6.5.22
瓶は持ち帰ることになった。
そんなもの、家に置いておきたくないと言われた。
仮想世界の中世社会。
むずかしい。ややこしすぎる。
蜂蜜は、モモは30個と交換することで決着。
今日は10個だけ持って帰る。
そもそも、まだ収穫するには早いらしい。
せめて明日。できれば明後日。
そのほうがいいと言われた。
10個でも重い。3キロくらいありそう。
それとおまけで、レモン5個と、山盛りのホウレンソウを貰ってしまった。
亜麻布風呂敷を再び借りて、それに包んで持って帰る。
太陽の角度は、夕方になりかけていた。
おやしろは遠いし、モモとレモンが重い。
だから、ここから噴水広場へ飛ぶことにする。
向かい合う家の農道の真ん中で、わたしはログインデバイスを出した。
シチリちゃんとニシカタくん。
それとふたりのママに見守られながら、わたしは記憶の回廊へ。
エレメント・ノードへと渡り、亜麻布の風呂敷を抱えて拠点に向かう。
「おかえりなさいませ、マドモワゼル。お荷物お持ちします」
最初にフリッツが歩み寄って、わたしが抱える風呂敷袋に手を添えた。
モモの甘い匂い。
それと、レモンの皮の酸っぱい匂い。
「おや、こちらは?」
「モモはハンナちゃんで、ホウレンソウはミシェルへのお土産? レモンはどっちだろ?」
「ほう……?」
「モモはねぇ、明日も明後日も10個もらえるよ。ディナーに使える?」
「ハンナのところへ持参してみましょう」
「うん」
まずは、ハンナちゃんのところへ。
砂糖とミルクが混じった匂い。これはもしかして……
生クリーム?
「うわ、ハンナちゃんこれ、もしかして氷?」
「あ、みきちゃん、おかえり。そうだよ、ミシェルに持ってきてもらった。すぐ溶けちゃうんだけどね。いろいろやってみることにした」
ハンナちゃんは、フォークを3本握って、氷につけたボウルの中の白い泡をかき回している。
文字通りのハンドミキサー……?
「もしかして……ホイップクリーム?」
「せーかーい!」
ハンナちゃんは、喋りながらも、カシャカシャと手を動かし続けている。
「みきちゃん、モモどうだった?」
「もらってきたよ。10個」
「ヤッター! でもゴメン、ちょっと手が離せないから、そこ置いといて。あとで見るね」
「うん。がんばってね」
「おーう!」
ハンナちゃん。全体的にカワイイだけの女性だと思ってたけど。
腕の筋肉……すごい……
フレンチパティシエって、みんなあんな感じなの。
「みきちゃん、ちょっと味見してみる?」
「えっ、いいの?」
ハンナちゃんが、フォークの先についたクリームをスプーンでそぎ落とし、わたしに向けた。
「はい。ボナペティ?」
トロトロ……
あまあま……
「もうこれ! 完成でしょ!」
「うーん、もう少しかなぁ」
「なにが気に入らないの!」
「うーん、もう少し!」
邪魔になりそうなので、次はミシェルのところへ。
ここも、濃厚なバターの香りが漂っている。
まだ建物はできていない。
焚火で火入れをする野外の野営料理だ。
今夜は、お魚料理。
ミシェルにレモンを見せたら、歓喜した。
「マーベラス! 支配人!」
「なんでしょう……」
「マドモワゼルに持ち込んでいただいたレモンを、どうしても使いたいです。夕食のサーブが、あと40分ほど遅れます」
「遅れるの確定……ですか。構いませんか? マドモワゼル?」
「うん。もちろん」
「それでは、あと40分ほど、お席でおまちください。すぐにハーブティーをお持ちいたします」
「ウィ、むっしゅ!」
「え……ッフクク。おそれいります、マドモワゼル」
だんだん、フリッツとも仲良しになってきたような。
それにしても、みんな……スゲェな……
まゆさんや、おにいちゃんも、ここにいたらなぁ。
カウント24とは、大違いだ。
なんかもう。
あのとき以上に……
現実世界には、帰りたくない。




