3.5.02
まずは、シラスの床屋へと向かう。
あれから何日だ?
ニフィル・ロードの記憶は、あやふやだ。
そこに現実世界の日数も重なり、何日経っているのかが分かりにくい。
3日目だったか?
まぁいい。どうでもいい。
途中で酒場の前を通る。
まだ、朝が早すぎるのか、酒場のドアは閉まっていた。
酒場から歩いて数分。
シラスの床屋が見えてきた。
今朝も、血染めの布を巻いた棒が、入り口に突き立てられている。
道の先から、ローブを着た婆さんが歩いてくるのが見えた。
手には籠を下げ、中には薬草が積まれている。
アロハ婆さんだ。
「わたしびとか。なんしにきた」
「ガスコスの様子はどうだ?」
「まぁ……峠は今夜じゃろ。死ななきゃな」
「世話を掛ける」
「ふん。おまえのために、やっとるわけじゃないわい」
言い終わると、床屋の裏口へと歩いていく。
アロハに質問した。
「アロハ。記憶の回廊のことを知っているか?」
婆さんは立ち止まり、頭だけこちらに回して、片目で睨みながら言った。
「わしが知るわけなかろうが。アホが」
つまり、名前は知っているのか。
「まぁええ。心当たりが独りおる。イナムラというじじぃを探せ。あいつなら知っとる」
アロハは歩き出し、裏口の戸に手を掛ける。
「どこに行けば会える?」
「自分で探せ、アホが」
「ガスコスの様子は見れるか?」
「……今日はやめとけ。明日の昼にでも、また来い」
「わかった。よろしく頼む」
「ふん」
床屋に入り、裏口の戸を閉められてしまった。
渡し人は救世主だと聞いていたが。
アロハには、やけに嫌われているな。
オレは床屋を離れ、クラゲの家へと向かった。
床屋からもクラゲの家は近い。
家まで行くと、クラゲは外で薪を割っていた。
「おう、おはようソウジ。早いな」
「仕事か」
「まぁな。イノシシのおかげで当分仕事は休みでもいいんだけどな」
会話しながら、クラゲは薪を割る。
カン、と、乾いた音が、朝の村に響き渡る。
良い音だ。
これほどの音が出せるようになるまで、どれほどの薪を割ったのだろうか。
「クラゲ、記憶の回廊って知ってるか?」
「ん? 知らねぇなぁ。なんだそりゃ」
「イナムラという爺さんのことは?」
「ああそれなら知ってる。家は村の東の方だ」
この村に住んでいるのか。
よかった。
「少し待ってろ。案内してやるよ」
この村の住人全員というわけではないだろうが。
クラゲはお節介な男だった。
今のオレにはありがたい。
オレは適当に腰を下ろし、クラゲの薪割りを眺めた。
薪割りの極意は知らないが、音は良い。
クラゲが次々と薪を割っていく。
良い音だ。




