6.5.19
翌朝。
おやしろで目を覚まし、噴水広場へ。
目の前に大きなシカのお尻。
シカを背負うタデクと鉢合わせた。
最初はなにを背負っているのか、わからなかった。
シカのお尻は、タデクの頭の後ろ。
両方の後ろ脚を肩に引っ搔けて、背中に背負っていた。
タデクの身長とほとんどかわらない、巨大な体躯のシカ。
「すっごぃ……それ食べるの?」
「ああ、ミキ。フリッツに獲ってこいって言われたから、獲ってきたよ」
立ち止まって振り向いたタデクが、全体的に、土で汚れている。
「どうやって捕まえたのそれ」
「仕掛けた罠に誘い込んで、最後は飛びかかって絞め殺した」
「……えぇ」
ワイルドすぎる……
「重くない?」
「重いにきまってんだろ。背が縮みそうだ」
「何キロくらいあるの?」
「しらねぇよ」
「150キロ近くありそうですね」
「あ、ミシェルだ。おはよう」
「おはようございます」
「ミシェルもメモリア行くんだね」
「そりゃ行きますよ。ボクのメモリアは結構特殊らしくて、シェフ専用? らしいです」
「ふーん? なんで?」
「すごく寒いんです。夜は氷点下で、昼間も野外では、コートを着てないと凍えてしまいます」
「えー、やだね、寒いのは」
「他のメモリアは知らないので、ボクにとっては普通ですけど」
「でも、それがなんでシェフ専用?」
「冷蔵庫になるからだそうです」
ミシェルが両手をあげると、右手にカゴ。左手にはズタ袋。
カゴの中には、トゲトゲしいヒレ。
それが背中にくっついた魚が、たくさん入っている。
どれも、コチコチに凍っているみたい。
「うわー、お魚」
タデクもカゴの中に視線を向けた。
「パーチか」
「はい。今日のまかないにしようと思ってもってきました。お昼か夜に食べましょう」
「そんなお魚、日本では、みたことないかも」
「そうか。庶民の魚だと思うが、臭みがなくてうまいぞ」
「タデク様、このアカシカ……外傷がまったくありませんね。これは調理しがいがありますよ」
「調理はいいが、解体はダレがやるんだミシェル」
「ボクができるのは、部位の切り分けからで、皮剥ぎと血抜きは専門外ですね」
「……なら、そこまではオレがやるか」
「やっていただけると、助かります」
「タデクすごいね。それも騎士の心得?」
「まぁ……没落騎士家系の心得だな」
拠点につくと、タデクとミシェルは、シカの解体を始めた。
ごめんなさい。
現代人の娘っ子のわたしには、見るのツライので離れます。
朝食を用意したのは、パティシエールのハンナ。
ライ麦の小さなパンケーキ。
スライスした焼きリンゴ。
そしてなんと……
もしかして、これコーヒー?
ニフィル・ロードで飲む、初めてのコーヒー。
アンディーブの根を焙煎したコーヒーらしい。
かなり苦いので、わたしはミルクをたっぷり入れて飲んだ。
そのコーヒーも含め、全体的に、お店で食べるモーニング。
でも、パンケーキはふわふわだけど、期待したほど甘くない。
「ねぇ、みきちゃんおいしい?」
ハンナちゃんも、隣で同じ朝食を食べている。
「えっ」
エレメント・ノードで、ちゃん付けで呼ばれるの、ひさしぶり。
ドイツ語なので、ちゃんじゃなくて、ヒェンだけど。
だから、わたしも、ハンナちゃんて呼ぶことにした。
「ハンナちゃんも、すごいね。パンケーキも、リンゴもレストランで食べるみたい」
「そりゃそうだよ。だってレストランのパティシエールだもん」
「あ、そっか……」
「あっはは。なに言ってんのみきちゃん。あははは」
「でもね、もっと甘くてもいいかも……なんて」
「だよねー。支配人とかミシェルとかがさ、おじさんでしょ。だから朝から甘くしすぎると怒るんだよね」
「ああ、なるほど」
「だからね。もっと蜂蜜かけていいよ。お野菜にソースかけるのといっしょ。パンケーキには蜂蜜かけなきゃね」
言いながら、ハンナちゃんが、ドバドバと蜂蜜をかけていく。
さすがにそれは、かけ過ぎ。
「なんかねー、ディナーのデザート考えてるんだけど、チョコもないし、チーズも貴重みたいだし。フルーツもね、いまはリンゴと洋ナシとベリーしかないんだって」
「リンゴでいいじゃん。みきは、リンゴ好きだよ」
「でもね、リンゴはソースかワインに使うかもしれないから、味がかぶるんだよねー」
「ふーん。みきのメモリアに、モモあったけど。貰ってこようか」
「え、ホント? モモ食べたい。貰ってきてー」
「どのくらい貰ってきたらいい?」
「うーん、10個くらい?」
「10個かぁ。なにと交換したらいいかな」
「交換かぁ。じゃあ、これは? まだ300gくらい入ってるよ」
テーブルに置いてある瓶に入った蜂蜜。
「瓶ごともってっちゃっていいよ。いっぱいあるから」
「うわぁ……村のヒト、喜ぶかも」
「村? 蜂蜜ないの?」
「まだ見たことないかも」
「ハチに刺されると痛いもんね。泣いちゃうよね」
「じゃあこれ貰っていい?」
「いいよー。モモよろしく!」
「うん!」
朝食を食べ終えてから、フリッツに尋ねた。
「ねぇ、フリッツ」
「ウィ、マドモワゼル?」
「みきのマントとかは?」
「こちらで保管しております。お着替えなさいますか?」
「うん。メモリア行くから」
「かしこまりました。クララ」
そして、クララとふたりで、噴水広場へ。
服はクララが、メモリアに保管してくれていた。
それを受け取っておやしろに戻り、いつもの冒険者スタイルに着替えた。
なんか、クリーニングしたみたいな肌ざわり。
獣臭くもないし、タンポポみたいな匂いがする。
ドレスは、皺にならないようにハンガースタンドへ。
手にはレクサムコンフィから借りていた亜麻布の包み。
中身は、蜂蜜の入った瓶。
ついでに、残り物だからと、クララからもらったライ麦パンのスライス。
それを5切れ入れた。
おやしろを出ると、お昼になりかけていた。
まずは酒場へ。




