↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『あの世界』の常識に巻き込まれていく話  作者: 渡しログ
カラフルな『あの世界』
529/555

6.5.17


 タデクに文句を言われながら、ルシアが戻った。


「なんだよ……今日はオレ、忙しいんだよ」

「ちょっとだけよ。ねぇ、ピーエル、ちょっといいかしら?」

「うん……なに?」


「なんだアイツは……生きてるのか死んでるのか、どっちだ?」

「タデク、画家先生になんてこと言うのよ。とりあえずここに立って。ミキの右後ろよ」


「ああ?」

「そう、そこ。オッケ。ピーエル」

「うん?」


「この絵に描くのは、3人よ」

「ええ……ええええ……」


「なによ、またできないって言うの?」

「言ったよね……ボク、人物描くの苦手って」

「ヒトじゃないわ」

「でも、どうもみても、ヒトだよあれ……しかも怖い……」

「これから描くのはね、ヒトじゃないわ。わからないと嘆いている家族の光。さぁ、乗り越えなさい!」


「……家族……ひかり……」


 ルシアは、わたしの左後ろに立った。

「やっぱり、フォリオ・ノーメルシは、この3人じゃない? ミキ?」

「うん、そうだね」


「タデクは……いいわ、その無表情で」

「なんなんだ。もう戻っていいか?」

「だめよ。あなたも騎士の端くれ、貴族の末裔なら、肖像画くらい残しなさい」


「肖像画?」

「とにかく、5分くらいでいいから、我慢して」

「……座っててもいいのか」

「だめよ。あそこにいる、ネクラなピエールの動きを観察してて」

「だから、ダレなんだよアイツは」

「画家のピエールだって言ってるでしょ。きっと将来、大物になるわ」

「大物……ねぇ。なんだあの目つきは。へんなハッパでも燃やしちまったのか」



「あの……」

「なに、ピエール。どうしたの?」

「後ろのふたりの視線は、ボクじゃなくて……彼女に」


「だってさ、タデク。家族らしくして」

「酔っ払いの姉に、魔女の妹かよ。次男は苦労が絶えないな」

「あとで、美味しいワイン持ってきてあげるから」

「なら次は、甘くないやつにしてれ」

「あら、甘いの苦手なの?」

「苦手っていうか……めったに口にしないから、舌がおいつかん」

「へぇ」

「で、嬢ちゃんはさっきからどこ見てるんだ」


「うん。雲みててって言われた」

「雲?」



「あ……ソレ! 最高! 描けそう!」

 普通の声音だけど、今日聞いた中では、ピエールのいちばんの大声。


「……なんなんだアイツは。殴っていいか?」

「そんなことしたら、お姉ちゃん、ガチで怒るからね」

「へいへい……すいませんでした」



 それから、数分後。

 もういいというので、姿勢を崩した。

 タデクはこれから、メモリアに泊まり込むからと言って、その場を離れた。

 野鳥を捕まえに行くらしい。



 わたしと、ルシアは、ピーエルの絵を見せてもらう。

 炭を擦っただけの線画だった。

 まだ、これからのようだ。

 わたしが見ても、なんにもわかんない。


「もう座らなくていいの?」

「ボクはね……奇跡が使える。ふたつ」

「へー。どんな?」


「描いている絵の最高の瞬間を……呼び起せる。いつでも」

「ふーん」


 写真みたいに、見えてるってことかな。


「あとひとつは?」

「絵の具」

「絵の具……って?」

「花や植物、木でも石でもいい。水をその色に変えることができる。青が欲しかったら、ソラ沈めれば青になる」


「へー。なんか、ステキ」

「この世界にいれば……ボクは何時間でも絵が描ける」


「ふーん」



「マドモワゼル?」

「うん?」


 フリッツが立っていた。


「ヒメリュウ・ポテトの試食会の準備が整いつつあります。お時間のほうはいかがでございましょか」


「あ、うん。ピーエル、もういいの」

「うん……あとは、ボクだけで描ける」

「描き終わるのはいつ?」

「いつまであるの……時間」

「うーん……」



「ほう、いまだ下絵のようですが、コレはなかなか……」

「え、わかるのフリッツ?」

「この段階ではまだ、評価は下せませんが、描こうとしている人物がダレなのか……輪郭しかありませんが、妙な説得力を感じます」


「ッフッフッフ。さすがフリッツね。この才能に気がつくとは」

 ルシアのあからさまな演技っぽい笑い。


「まだ評価を下せるとは、申し上げておりませんが」


「ピエール」

「うん?」

「お腹空いてる?」

「……いまは、絵を描きたい」

「そう。あとでなにかもってくるわね」

「……」


 ピエールがイーゼルに向かい、木炭を掴んだ手を動かしている。


 わたしたちは、その場を離れた。


「何者ですか? あの男は?」

「昨日、評議会の外れで拾った、画家よ」

「ほう」

「お店にも、必要でしょ? 絵画」

「それはまぁ。傑作限定となりますが」

「私にはわかるの。ピエールは虚無の底に沈んだ天才。いずれ傑作を生み出すわ」


「なるほど。では私も、楽しみにしておきましょう」



 ふーん……

 どんな絵を描いてくれるのかな。



 あ、椅子忘れた。


「フリッツ」

「ウィ、マドモワゼル?」

「椅子、とってくる」


「……私がお運びしますので、マドモワゼルは、どうかお先に」



 ……ゴメン。

 ほんとにゴメン……





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。