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『あの世界』の常識に巻き込まれていく話  作者: 渡しログ
カラフルな『あの世界』
534/559

6.5.22


 瓶は持ち帰ることになった。

 そんなもの、家に置いておきたくないと言われた。


 仮想世界の中世社会。

 むずかしい。ややこしすぎる。


 蜂蜜は、モモは30個と交換することで決着。


 今日は10個だけ持って帰る。

 そもそも、まだ収穫するには早いらしい。

 せめて明日。できれば明後日。

 そのほうがいいと言われた。


 10個でも重い。3キロくらいありそう。

 それとおまけで、レモン5個と、山盛りのホウレンソウを貰ってしまった。


 亜麻布風呂敷を再び借りて、それに包んで持って帰る。


 太陽の角度は、夕方になりかけていた。

 おやしろは遠いし、モモとレモンが重い。

 だから、ここから噴水広場へ飛ぶことにする。


 向かい合う家の農道の真ん中で、わたしはログインデバイスを出した。


 シチリちゃんとニシカタくん。

 それとふたりのママに見守られながら、わたしは記憶の回廊へ。



 エレメント・ノードへと渡り、亜麻布の風呂敷を抱えて拠点に向かう。


「おかえりなさいませ、マドモワゼル。お荷物お持ちします」

 最初にフリッツが歩み寄って、わたしが抱える風呂敷袋に手を添えた。


 モモの甘い匂い。

 それと、レモンの皮の酸っぱい匂い。


「おや、こちらは?」

「モモはハンナちゃんで、ホウレンソウはミシェルへのお土産? レモンはどっちだろ?」

「ほう……?」

「モモはねぇ、明日も明後日も10個もらえるよ。ディナーに使える?」


「ハンナのところへ持参してみましょう」

「うん」


 まずは、ハンナちゃんのところへ。

 砂糖とミルクが混じった匂い。これはもしかして……

 生クリーム?


「うわ、ハンナちゃんこれ、もしかして氷?」

「あ、みきちゃん、おかえり。そうだよ、ミシェルに持ってきてもらった。すぐ溶けちゃうんだけどね。いろいろやってみることにした」


 ハンナちゃんは、フォークを3本握って、氷につけたボウルの中の白い泡をかき回している。

 文字通りのハンドミキサー……?


「もしかして……ホイップクリーム?」

「せーかーい!」


 ハンナちゃんは、喋りながらも、カシャカシャと手を動かし続けている。


「みきちゃん、モモどうだった?」

「もらってきたよ。10個」

「ヤッター! でもゴメン、ちょっと手が離せないから、そこ置いといて。あとで見るね」

「うん。がんばってね」

「おーう!」


 ハンナちゃん。全体的にカワイイだけの女性だと思ってたけど。

 腕の筋肉……すごい……

 フレンチパティシエって、みんなあんな感じなの。


「みきちゃん、ちょっと味見してみる?」

「えっ、いいの?」

 ハンナちゃんが、フォークの先についたクリームをスプーンでそぎ落とし、わたしに向けた。

「はい。ボナペティ?」


 トロトロ……

 あまあま……


「もうこれ! 完成でしょ!」

「うーん、もう少しかなぁ」

「なにが気に入らないの!」

「うーん、もう少し!」


 邪魔になりそうなので、次はミシェルのところへ。

 ここも、濃厚なバターの香りが漂っている。


 まだ建物はできていない。

 焚火で火入れをする野外の野営料理だ。


 今夜は、お魚料理。

 ミシェルにレモンを見せたら、歓喜した。


「マーベラス! 支配人!」

「なんでしょう……」


「マドモワゼルに持ち込んでいただいたレモンを、どうしても使いたいです。夕食のサーブが、あと40分ほど遅れます」


「遅れるの確定……ですか。構いませんか? マドモワゼル?」

「うん。もちろん」


「それでは、あと40分ほど、お席でおまちください。すぐにハーブティーをお持ちいたします」


「ウィ、むっしゅ!」

「え……ッフクク。おそれいります、マドモワゼル」


 だんだん、フリッツとも仲良しになってきたような。

 それにしても、みんな……スゲェな……


 まゆさんや、おにいちゃんも、ここにいたらなぁ。

 カウント24とは、大違いだ。



 なんかもう。

 あのとき以上に……



 現実世界には、帰りたくない。




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