6.5.09
ルシアに連れられたタデクと合流した。
「なんだ嬢ちゃん……ほんとに田舎貴族の令嬢みたいだな」
「ね……写真に撮って残しておきたいわ」
「写真? なんだそれは?」
「アイツにも見せてやりたい……」
「あん? ダレだ?」
「画家が必要だわ、画家を探しましょう」
「はぁ? ダレと喋ってんだルシア?」
そのあと、アルベールがタデクと向かい合う。
「タデク」
「おう」
「君はその恰好でかまわないが、手斧は置いていけ」
「なんだよ。丸腰で護衛か。まぁ構わないが」
タデクの格好は、最初と変わらない。
古ぼけているが、真鍮の留め具がついたマントと、ゴワゴワの革ズボン。
腰には鋼鉄の手斧。
全体的に、旅人の格好をしている。
アルベールは、左手に掴んでいた西洋剣をタデクに向けた。
「これを貸してやる」
「あぁ?」
「それと、言葉遣いを戻せ」
「……はぁ?」
タデクが剣を受け取り、鞘から引き抜く。
板と金属が擦れる音。
木の鞘から出て来たのは、ねずみ色のような鈍い輝きを放つ刀身。
タデクが剣を水平にして、刀身に視線を向ける。
刃渡りは、タデクの腕と同じくらい。
小ぶりだけど、存在感のある分厚いクロスガード。
グリップの長さは、ギリギリ両手で持てるくらい。
幅広で、菱形の断面を持つ、両刃の西洋剣だった。
「イタリア……ブレシアか」
「ほう。少しは心得があるようだな」
「そのくらい知ってなきゃ死ぬ」
「なら、使い方の説明も不要だな?」
「ああ。いい剣だ。バランスも丁度いい」
「当然だ。私が貸すんだからな」
タデクが、剣を鞘に戻す。
「ならしばらく借りる。礼を言ったほうが良いか?」
「それで戦って死ねと言っている私に、君は感謝するのか?」
「いんや。最初から気に喰わねぇよ」
「言葉遣いも、戻せよ。今日だけでいい」
タデクが、剣を腰に結ぶ。
それを見ていたルシアが言った。
「なんだか、サマになったわね、タデク」
「人殺しの道具を結んで、サマになってると言われてもな。殺人鬼かオレは」
わたしも続く。
「でも、頼もしく見えるよタデク。だんだん騎士様になってきたね」
「へいへい……アヴォトルセールヴィス、マ・ドゥモワゼル」
タデクがそっぽを向きながら、巻き舌でヘタクソなフランス語を口にする。
たぶん、お役に立てれば光栄ですお嬢様……かな?
「タデク、キスしてあげようか?」
「おまえはなんでついてきたんだルシア。帰れよ」
「ッフフフ……面白いな、君達は」
アルベールが歩き出した。
わたしたちも後を追う。
向かう先は、評議会の設営地。
「歩きながら聞いてくれ。これから会うのは、評議員のひとりだ」
「ひとり? 12人じゃなくて?」
「タデク」
「うん?」
「会いに行くのは、おまえの嫌いなプロイセンだが、いきなり殺すなよ」
「……だからオレは、殺人鬼じゃないと」
「自分から名乗るようなヤツじゃないから、先に教えておく。これから会う男の名は、ウィルツ・フォン・シュタインバッハ。私の上司だ」
タデクが、本気で笑った。
「フッハ、フッハハハハ」
「可笑しいか?」
「ッフ……で、そのバッハ伯爵から、カネを騙し取るのか」
「飛躍しすぎだが……まぁ、そういうことだ」
「それは面白い。やる気出たよ」
「だがタデク。おまえは見るからにスラブ人だ」
「だからなんだよ」
「おまえは部屋の外で待機しろ。おまえを連れて入ったら、暗殺に来たと勘違いされる。話をするのは私とフリッツ。それとミキの3人だ」
「……りょーかい。参謀殿」
「私は?」
「ルシアは、帰ってもかまわないが……せっかく来たんだ。ウィルツの姿を見る機会があったら、観察しておけ」
「どんな人物なのかしら?」
「あまり詳しくは話せないが……評議員としてだけは優秀で信頼できる」
「……だけは?」
「人格は、最悪だ」
「うわぁ……アルベールにそれ言われるんだ?」
「だから、ミキ」
「うん?」
「君は、必要以上に喋るな。嫌なことがあったら拒絶していい。そのときはタデク。おまえが踏み込め」
「殺していいのか?」
「演技にとどめてくれると好都合だが……ヘタに恨みを持たせたまま生かすくらいなら、そのほうがいいかもな。ただその場合はタデク。おまえのこの世界での生活もそこで終わりだ」
「それに問題があるのか?」
「それはおまえが決めろ」
「なら、好きにやらせてもおう」
「ただ、保険は掛けてある」
「保険?」
「ミキ」
「はい?」
「君は、お忍びで遊びに来ている21世紀の皇族の家系。その娘のひとりだ。君に不敬なことをしたら、シュタインバッハ家の未来が消滅するだろうと予言してある」
「うん……? 皇族? 消滅? どうして?」
ルシアが耳打ちした。
「ちがうわよミキ。ミキはね、おしとやかなお姫様を演じろってこと」
「うん?」
「とにかく、君は微笑んで座っていてくれるだけでいい。あとは私とフリッツに任せてくれ」
えっと……
なにひとつ、理解できていません。




