↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『あの世界』の常識に巻き込まれていく話  作者: 渡しログ
カラフルな『あの世界』
540/559

6.5.28


 疲れた。

 わたしは、疲れた。


 ピエールの描いた絵が、傑作かもしれないことは、なんとなくわかった。

 その本質を知るのは、おそらく、わたしと、ピエールだけだろう。



 フリッツは、その絵を、レストランに飾ると約束したが、難航した。

 フランス語しか喋らないピエールの、よくわからないフランス語。


「ピエール。この絵画、いかほどでお譲りいただけますか?」

「この絵は……売らない。売る絵では……ない」

「はて、困りましたね」


「飾るのは構わない……それでいい。そうして……ほしい」

「では、無償でお譲りいただけるのですか?」

「ボクも、レストランで……働く」

「はい?」


「皿洗いでも、ゴミ捨てでも、なんでもいい。この絵をレストランに飾るなら、ボクも近くに……いたい……」


 フリッツは、わたしとルシアへ順番に視線を向けた。

 そのあと、3人で顔を見合わせた。


「さて……どういたしましょうか」

 フリッツはドイツ語で言った。

「労働者階級らしいから、仕事は熱心だと思うわよ」

 フリッツとルシアは、ドイツ語で会話を続けた。

「ふむ……しかし、あれだけの画家を皿洗いに使うというのも……」

「なら、画家として雇う?」

「画家……というより、普通に、ギルドメンバーとして彼を迎えたらどうでしょうか」

「そうねぇ……そのほうが簡単で無難ね。ミキもそれでいい?」


「うーん……」


 ピエールは、ただ不幸で、食べて生きていくためだけに仕事をして、純粋に絵を描く時間がほしいというだけの動機で、この世界に来ているんだろう。

 悪い人間ではない……と思う。

 純粋さで言えば、動物に近いとすら思える。


 でも、わたしにとって、ピエールは不気味だった。

 いまだかつてないくらいの不気味な人物。


 正直、近くにいてほしくない。

 絵から離れたくないと言うのなら、絵はあげるから、遠くに行ってほしい。

 そう思ってしまう。


「ミキ」

「うん?」

「この絵さ、アイツに見せたいと思わない?」

「アイツ?」

「無口でネクラで、心を開ける人間なんて、世界でひとりくらいしかいない、無表情なアイツよ」

「……おにいちゃん?」

「あいつが、コレを見たら、なんていうかな?」

「うーん……」


 おにいちゃんに、絵心があるとは思えないけど……

 でも、なんて言うかな。

 ドレスを着た、みきの皮をかぶった、わたしの肖像画。


「このカウントでは、お店に飾るけど……私がこの絵を、未来のあいつのことろへ持っていくわ。いつになるか、わからないけどね」


「……感想聞けるかな?」

「ボソッと、ふたこと、みことだろうけどね」

「あはは。そうだね。ヒドイこと言われたらどうしよ」

「そのときは、お姉ちゃんがぶん殴る」

「えー、あはははは」



「ピエール」

「……な……に」


 ルシアが、ピエールの両腕を掴んだ。

 何日か前の光景がフラッシュバックする。

 ルシアが、フランス語でピエールに言った。


「これ1枚じゃね、ぜんぜん足りないわ。あなたは今日から、フォリオ・ノーメルシの仲間になって、絵を描き続けなさい。できるわね?」


「描いて……いいの?」


「最初に言ったでしょ。あなたはここに、パトロンつかまえにきたの。そして、あなたはつかまえたのよ、パトロンを」


 ルシアは、ピエールの視線を追いかけるが、今回もピエール目は、その視線から逃げ続けている。


「パ……トロン?」


「ピエール・オルヴェーヌ。この世界では、あなた労働者ではなく、画家よ」

「画家……」


「それとね、そこに立ってるおじさん」

「私のことでございましょうか……?」

「次は、あのおじさんに実力を認めさせて、現実世界でも絵を描くことを生業にしなさい!」


「絵を描くだけで......生きていける……?」


「それでは、私が働くホテルに飾る絵画。それをいつか、ピエールに描いてもらいましょうか」


「ホテル……に?」

「ええ」

「ロビーにして……ほしい」

「出来栄え次第ですが」

「風景画でもいいの?」

「あなたの本領は、人物画だと思いますが」

「ボク、人物は苦手で……」


「どうやら、ピエールに描いてもらうには、ルシア様もセットということになりそうですね」


「それは……イヤ。この世界で徹底的に教育するわ」

「では、そのギャランティーも、絵画の代金と合わせてお支払いします。無論、出来栄え次第ですが」


「ピエール」

「はい……」

「人物画を描くわ。描きまくりなさい!」

「だから、ボク……人物画は苦手だと……」

「あなたね……それが画家なのよ。ルノワールが何の苦悩もなく絵を描いていたと思ってるの?」

「……ルノワール……」


 わたしはイヤだけど……まぁいいか。

 なんだか、みんな楽しそうだし。



 とにかく、ピエール・オルヴェーヌ。

 デパートの化粧品ショップ見たいな名前のフランス人。


 その彼が。

 新たに、フォリオ・ノーメルシに加わることになった。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。