6.5.23 - デイナー・ド・ポワソン
今夜の夕食も、まかない。
というか、実験、あるいは試験料理だと念を押されている。
仮想世界の食材に、どの程度ポテンシャルがあるのか。
実際に調理して、確認したいらしい。
でも、運ばれてくる皿を眺めると、とてもそうには見えない。
最初のお皿を置きながら、フリッツが言った。
「パーチと野菜のきまぐれソテー
~ブールブランソース添えでございます」
「きまぐれソテー?」
「ミシェルが気まぐれで野菜と味付けを変更しました。マドモワゼルからいただいたホウレンソウが、白身魚に添えられております」
「わぁー!」
左側の席で鼻を寄せるディルが言った。
「レモンの酸味とバターの香り。こういうのをハーモニーというのかしら」
今夜は、アルベールも訪れていた。
アルベールが試食に参加するのは、今夜が初めてだ。
「シェフ」
「ウィ、ヘア・アルベール……」
「ブールブランソースを焚火の火で?」
「は……はい」
「香りは問題なさそうだな」
「おっ……お口にあいますといいのですが」
次はハンナが歩み寄り、お皿を並べていく。
「緑野菜とソラ豆の冷製ポタージュでーす。あっさり味だよ、みきちゃん」
「ありがとう、ハンナちゃん」
ポタージュにも、ホウレンソウが入っている。
冷製っていうけど、海風を含んだような、ソラ豆の香り。
なんだかこのポタージュは、野営料理っぽい。
「デザートは、あとでもってくるからね」
「うん、たのしみにしてる」
最後にゴロゴロと、木製車輪のカートの音。
押してくるのは、ソムリエのクララ。
カートの上には、ワインのボトルと木のコップ。
それと、柔らかそうなライ麦パンのスライス。
「今夜は、辛口の白ワインをお楽しみください」
カートの上には、木製のスプーンとフォークも並んでいた。
鉄製のナイフも揃えられている。
食器類も徐々に充実してきている。
それらを、ハンナとミシェルが並べていく。
「ねぇ、クララ」
右隣に座っているルシアが、クララに尋ねた。
「ウィ、シェール・ルシア」
「ワインだけ、あとで少し分けてもらえない? タデクへの差し入れ」
「かしこまりました。個別で1本、用意しておきます」
「メルシィ!」
並べ終わると、3人は離れていく。
アルベールが言った。
「では、食事を始めようか」
「アルベール?」
「なんだ、ディル」
「もう少し、お顔を崩してもよろしいのですよ?」
「ッフフ、そうだな。楽しいディナーの時間だったな」
アルベールが、白身魚の端をナイフで切り取り、フォークを持ち上げて、口の中へ。
無表情のままで、うんうんと、うなずいている。
美味しいのだろうか。たぶん美味しいんだろう。
「どうしたミキ。私の顔を見ていても、ハラは膨れないぞ」
「おいしい? アルベール?」
「まぁまぁだ。野営地でこんなものを食べるのは初めてだ」
「ねぇ、アルベール」
「なんだルシア」
「美女3人に囲まれてのディナーなんだから、もっと嬉しそうな顔しなさいよ」
「君にはこのほうが喜ばれると思っていた。表情を作った方がいいか?」
ルシアが、ニコっと笑う。
「そのままでいいわ、ムッシュ・アルベール」
わたしも、お魚にナイフとフォークを伸ばす。
ソースをつけて、口に運ぶ。
うーん……なんだろコレ。
複雑な味……バターの後味が、なんか違う。
お醤油を垂らした大根おろしで食べたいかも。
ホウレンソウは美味しい。
バターでソテーした、レモン風味のホウレンソウ。
そっかこれ、カタセ村のホウレンソウと、レモン。
それをミシェルが調理したんだから、美味しいに決まってるね。
酒場のマスターに食べさせたら、なんて言うかなぁ。
マスターの料理は、どっちかっていうとB級グルメ。
フレンチではなく、ブリティッシュ。
あれはあれで、美味しい。
むしろ、わたしは、あっちのほうが好き。
「ところで、ミキ」
正面に座るアルベール。
「うん?」
「ウィルツとのディナーの前に、最低限でいいから、マナーを習得しておけ」
「えーっ、めんどーい」
「使い方はまぁ……それでいい。覚えるのは外側だ。フォークやナイフを使う順序、食べ終わったときの置き方。それぐらいなら覚えられるだろう?」
「うーん……それも、ギルドマスターの仕事?」
「そうだ。200万ジェノのためだ」
「わかったよう……」
「フリッツ」
「ウィ、ムッシュ」
「頼むぞ」
「かしこまりました」
フレンチのお食事マナー……
うえぇ……




