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『あの世界』の常識に巻き込まれていく話  作者: 渡しログ
カラフルな『あの世界』
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6.5.21 - バターショック


 兄弟の片方が部屋に顔を見せた。

「おう、ヒメ様じゃねぇか。どうした。まだイモはできてねぇぞ」


 やはり、どっちなのか、わからない。


「モモが欲しいんだけど、これと交換してくれない?」


 蓋をあけたままの蜂蜜の瓶。

 だいぶ減ったけど、たぶんまだ100g以上残ってる。


「なんだこりゃ?」


 奥さんのひとりが言った。

「蜂蜜ですって」

「はぁ?」

「蜂蜜よ」

「この量の? ウソだろ?」


「食べたんだから、間違いないわ」

「食べたって、いつ? どうやって?」

「パンにつけて」

「へぇ……昼寝でもしてたのか」


「これと、モモを交換してくれる?」

「モモが欲しいのか。収穫できそうな木は、何本かあるが。いくつ欲しいんだ?」

「10個」


 兄弟のもうひとりが、部屋に入ってきた。

「おう、ヒメ様、ひさしぶりだな。まだイモはできてねぇぞ」

「モモが欲しいんだけど、これと交換してくれない?」


「なんだこりゃ?」


 もしかして、同じこと2回するの?


 兄弟の1人が、瓶の中に小指を入れて、指先についた蜂蜜をペロっと舐めた。


「二十数年ぶりだが……蜂蜜にソックリだな?」

「だから、蜂蜜だってば」

「この量の? ウソだろ?」

「3割くらい、パンにつけて食べちゃったけどね」

「ほう。昼寝でもしてたのか」


 兄弟が蜂蜜だと半信半疑になるまで、それから2~3分。


「あのなぁヒメ様。この量だと、桃の木1本分だぞ?」

「そんなに要らないよ」

「そう言われてもなぁ……」

「あ、それとね」

「なんだ?」


「収穫するヒメリュウ・ポテトなんだけど」

「おう?」

「バター200gで、ヒメリュウ・ポテト15キロと交換だって。どう?」


「えーと? いまなんつった?」


「バター200gで、ヒメ……」

「そこでストップだ。バター何グラムだって?」

「200g」


「姫竜・ポテトってのはなにか。実は女王様に献上する高級イモなのか?」

「ただのイモだよ」


「前に言った気がするが、バターってのは片道6日かけて街まで行って、大金をはたいて買ってくる『お宝』みてぇな食材だ」


「おたから?」


「蜂蜜も含めてな、そんな高級食材をパンだのイモだのにつけて食べる酔狂なやつだって、この村にゃひとりもいねぇよ」

「えー、おいしいのに」


「んまぁ……とにかくな、俺たちの手には負えねぇ相談だ」

「えーっ、なんか難しく考えすぎじゃない?」

「……そうかぁ?」

「そうだよ」


「いやしかし、バター200gだろ? この畑っつーより、村の事件だぜ。いちど酒場のマスターと相談してからでいいか?」

「マスターに?」


「あいつは、この村の村長みてぇなもんだからな。うまくやってくれんだろ」

「ふーん」

「バター200gは、銀貨1枚くらい価値がある。そんなもん家においといたら、いつ強盗に襲われるかもわかんねぇ」

「あはは、考えすぎだよ」



「まぁいいか。それは先の話だ。蜂蜜はどうしたらいい」

「じゃあ、モモ20個で」

「ヒメ様よう。モモの木1本分って、100個以上だぞ?」


「そんなに持って帰れるわけないし、村のひとが食べる分がなくなっちゃうよ」

「そこまで考えてくれるのはうれしいけど……こまったなぁ」


「今日は8割引きにまけとく。これからよろしくねコンフィ」


「そうかぁ? じゃあとりあえず移し変えて瓶は返すから、ちょっとまってろ。あと俺は、レクサムだ」

「瓶もあげるよ、レクサム」


「……ヒメ様」

「うん?」

「村人にとってはすぐに壊れだけのガラクタだが、街にもってったらこの瓶の価値は、中身の蜂蜜の比じゃねぇぞ」


 ああもう。



 なんだか、めんどくさーい。



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