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『あの世界』の常識に巻き込まれていく話  作者: 渡しログ
カラフルな『あの世界』
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6.5.14 - 古代のネギ(リーキ)アレルギー


 陽が落ちたころ。



 ディルとふたりで夕食を食べる。

 ミシェルが作ったホワイトシチュー。

 それと、ライ麦のパン。


 すごく……美味しい。


 ハーブの香りが広がるウインナー。

 トロトロのキャベツに、シャクシャクのカブ。

 バターが染み込んだホロホロのニンジン。


 まかない料理だと念を押されたが、家で食べるシチューとは比較の対象にならない。


 ミシェルは、フリッツ、クララと焚火を囲んで、打合せを続けている。

 専門家が知恵を絞る、5日後のディナー。

 いったいどうなるのか。実は、ちょっと期待している。



「ミキさん、とっても素敵ですわ」

 さっきから、ディルはそればっかり。


 わたしは、まだ紺色のロングドレスを着ている。

 このドレスを着ていると、地面どころか、下手な場所に座ることもできない。

 ここには、暇さえあればフリッツが拭き掃除をしている、アンティークチェアがあるので座れる。

 でも、ホコリ塗れのメモリアには着ていけない。

 だから、食事が終わったら、着替えるつもりでいた。


「わたくしの衣装も、フリッツに頼んでみようかしら」


 ディルは、ご飯のときくらいしか、外に出てこない。

 石板解読オタクのディルに、ドレスは必要なのだろうか。



「ミキー!」

「あ、ルシア」


 暗闇から、ルシアが駆け込んでくる。

 やっと帰ってきた。


「先に帰っちゃうなんて、ヒドイわミキ」

「えー、もう、ルシアはこんな時間までなにしてたの?」


「ミキのために、私はガンバッたわ」

「なにを?」

「絵を描いてもらうわ」

「なんの絵?」

「ミキの晴れ姿にきまってるじゃない」

「晴れ姿?」

「だから、明日もここに来てくれなきゃ、私は泣くわよ」

「うーん……わかった。ダレに描いてもらうの?」

「今日知り合った、ネクラそうなフランス人よ」

「ふーん」



「ちなみに、ディル」

「はい?」

「転写魔法って、絵の転写はできないの?」

「わたくしが転写できるのは、わたくしが文字だと認識したものだけですわ」

「そうなの。じゃあ、絵のコピーは作れないのね」

「文字だと認識さえできれば。たとえば、こんなのがありますわ」


 ディルが、白いハンカチを取り出した。

 目を閉じると、そのハンカチが歪む。


 ハンカチの白は完全に失われ、生地の隅々まで、カラフルな象形模様に変わってしまった。


「うわっ、すご……なにこれ? これも文字?」

「実はこれ、絨毯の模様なのですわ」

「え?」

「小さい頃からずっと眺めていた絨毯なのですけど。ある日、これは文字だと気がついたのです」

「で……文字だったの?」

「ええ。紐の結び目や位置、色、形などで、意図が表現されていることを発見しました。ですから、この絵柄は、文字ですわ」


「すごいわね。なんて書かれてるの?」

「獅子肉、根菜、ハーブ。それらの種類と分量でした」

「えっと? なにそれ?」

「おそらく、食事のレシピですわね」

「そんなものを、わざわざ絨毯に?」

「くだらないでしょ。わたしも最初は、がっかりしたのですけど。実は、もう1枚ありまして……ハンカチありません?」


 ルシアが、焚火の方へと顔を向けた。

「フリッツ」

「ウィ?」

 突然呼ばれて、迷惑そうなフリッツの顔。

 そこに、ルシアが続けた。

「ハンカチ貸してくれる?」

「え、ええ。こちらでよろしいですか?」

 ポケットから出した真っ白なハンカチ。

「あと、私のシチューとワインもね」

「かしこまりました。お席でお待ちください」


 マイペースなルシアが、椅子に座る。

「ディル。これでいい?」

「念のため、言っておきますけど、元に戻せませんわよ?」

「たくさん持ってそうだから、かまわないでしょ」

「それも、そうですわね。ッフフ」


 ディルがまた目を閉じた。

 現れたのは、1枚目と似ているが、色味や図形が異なる模様。

 白いハンカチが、絨毯の模様に変わった。


「ここ書かれているのは、数カ月後に訪れる予定の、来賓についてのことでした」

「へぇ……お客さんが来るっていう知らせ?」

「はい。他部族の君主はリーキが苦手なので、食事に入れないようにと」

「ぶ……なにそれ。アハハ」

「やっぱりくだらないですわよね。でも、さきほどのレシピの模様には、リーキが含まれていませんでした。ですから、この文書の本質はそこではなかったのです」


「うん?」

「いつの時代の、どの文明なのか。それはわかりませんでしたが、最初にこの絨毯を作った人物は、この絨毯をキャラバンに持たせ、来客の苦手な食べ物を知らせた。それを受け取った遠方の料理人が、レシピの変更確認を、絨毯で送り返したのかもしれないのです」


「ふーん……」

「いま、焚火のまわりでも、フリッツさんたちがレシピの相談しておられるでしょ。あれと同じことが、絨毯の模様で繰り返されていたのですわ」


「なるほど?」

「その情景を思い浮かべると、なんだかすごくロマンチックじゃありませんこと?」


 ロマンチック……?

 なの?


 なんか、ずいぶん話が脱線したような。



 ディルは文字の話になると長い。





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