6.5.18
2回目の、ヒメリュウ・ポテト試食会。
試食するのは、4人。
わたしと、フリッツ。
そして、ディルとルシア。
お皿は、ミシェルとハンナが運んだ。
ミシェルが最初に運んだのは、木をくりぬいたような、カップケーキサイズのココット皿。
それを4つ、それぞれの前に置いていく。
「本日は、ディップソースでお楽しみください」
ココット皿の中は、乳白色のソース……?
クリームチーズのような見た目の、ねっとりとしたピュレ。
のぞき込むフリッツが言った。
「このソースが、あのポテトなのでしょうか?」
「はい、支配人。いちど乾燥させて砕いたポテトニョッキを、タイムを浸した湯でムースに戻し、バター、ミルク、それと塩で味付けしました」
「ほう」
「ソース・クレムーズ・ド・ヒメリュウ・ポム、とでも呼びましょうか」
そのまま訳すと、ヒメリュウ・リンゴのクリームソース。
やっぱ、リンゴなんだね。
見た目は、デザートみたいで甘そう。
「いい香りですわね」
「どうやって食べたらいいのかな」
「ディップだから、なにかにつけて食べるんじゃない?」
ハンナが歩み寄る。
「こちらにつけて、お召しあがりくださーい」
皿は2枚。
乗せられているのは温野菜。
アンディーブ、カブ、ラディッシュ、キャベツ。
どれも、ひと口サイズで食べやすいように切り分けられている。
入れ替わりで、ミシェルがバスケットを運ぶ。
「こちらも試してみてください」
スライスされた、やわらかそうなライ麦パンが入っていた。
「本日は、ソースのお味を確認してただきたいので、サラダは蒸しただけで、味付けはしておりません」
ハンナがフォークを並べていると、最後にクララ。
大工さんに作ってもらったのかな。
木製のカートをゴロゴロと転がしてくる。
台も手すりも、車輪も木製。
カートの上には、ティーポットが1つと、ティーカップが4つ。
カップは陶器やガラスではなく、木でできていた。
「スィートバジルティーをお持ちしました」
クララが、木のカップに注いでいく。
ほんわかとした香りが、テーブルの周囲に広がっていく。
「それではいただきましょう」
フリッツの声で、試食会が始まった。
フリッツは最初に、バジルティーを口につける。
ルシアはアンディーブ。
ディルは、まっさきにパンをちぎり、ソースを付けた。
ディルって、パンが好きなのかな。
わたしはラディッシュをフォークに刺して、ソースの山を撫でる。
香ってくるのは、バターと牛乳。
思い浮かぶのは、濃厚そうなクリームの味。
口に入れるとまったく違うものだった。
シャキシャキのラディッシュにつけたソースの味は、煮込んだポテトのジャガバター。
そして、時間差で立ち上がる、バターに包まれたワサビの刺激。
子供っぽい味の中に、最後にちょっぴりの大人の風味。
それが温野菜に合う。とても合う。
言うなればこれは、野菜につけて食べる、ワサビグラタン。
「なるほど……」
フリッツから最初の感想。
「まだ、改良の余地はあると思いますが。野菜だけでなく、肉料理にも、魚料理にも合いそうですね」
厳しい……フリッツは厳しい。
「パンにもとてもあいますわね。グラタンのようなのに、最後のツンとしたフレンチの風味から、洗練された高級感を感じますわね」
「普通のポテトでこの風味は出せません。この素材の強みですね」
ひとりだけ、もりもりと食べ進めていたルシアが言った。
「このポテトって、ミキが品種改良したんでしょ? どんな作物?」
「ヒメリュウキンカって言うんだど、ドイツ語でなんて言うんだろ」
「どんな作物なのでしょうか?」
「うーん、こんど持ってくるね。毒の強いタンポポみたいなお花」
「マドモワゼル」
「うん?」
「正式に仕入れ契約を結ぶとしたら。お支払いはどのようになるのでしょうか?」
「うーん……」
「農家のかたとは、どのようなお話を?」
「えーとね」
わたしは、レクサムコンフィの畑についてフリッツに説明した。
それと、村の食糧にもしたいこと。酒場にも卸してあげたいこと。
ついでに見込みだけど、2ヶ月後、3カ月後の収穫量も。
「バターが貴重だって言ってたから、バターと交換してあげてもいい?」
この提案には、わたしの個人的な願いも含まれている。
村のみんなにも、ジャガバターを食べてほしい。
「ふむ。物々交換ですか。フリッツ」
「ウィ、ムッシュ」
フリッツとミシェルが相談を始めた。
気がつくとルシアのココット皿は、すでにカラ。
「すごいわミキ。フレンチの専門家に認められたわよ」
「すごのはミシェルだと思うけど」
「それでは、マドモワゼル」
「はい」
「バター200gで、ヒメリュウ・ポテト15キロ。まずはこれで交渉を始めていただけますか」
「わかった。それって高いのかな」
「お互いに入手困難な食材を考慮しても、ヒメリュウ・ポテトの栽培のしやすさを考えると、このくらいが妥当かと考えます」
「こっちで栽培することもできると思うけど」
「それはヤメておきましょう」
「どうして?」
「栽培するとなると、どうしても土地と人件費がかかりますし。なにより、ヒメリュウ・ポテトの希少性が失われる可能性もありますので、メモリアからの持ち込みは避けたほうがよろしいでしょう。15キロをバター200gで交換するほうが簡単で効果的です」
「そっか。15キロって何個くらかな」
「150個くらいですかね」
なるほど……
それは、個人の家庭菜園で栽培する数じゃないね……
レクサムコンフィの畑で作ってもらったほうがいい。
でも、バター200gで、150個かぁ。
ジャガバターにする量とは、吊り合わない。
バターって高級なんだね。
とにかく、レクサムコンフィに相談してみよ。




