6.5.10 - 完璧なウソ
評議会の敷地。
手前の丘から、それを見下ろしていた。
少し下った先に見えるのは、以前と変わらないテント群だ。
でも、うるさかった。
その隣の区画で、大がかりな建築工事が始まっていた。
大量の木材や石材が積み上げられ、その先で土台工事のようなものが行われている。
木霊す音は、トンテンカンではなく、ドスンという音。
足元には、地響きまで伝わってくる。
噴水広場周辺の建築工事とは、根本的になにかが違う工事が行われている。
腰に手をあてながら、アルベールが振り向いた。
「ルシアは、外で時間を潰していろ。私達が赴くのは、あのテントだ」
アルベールが指を差したのは、3つある大きなテントのうちのひとつ。
「わかったわ。他のヒトと会話をしてても構わないの?」
「構わないが……評議員と思われる人物との接触は、ややこしくなるから極力避けろ。ギルド名は……なんだったか」
わたしと、ルシアが同時に答えた。
「フォリオ・ノーメルシ!」
「……フォリオ・ノーメルシの名を落とすような言動はするなよ」
「オーケイ。そういうの得意だから、任せて」
「フリッツ」
「はい」
「事務テントへ行き、アルベールとその主人が来たと伝えてきてくれ」
「ウィ、ムッシュ」
フリッツは、やけに早い強歩で斜面を下って行った。
あれなら、小走りの方が楽だと思うんだけど。
「ミキ」
「うん?」
「もう少し打合せをしておこう」
「うーん……」
「気負う必要はない。君は普段通りでいい」
「うん」
「答え難い質問をされたら、わからないと答えて構わない。私とフリッツがフォローする」
「うん……」
これからわたしは、ウソをつきに行くのかな。
うまくできるかな。
実はわたし……というかみきは、そういうウソをつくのヘタクソ。
「ミキ」
「うん?」
「君の目的はなんだ?」
「パパとママに、会いに行く……」
「それで構わない。同じ質問をされたらそう答えろ」
「え?」
「タデクもルシアも聞け」
「なにかしら?」
「表向きはレストランの経営。出資の理由もソレだ。だが、これから顔を合わせる男は、狡猾で冷酷。ウソがバレたら、関係の修復が不可能な男だ。だから半分だけ真実を伝えている」
「半分て?」
「間違えて信頼のエレメントに来てしまった、皇族に連なるマヌケな姫。それがミキだ。まぁそれはどうでもいい。
私達のすべきことは、令嬢を守護し、知恵のエレメント・コアを平和的に通過する。そして知恵のエレメント・ノードで、両親と令嬢を引き合わせること。間違っているのはどこだ?」
「マヌケ?」
「違う……」
「皇族のお姫様?」
「……だがそれはどうでもいい。金持ちを見せびらかす貴族は信用できない。演じるのはカネの価値どころか、存在の理解にすら乏しい、筋金入りのマヌケな貴族だ。だから普段通りで構わない」
タデクが小指で耳をかきながら言った。
「……それで」
「なんだ?」
「アルベールの役回りはなんだ?」
「聞いてなかったのか、いまの話?」
「聞いてたから聞いてる。オレたちに潜り込む目的はなんだ?」
アルベールが、目線を落とした。
「ッフフ……全く……それが知りたいのか、おまえは?」
それでもルシアは、アルベールの目を直視している。
「どうせウソでしょ。それともまた、聞いただけで殺されるやつ?」
「私と死ぬ覚悟はあるのか?」
「ないわね。ねぇタデク?」
「自殺したほうがマシだ」
ここまでの話を聞いて。
目を輝かせているのは、わたしだけだった。
「ねぇ、アルベール」
「なんでしょうか。姫殿下?」
「アルベールもいっしょに、ルミナス・ノードを渡ってくれるの?」
「今のところは、そういう筋書きだ」
アルベールの目が少し険悪なものに変わった。
たぶん、余計なこと言うなよって言ってる目。
でもなんだか。
わたしの不安は、掻き消えていた。
「みきね、なんだか、やる気でた!」
ルシアが、不思議そうにわたしの顔をのぞき込む。
「あら、アルベールがいっしょだとそんなに嬉しいの?」
「えへへ。どうだろ」
「ちょっとアルベールさん……うちの姫に、なにを吹き込んだのよ」
「私は、なにもしていない……」
アルベールに尋ねた。
「とにかく、いままでどおりでいいんだよね?」
「そうだ。ミキは、ウソ……をつく必要はない。真実だけを話せ」
そっか。
いままでどおり。
ヘタなウソはつかなくていい。
アルベールさえも真実と認めた、完璧なウソだけでいい。
みきは、全ての人間を騙して。
いい子のフリ。
それなら、いつもどおり。
簡単だ。




