3.5.03
巻き割りを終えたクラゲと2人で、村の中心へと向かう。
イナムラの家は、村の反対側にあると言う。
途中で酒場の前を通りかかる。
ヒミコが外で掃き掃除をしていた。
「ヒミコちゃんおはよぉう」
「あ、クラゲさんだ。ソウジも」
「ヒミコちゃん、なんか食べる物ない?」
「ないわよ。お昼、食べに来て。おかね持ってるでしょ」
この店にイノシシを売って得たカネを、この店に落とす。
マスターの取り分は、いったい幾らになるのか。
クラゲとヒミコが会話を続けていると、店から大男のマスターが顔を出す。
両手に黒いものを持っている。
「これでも食ってろ。ツケとくから、昼でも夜でも、店に来いよ」
オレとクラゲに、順番にその黒いものを投げた。
マスターが投げたのは、黒パンの切れ端だった。
「マスター、具は?」
「ねぇよ。その辺の草でも挟んで食え」
「へへっ、ごっそさん」
見かけによらず、商売上手なマスターだった。
オレ達は、店を離れた。
昨日の残りだろうか。結構固いが、悪くはない。
黒パンをかじりながら、村の東へと進む。
歩きながら、クラゲに尋ねた。
「イナムラとはどういう人物だ?」
「詳しくは知らねえが、引退契約で耕作地を譲って、いまは独り暮らしだ」
「引退契約?」
「老人が独りで生きていくのは難しい。
だから、耕作地を誰かに譲るんだ。
そんで、死ぬまで食い物だけ貰って暮らすのさ。
畑が荒れずに引き継げるからな。
村全体から見ても都合が良い」
この世界の社会保障制度みたいなものか。
良くできている。
「あれが、イナムラ爺さんの家だ」
クラゲが案内するイナムラの家は、村の外れにぽつんと建っていた。
キャンプ場のおんぼろバンガローのような、小ぶりの家だった。
庭で腰を掛けている老人がいる。
アロハと同じくらいの、よぼよぼの爺さんだ。
あれが、イナムラか。
「だれじゃい、あんたは?」
近づくと、声を掛けてきた。
「イナムラ爺さんか?」
「そうじゃが。ここにはなんもないぞ」
「記憶の回廊のことは知っているか?」
「……何者んだ?」
オレは、左手を叩く。
デバイスが出現すると、老人の目の色が変わる。
「なんじゃ。わたしびと様かよ。ケイスケとはずいぶん違う。別人か?」
ケイスケ?
それが、前のプレイヤーの名前か。
「オレはソウジだ」
「で……何の用じゃ?」
「記憶の回廊を開く手伝いをしてほしい。頼めるか?」
「断る。わたしびと様に関わるのは、もうごめんじゃ」
断る爺さんの表情は、冷めきっていた。
「なにかあったのか?」
「みりゃ分かるじゃろが。
老いぼれが独りでこんなとこに座っとる。
ぜんぶ、あいつのせいじゃ」
言い終わると、イナムラ爺さんは、視線を外してしまった。
「こりゃダメだなソウジ。仕切りなおすか?」
少し考えた。
「クラゲ。エールはコイン何枚で飲める?」
「鉄コイン1枚だ。それがどうした?」
オレは、コイン袋から、新品の鉄コインを3枚取り出した。
イナムラの腕を掴み、手にコインを握らせる。
「イナムラ。あとで呑もう。話を聞かせてくれ」
「行かんぞ。わしは」
「気が向いたらでいい。楽しみにしてる」
オレ達は、イナムラの家を離れた。
「気前がいいなぁソウジ。オレにも奢ってくれ」
「おまえは、オレが倒したイノシシの代金をたっぷりもってるだろ」
「おお、そうだっけ。あっはは」
しばらく歩くと、クラゲがぼやく。
「ああは、なりたくねぇなぁ。おれも早く嫁さんみつけねぇと」
ヒミコはやめとけと言いかけて、やめた。
やることが無くなってしまった。
これからどうしようか。




