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『あの世界』の常識に巻き込まれていく話  作者: 渡しログ
カラフルな『あの世界』
530/555

6.5.18


 2回目の、ヒメリュウ・ポテト試食会。


 試食するのは、4人。

 わたしと、フリッツ。

 そして、ディルとルシア。


 お皿は、ミシェルとハンナが運んだ。

 ミシェルが最初に運んだのは、木をくりぬいたような、カップケーキサイズのココット皿。

 それを4つ、それぞれの前に置いていく。


「本日は、ディップソースでお楽しみください」


 ココット皿の中は、乳白色のソース……?

 クリームチーズのような見た目の、ねっとりとしたピュレ。


 のぞき込むフリッツが言った。

「このソースが、あのポテトなのでしょうか?」


「はい、支配人。いちど乾燥させて砕いたポテトニョッキを、タイムを浸した湯でムースに戻し、バター、ミルク、それと塩で味付けしました」

「ほう」

「ソース・クレムーズ・ド・ヒメリュウ・ポム、とでも呼びましょうか」


 そのまま訳すと、ヒメリュウ・リンゴのクリームソース。

 やっぱ、リンゴなんだね。

 見た目は、デザートみたいで甘そう。


「いい香りですわね」

「どうやって食べたらいいのかな」

「ディップだから、なにかにつけて食べるんじゃない?」


 ハンナが歩み寄る。

「こちらにつけて、お召しあがりくださーい」


 皿は2枚。

 乗せられているのは温野菜。

 アンディーブ、カブ、ラディッシュ、キャベツ。

 どれも、ひと口サイズで食べやすいように切り分けられている。


 入れ替わりで、ミシェルがバスケットを運ぶ。

「こちらも試してみてください」

 スライスされた、やわらかそうなライ麦パンが入っていた。

「本日は、ソースのお味を確認してただきたいので、サラダは蒸しただけで、味付けはしておりません」


 ハンナがフォークを並べていると、最後にクララ。


 大工さんに作ってもらったのかな。

 木製のカートをゴロゴロと転がしてくる。

 台も手すりも、車輪も木製。

 カートの上には、ティーポットが1つと、ティーカップが4つ。

 カップは陶器やガラスではなく、木でできていた。


「スィートバジルティーをお持ちしました」

 クララが、木のカップに注いでいく。

 ほんわかとした香りが、テーブルの周囲に広がっていく。


「それではいただきましょう」


 フリッツの声で、試食会が始まった。

 フリッツは最初に、バジルティーを口につける。

 ルシアはアンディーブ。

 ディルは、まっさきにパンをちぎり、ソースを付けた。

 ディルって、パンが好きなのかな。


 わたしはラディッシュをフォークに刺して、ソースの山を撫でる。

 香ってくるのは、バターと牛乳。

 思い浮かぶのは、濃厚そうなクリームの味。


 口に入れるとまったく違うものだった。

 シャキシャキのラディッシュにつけたソースの味は、煮込んだポテトのジャガバター。

 そして、時間差で立ち上がる、バターに包まれたワサビの刺激。


 子供っぽい味の中に、最後にちょっぴりの大人の風味。

 それが温野菜に合う。とても合う。

 言うなればこれは、野菜につけて食べる、ワサビグラタン。


「なるほど……」

 フリッツから最初の感想。

「まだ、改良の余地はあると思いますが。野菜だけでなく、肉料理にも、魚料理にも合いそうですね」


 厳しい……フリッツは厳しい。


「パンにもとてもあいますわね。グラタンのようなのに、最後のツンとしたフレンチの風味から、洗練された高級感を感じますわね」


「普通のポテトでこの風味は出せません。この素材の強みですね」


 ひとりだけ、もりもりと食べ進めていたルシアが言った。

「このポテトって、ミキが品種改良したんでしょ? どんな作物?」

「ヒメリュウキンカって言うんだど、ドイツ語でなんて言うんだろ」


「どんな作物なのでしょうか?」

「うーん、こんど持ってくるね。毒の強いタンポポみたいなお花」


「マドモワゼル」

「うん?」

「正式に仕入れ契約を結ぶとしたら。お支払いはどのようになるのでしょうか?」

「うーん……」

「農家のかたとは、どのようなお話を?」

「えーとね」


 わたしは、レクサムコンフィの畑についてフリッツに説明した。

 それと、村の食糧にもしたいこと。酒場にも卸してあげたいこと。

 ついでに見込みだけど、2ヶ月後、3カ月後の収穫量も。


「バターが貴重だって言ってたから、バターと交換してあげてもいい?」


 この提案には、わたしの個人的な願いも含まれている。

 村のみんなにも、ジャガバターを食べてほしい。


「ふむ。物々交換ですか。フリッツ」

「ウィ、ムッシュ」


 フリッツとミシェルが相談を始めた。

 気がつくとルシアのココット皿は、すでにカラ。


「すごいわミキ。フレンチの専門家に認められたわよ」

「すごのはミシェルだと思うけど」


「それでは、マドモワゼル」

「はい」

「バター200gで、ヒメリュウ・ポテト15キロ。まずはこれで交渉を始めていただけますか」

「わかった。それって高いのかな」

「お互いに入手困難な食材を考慮しても、ヒメリュウ・ポテトの栽培のしやすさを考えると、このくらいが妥当かと考えます」


「こっちで栽培することもできると思うけど」

「それはヤメておきましょう」

「どうして?」

「栽培するとなると、どうしても土地と人件費がかかりますし。なにより、ヒメリュウ・ポテトの希少性が失われる可能性もありますので、メモリアからの持ち込みは避けたほうがよろしいでしょう。15キロをバター200gで交換するほうが簡単で効果的です」


「そっか。15キロって何個くらかな」

「150個くらいですかね」


 なるほど……

 それは、個人の家庭菜園で栽培する数じゃないね……

 レクサムコンフィの畑で作ってもらったほうがいい。


 でも、バター200gで、150個かぁ。

 ジャガバターにする量とは、吊り合わない。


 バターって高級なんだね。



 とにかく、レクサムコンフィに相談してみよ。




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