6.5.15 - パティシエール
結局、ドレスは着たまま。
ルシアに明日も着てくるようにと、念を押されてから、おやしろに戻った。
肌着だけで、ベッドに横になる。
ハンガースタンドがあるので、ドレスとケープはそこに掛けた。
掃除してあるので、おやしろの中に関しては、わりと清潔だ。
それにしても。
今日も、めちゃくちゃ疲れた。
カラダではなく、精神が……
翌朝。
日が昇りきってから、噴水広場へ。
ドレスを着ているからといって、特に注目されることはない。
色が地味だし、もっと派手な格好のヒトも、ちらほらいる。
パンとスープの朝食を食べてから、ルシアが出かけた。
評議会の敷地へ行って、画家さんを連れてくるという。
わたしは、ミシェルのところへ。
実は、ヒメリュウ・ポテトの試食会も今日のお昼。
だから、ちょっと楽しみにしている。
ヒメリュウ・ポテトは、乾燥して粉々になっていた。
似ているのは色味だけで、それを見てもヒメリュウポテトだとは思えない。
「マドモワゼル」
「うん?」
「これは、なんという作物なのですか?」
「あ、言ってなかったんだ。ヒメリュウ・ポテトだけど……なんて名前にしたい?」
「え、ボクですか?」
「みきがね、てきとーにつけた名前だし」
「そうですねぇ……マスタードリンゴ、なんてどうでしょう」
「うわぁ……食べたくない……」
「辛みのあるリンゴ……だと思うのですが……」
「ヒメリュウ・ポテトでいいや」
「ウィ、マドモワゼル」
「どうやって使うのその粒」
「今回は、量がありませんので、ディップソースにしようかと」
「ふーん。この粒がソースになるの?」
「はい。水分を加えて、もういちどムース状に戻します」
「へー。戻せるんだ」
「その後で、バター、ミルク、塩を加えて、フレンチ仕立てのソースに仕上げようと思います」
「ふーん」
どうなるんだろう……
「ミシェル、ちょっとよろしいですか」
「支配人。おや、ハンナ。来てくれたんだね」
「ハンナ?」
顔を向けるとフリッツがいた。
クララもいる。その隣に、コックコートを着た白人女性がひとり。
比較的、背が低いが、わたしよりは高い。
年齢は、クララと同い年くらいにみえる。
「マドモワゼルも、お時間ありましたら」
「うん?」
フリッツが、後ろの女性に左手を向けてから言った。
「新たに合流いたしました。パティシエールを紹介いたします」
ヘアスタイルは、栗色のショートボブ。
「ハンナ・マイヤーです! クララと幼馴染でぇ、甘いものが大好きです! よろしくお願いします!」
ボブの毛先を揺らしながら、ハンナがちょこんと頭を下げた。
わたしよりだいぶ年上……だけど、なに、カワイイ。
クララは美人7割だけど、ハンナはカワイイが8割だ。
「うわぁ。みきです。甘いもの大好きです!」
「あはっ、いっしょですね。ヤッター」
フリッツのあきれた表情。
「ハンナ……」
「あ、ごめんなさい。支配人。えっと、マドモワゼル? てへへ」
やっとだ。
フリッツがやっと、話しの合いそうなスタッフを連れてきた。
「みきさんはぁ、どんなデザートが好きですか?」
「えー、うーんと……ケーキとか?」
「ケーキって、いっぱいありますよぉ。クリーム? チョコ? チーズ?」
「チョコなんて、手に入るの?」
「うーん。支配人、手に入る?」
「ムリですね。それより、ハンナ。ひとまず今日からミシェルを手伝ってください」
「はぁーい。ミシェルぅ。なにしてんの?」
ミシェルも、ちょっとめんどくさそうな顔。
「ハンナ。ここではシェフと呼んで欲しいんだけど」
「えっ、ウソ? ミシェルが? あ、じゃあ、あたしは、シェフパティシエールでいい?」
「それは、好きにしたらいいんじゃないかな……」
フリッツの声。
「マドモワゼル」
「はい」
「アレでも、腕は一流です。どうかご安心を」
「うん!」
「ミキー!」
ルシアの声。
視線を向けると、ルシアの隣に、見知らぬヒト影。
なに……?
薄汚れて、ボロボロのローブを着た男性。
左脇には木でできた折り畳み椅子?
右脇にはカラフルな板のようなものを抱え、手にはスーツケースのような木箱。
えっと……ホームレス?
仮想世界なのに。どこで拾ってきたの。
って、いまは、みんなホームレスか。
じゃあ、普通なのか……な……
なんだろう、このヒトのオーラ。
ただ佇んでいるだけなのに、いろんなものが飛び回っているような。
ルシアが連れて来たヒトの印象は、そんな感じだった。




