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『あの世界』の常識に巻き込まれていく話  作者: 渡しログ
カラフルな『あの世界』
521/566

6.5.09


 ルシアに連れられたタデクと合流した。


「なんだ嬢ちゃん……ほんとに田舎貴族の令嬢みたいだな」

「ね……写真に撮って残しておきたいわ」

「写真? なんだそれは?」

「アイツにも見せてやりたい……」

「あん? ダレだ?」

「画家が必要だわ、画家を探しましょう」

「はぁ? ダレと喋ってんだルシア?」


 そのあと、アルベールがタデクと向かい合う。


「タデク」

「おう」


「君はその恰好でかまわないが、手斧は置いていけ」

「なんだよ。丸腰で護衛か。まぁ構わないが」


 タデクの格好は、最初と変わらない。

 古ぼけているが、真鍮の留め具がついたマントと、ゴワゴワの革ズボン。

 腰には鋼鉄の手斧。

 全体的に、旅人の格好をしている。


 アルベールは、左手に掴んでいた西洋剣をタデクに向けた。


「これを貸してやる」

「あぁ?」

「それと、言葉遣いを戻せ」

「……はぁ?」


 タデクが剣を受け取り、鞘から引き抜く。

 板と金属が擦れる音。

 木の鞘から出て来たのは、ねずみ色のような鈍い輝きを放つ刀身。


 タデクが剣を水平にして、刀身に視線を向ける。

 刃渡りは、タデクの腕と同じくらい。

 小ぶりだけど、存在感のある分厚いクロスガード。

 グリップの長さは、ギリギリ両手で持てるくらい。

 幅広で、菱形の断面を持つ、両刃の西洋剣だった。


「イタリア……ブレシアか」

「ほう。少しは心得があるようだな」

「そのくらい知ってなきゃ死ぬ」


「なら、使い方の説明も不要だな?」

「ああ。いい剣だ。バランスも丁度いい」

「当然だ。私が貸すんだからな」


 タデクが、剣を鞘に戻す。

「ならしばらく借りる。礼を言ったほうが良いか?」

「それで戦って死ねと言っている私に、君は感謝するのか?」

「いんや。最初から気に喰わねぇよ」


「言葉遣いも、戻せよ。今日だけでいい」


 タデクが、剣を腰に結ぶ。

 それを見ていたルシアが言った。

「なんだか、サマになったわね、タデク」

「人殺しの道具を結んで、サマになってると言われてもな。殺人鬼かオレは」


 わたしも続く。

「でも、頼もしく見えるよタデク。だんだん騎士様になってきたね」

「へいへい……アヴォトルセールヴィス、マ・ドゥモワゼル」


 タデクがそっぽを向きながら、巻き舌でヘタクソなフランス語を口にする。

 たぶん、お役に立てれば光栄ですお嬢様……かな?


「タデク、キスしてあげようか?」

「おまえはなんでついてきたんだルシア。帰れよ」



「ッフフフ……面白いな、君達は」


 アルベールが歩き出した。

 わたしたちも後を追う。

 向かう先は、評議会の設営地。


「歩きながら聞いてくれ。これから会うのは、評議員のひとりだ」

「ひとり? 12人じゃなくて?」


「タデク」

「うん?」

「会いに行くのは、おまえの嫌いなプロイセンだが、いきなり殺すなよ」

「……だからオレは、殺人鬼じゃないと」


「自分から名乗るようなヤツじゃないから、先に教えておく。これから会う男の名は、ウィルツ・フォン・シュタインバッハ。私の上司だ」


 タデクが、本気で笑った。

「フッハ、フッハハハハ」

「可笑しいか?」


「ッフ……で、そのバッハ伯爵から、カネを騙し取るのか」

「飛躍しすぎだが……まぁ、そういうことだ」

「それは面白い。やる気出たよ」

「だがタデク。おまえは見るからにスラブ人だ」

「だからなんだよ」

「おまえは部屋の外で待機しろ。おまえを連れて入ったら、暗殺に来たと勘違いされる。話をするのは私とフリッツ。それとミキの3人だ」


「……りょーかい。参謀殿」


「私は?」

「ルシアは、帰ってもかまわないが……せっかく来たんだ。ウィルツの姿を見る機会があったら、観察しておけ」

「どんな人物なのかしら?」

「あまり詳しくは話せないが……評議員としてだけは優秀で信頼できる」

「……だけは?」

「人格は、最悪だ」

「うわぁ……アルベールにそれ言われるんだ?」


「だから、ミキ」

「うん?」

「君は、必要以上に喋るな。嫌なことがあったら拒絶していい。そのときはタデク。おまえが踏み込め」

「殺していいのか?」

「演技にとどめてくれると好都合だが……ヘタに恨みを持たせたまま生かすくらいなら、そのほうがいいかもな。ただその場合はタデク。おまえのこの世界での生活もそこで終わりだ」


「それに問題があるのか?」

「それはおまえが決めろ」

「なら、好きにやらせてもおう」


「ただ、保険は掛けてある」

「保険?」


「ミキ」

「はい?」

「君は、お忍びで遊びに来ている21世紀の皇族の家系。その娘のひとりだ。君に不敬なことをしたら、シュタインバッハ家の未来が消滅するだろうと予言してある」

「うん……? 皇族? 消滅? どうして?」


 ルシアが耳打ちした。

「ちがうわよミキ。ミキはね、おしとやかなお姫様を演じろってこと」

「うん?」


「とにかく、君は微笑んで座っていてくれるだけでいい。あとは私とフリッツに任せてくれ」



 えっと……


 なにひとつ、理解できていません。




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