没頭している。
いつ寝ているんだと思うくらいだ。
そのテントで、今日もドレスに着替える。
「お色はどちらがよろしいですか?」
なんとクララは、2色のドレスを用意していた。
かき氷のシロップみたいな、アイスブルー。
水色よりもやや緑っぽい、ペールグリーン。
どっちもいい色だ。
「こっちで」
アイスブルーにした。
ショートケープは、さらに白に近い水色。
ブーツは薄茶色。
ハーフアップの髪留めも、水色。
造花ではないカモミールのお花がついている。
いい香りだ。
着てみると、なんだか、パジャマのようにも見える。
でも、カガミは無い。
今回も、自分で自分を見ることができない。
最後に、細いソードベルトに剣を吊り、テントを出る。
陽の角度は、まもなく夕方。
ミシェルとハンナ。フリッツの姿がなかった。
仕込みのため、先に現地に向かったらしい。
代わりに、ルシアとタデクが待っていた。
「ミキ姫ちゃん、今夜もカワイイ!」
「おやめください。ドレスが汚れます」
ルシアが抱き着こうとしたが、クララが止めた。
ルシアも、タデクも、いつもと変わらない冒険者スタイル。
タデクは、左腰に剣を佩いている。
今夜もタデクは、護衛だね。
「タデク。ミキがセクハラ受けたら、すぐに助けなさいよ」
「あん? せくはら? なんだそりゃ。どういう意味だ?」
「サインを決めておきましょう。髪留めを触ったら助けてのサイン。それでどう?」
「嬢ちゃんが髪留め触っただけで、あのタヌキじじいが斬り殺されるのか。そりゃいいアイデアだ」
「えーっと……ぜったいに髪留めには、触らないと誓う」
「なんだよ。残念だな」
「みきの目の前で、血が飛び散るのはヤメて」
「……とにかく。今日は嬢ちゃんをしっかり守るからな。安心してメシ食ってこい」
「うん。助けてね、タデク」
タデクが、とつぜん背を伸ばし、両足の靴底をカツンと打ち鳴らした。
「ナッホノルイ、ドゥシェ」
( Na honor i duszę. )
「うん?」
「ポーランド語は、ぜんぜんわからないわね」
「ポーランド語なの?」
「ポーランド語よね? タデク?」
「誇り高き騎士語だ」
「なんて言ったの?」
「今夜も小娘の付き添いかよめんどくせぇ、ってとこだな」
「騎士の誇りはどこよ」
「誇り高き騎士は、ウソをつかない」
クララが言った。
「そろそろお時間です。参りましょう」
「うん」
「いってらっしゃいませ。みなさん」
留守番はディル。
ピエールの姿はない。
あれから、見ていない。
どこにいるんだろう。
ルシア、タデク、クララ。
4人で、評議会の場所へと出発した。




