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『あの世界』の常識に巻き込まれていく話  作者: 渡しログ
カラフルな『あの世界』
531/562

6.5.19


 翌朝。

 おやしろで目を覚まし、噴水広場へ。


 目の前に大きなシカのお尻。

 シカを背負うタデクと鉢合わせた。

 最初はなにを背負っているのか、わからなかった。


 シカのお尻は、タデクの頭の後ろ。

 両方の後ろ脚を肩に引っ搔けて、背中に背負っていた。

 タデクの身長とほとんどかわらない、巨大な体躯のシカ。


「すっごぃ……それ食べるの?」

「ああ、ミキ。フリッツに獲ってこいって言われたから、獲ってきたよ」

 立ち止まって振り向いたタデクが、全体的に、土で汚れている。

「どうやって捕まえたのそれ」

「仕掛けた罠に誘い込んで、最後は飛びかかって絞め殺した」

「……えぇ」


 ワイルドすぎる……


「重くない?」

「重いにきまってんだろ。背が縮みそうだ」

「何キロくらいあるの?」

「しらねぇよ」


「150キロ近くありそうですね」

「あ、ミシェルだ。おはよう」

「おはようございます」

「ミシェルもメモリア行くんだね」

「そりゃ行きますよ。ボクのメモリアは結構特殊らしくて、シェフ専用? らしいです」

「ふーん? なんで?」

「すごく寒いんです。夜は氷点下で、昼間も野外では、コートを着てないと凍えてしまいます」

「えー、やだね、寒いのは」

「他のメモリアは知らないので、ボクにとっては普通ですけど」

「でも、それがなんでシェフ専用?」

「冷蔵庫になるからだそうです」


 ミシェルが両手をあげると、右手にカゴ。左手にはズタ袋。

 カゴの中には、トゲトゲしいヒレ。

 それが背中にくっついた魚が、たくさん入っている。

 どれも、コチコチに凍っているみたい。


「うわー、お魚」

 タデクもカゴの中に視線を向けた。

「パーチか」

「はい。今日のまかないにしようと思ってもってきました。お昼か夜に食べましょう」

「そんなお魚、日本では、みたことないかも」

「そうか。庶民の魚だと思うが、臭みがなくてうまいぞ」


「タデク様、このアカシカ……外傷がまったくありませんね。これは調理しがいがありますよ」

「調理はいいが、解体はダレがやるんだミシェル」

「ボクができるのは、部位の切り分けからで、皮剥ぎと血抜きは専門外ですね」

「……なら、そこまではオレがやるか」

「やっていただけると、助かります」


「タデクすごいね。それも騎士の心得?」

「まぁ……没落騎士家系の心得だな」



 拠点につくと、タデクとミシェルは、シカの解体を始めた。

 ごめんなさい。

 現代人の娘っ子のわたしには、見るのツライので離れます。



 朝食を用意したのは、パティシエールのハンナ。


 ライ麦の小さなパンケーキ。

 スライスした焼きリンゴ。

 そしてなんと……


 もしかして、これコーヒー?

 ニフィル・ロードで飲む、初めてのコーヒー。

 アンディーブの根を焙煎したコーヒーらしい。

 かなり苦いので、わたしはミルクをたっぷり入れて飲んだ。


 そのコーヒーも含め、全体的に、お店で食べるモーニング。

 でも、パンケーキはふわふわだけど、期待したほど甘くない。


「ねぇ、みきちゃんおいしい?」

 ハンナちゃんも、隣で同じ朝食を食べている。

「えっ」


 エレメント・ノードで、ちゃん付けで呼ばれるの、ひさしぶり。

 ドイツ語なので、ちゃんじゃなくて、ヒェンだけど。

 だから、わたしも、ハンナちゃんて呼ぶことにした。


「ハンナちゃんも、すごいね。パンケーキも、リンゴもレストランで食べるみたい」

「そりゃそうだよ。だってレストランのパティシエールだもん」

「あ、そっか……」

「あっはは。なに言ってんのみきちゃん。あははは」

「でもね、もっと甘くてもいいかも……なんて」

「だよねー。支配人とかミシェルとかがさ、おじさんでしょ。だから朝から甘くしすぎると怒るんだよね」

「ああ、なるほど」

「だからね。もっと蜂蜜かけていいよ。お野菜にソースかけるのといっしょ。パンケーキには蜂蜜かけなきゃね」


 言いながら、ハンナちゃんが、ドバドバと蜂蜜をかけていく。

 さすがにそれは、かけ過ぎ。


「なんかねー、ディナーのデザート考えてるんだけど、チョコもないし、チーズも貴重みたいだし。フルーツもね、いまはリンゴと洋ナシとベリーしかないんだって」


「リンゴでいいじゃん。みきは、リンゴ好きだよ」

「でもね、リンゴはソースかワインに使うかもしれないから、味がかぶるんだよねー」


「ふーん。みきのメモリアに、モモあったけど。貰ってこようか」

「え、ホント? モモ食べたい。貰ってきてー」

「どのくらい貰ってきたらいい?」

「うーん、10個くらい?」

「10個かぁ。なにと交換したらいいかな」

「交換かぁ。じゃあ、これは? まだ300gくらい入ってるよ」


 テーブルに置いてある瓶に入った蜂蜜。


「瓶ごともってっちゃっていいよ。いっぱいあるから」

「うわぁ……村のヒト、喜ぶかも」

「村? 蜂蜜ないの?」

「まだ見たことないかも」

「ハチに刺されると痛いもんね。泣いちゃうよね」

「じゃあこれ貰っていい?」

「いいよー。モモよろしく!」

「うん!」



 朝食を食べ終えてから、フリッツに尋ねた。

「ねぇ、フリッツ」

「ウィ、マドモワゼル?」

「みきのマントとかは?」

「こちらで保管しております。お着替えなさいますか?」

「うん。メモリア行くから」

「かしこまりました。クララ」


 そして、クララとふたりで、噴水広場へ。

 服はクララが、メモリアに保管してくれていた。


 それを受け取っておやしろに戻り、いつもの冒険者スタイルに着替えた。

 なんか、クリーニングしたみたいな肌ざわり。

 獣臭くもないし、タンポポみたいな匂いがする。


 ドレスは、皺にならないようにハンガースタンドへ。

 手にはレクサムコンフィから借りていた亜麻布の包み。


 中身は、蜂蜜の入った瓶。

 ついでに、残り物だからと、クララからもらったライ麦パンのスライス。

 それを5切れ入れた。


 おやしろを出ると、お昼になりかけていた。



 まずは酒場へ。



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