表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『あの世界』の常識に巻き込まれていく話  作者: 渡しログ
ワールドカウント24
53/412

3.5.04


「暇なら、オレの仕事手伝え」

 クラゲが言った。


「木こりの仕事をか?」


「死んだオヤジの仕事が木こりだったってだけだ。

 まぁ、おかげで森には少し詳しいな。

 だから、そこらへんの雑用係がオレの仕事だ」


「なにをすればいい?」

「よし、じゃあまずは、おれの肩を揉め」

「オレの握力とクラゲの肩のどちらが固いか、試せばいいのか」


「あっはは、冗談だよ。

 今日も森に入る。ソウジは護衛と荷物持ちだ。またイノシシが出たら頼むぜ?」



 やることが無いオレは、クラゲに付き添い、仕事を手伝うことにした。


 森に入ると、クラゲは仕掛けていた罠を順に確認していく。

 いくつかの罠には、兎やリスがかかっていた。

 途中でセージや、ベリーを見つけるとそれを摘む。


 クラゲの後を追いかけ、いくつもの罠を巡回し、陽が傾き始めるころには、ふたりで持てる限界の戦利品を抱えていた。


 帰りがけに、小さな雑貨屋へ。

 店といっても、やはり民家だが、扉の横に小さなテント。

 そこに、食料品や革製品の雑貨など、様々な物が陳列されていた。


 クラゲは、雑貨屋でセージやベリーを換金し、小麦や野菜を購入した。


 そこが終わると、次に酒場へ向かう。

 兎やリスをマスターに渡し、コインを受け取っていた。


「ヒミコちゃん、またあとでね」

 クラゲが、サンダル履きのヒミコに声を掛ける。

「うん。まってるわクラゲさん。ソウジもね」

 重そうなジョッキを両手で運ぶヒミコが、笑顔を返す。

 見事な営業スマイルだ。

 村の男達はイチコロだろう。


 その後、クラゲは一度家に戻り、買い物してきた食料品を家に置く。

 時刻は、すでに夕暮れだった。


「今日の手間賃だ」


 クラゲが、オレに鉄のコインを2枚渡した。

 これだけか、と思った。


 聞くと、日給の平均は鉄コイン3枚。良くて4枚だと言う。

 2枚以下の農民も大勢いるらしい。

 エール1杯が、コイン1枚。

 村の生活も、楽ではないようだ。


「よし、おつかれさん。呑みに行こうぜ」


 オレ達は、酒場へと向かった。



 酒場へ着くと、客はまだ疎らだ。

 イナムラ爺さんの姿も無い。


 野外ベンチに腰を掛ける。

 クラゲがヒミコにストロングエールを注文した。

 ヒミコがオレ達に両手を広げている。


 前金制か。

 クラゲとふたりで、ヒミコの手に鉄コインを載せる。

 オレはさらに、コインを2枚載せる。

「なにか食べ物もたのむ」

「はーい」

 相場が幾らかは知らないが、料理が出て来れば分かるだろう。


 エールはすぐに運ばれてきた。

 クラゲと乾杯し、エールを口に含む。

 香りも味もパンで、泥水のような酒だが、慣れた。

 仕事を手伝った後だからだろうか、前回よりも美味く感じる。


 しばらくすると、店主が大きめのボウルを持って出てきた。


「お目当ての客は、まだ来てねぇぞ」

 前回のログイン。

 この世界では昨日だが、オレは旅人が来たら教えてくれと、店主に頼んである。

 そのことだろう。

 ボウルを置いて、店主が立ち去る。


 そのボウルから、素晴らしくいい匂いが立ち昇っていた。


 木のボウルに、イノシシ肉のシチューが満ちている。

 一日煮込まれたのであろう脂と骨の匂いに、セージとローリエの青い香りが絡みつく。

 スプーンが肉に触れると、抵抗することなくホロホロと崩れた。

 オレの胃袋は予感した。

 これは、ニフィル・ロードへ来て、初めての美食だと。


 口に運ぶ。


 前回の家畜のエサみたいな、ゴムのモツ焼きとは別世界だった。


 最初に来るのは、エールのほろ苦さと、煮込んだ肉の濃厚な旨味。

 すぐに、肉がとろけて舌に広がる。

 じゅわりと甘みのある脂が滲みだす。

 それを支えるのが、煮溶けた玉ねぎの甘みと、バターのようなコク。


 美味だった。


 ニフィル・ロードどころの話じゃない。

 これまで食べてきた中でもトップクラスだ。


 あの大男の店主、とんでもない料理人だったらしい。


 クラゲと顔を見合わせた。

 ニヤニヤが止まらない。


 ニフィル・ロードの本気を見た。

 こんな美味い物が、こんな薄汚い村のオンボロな居酒屋で喰える。

 これを喰うためだけでも、この世界に来る価値がある。


 クラゲが、次々と肉を口に運ぶ。


 おいやめろ。野菜も食え。


「うまそうじゃな」

 後ろから声がした。


 それどころではないが、聞き覚えのある声なので振り向いた。


 落ちかけた夕暮れを背に立っていた、ヨボヨボの爺さん。



 イナムラ爺さんだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ