6.5.05 - 毒イモ
どうやら、この家。
シチリちゃんが住んでる家ではないらしい。
兄弟の見分けもつかないけど、どっちがどっちの家かも見分けがつかなかった。
別々に生活している……とは言っている。
でも、別けているのは、寝ている時間くらいのようだ。
日中の生活は、仕事も食事も、ごちゃまぜみたい。
だから、試食会が終わる頃、子供と奥さんのペアが増えた。
この家に住んでいるという奥さん。それと小さな男の子。
子供の名前は、ニシカタくん。
7歳の男の子。
指をくわえては、お母さんに怒られて、また指をくわえている。
無口な男の子で、離れた場所から、わたしを見つめている。
ニシカタくんと、シチリちゃん。
お母さんは違うし、顔もあんまり似ていない。
でも、兄と妹のように仲がよさそう。
ニシカタくんは、ちょっとにくたらしいけど……
カワイイ……
ニシカタくんにも食べてほしいけど、ヒメリュウ・ポテトがなくなった。
だから、また畑に出て魔法を使うことにした。
ついでに、種イモも作ってしまおう。
「なぁ、みき。このイモは、魔法がないと作れないのか」
「ちがうよ。栽培するんだよ」
「そうか……んで、姫竜ポテトだっけ? これは、どうやって育てりゃいい?」
実はこの魔法も、使い過ぎは良くない。
やりすぎると、周囲の植物の性質が変化することがある。
昆虫が近づくだけで、バタバタと死んだり。
タンポポの根が巨大化して、カブみたいになったり。
それで美味しければいいけど、食べたら泥のカタマリだった。
今回は他人の畑だし、どんな異常が現れるかわからない。
だから、あと9株までにした。
食べるのは、そのうちの3株。
残りの6株は、種イモにする。
「まず、種イモを埋めます」
「ほぅ。喰わねぇで埋めちまうのか」
「埋めるときは革手袋をはめて、これを、ちぎって」
「おう」
「あ、ちぎるとき、芽を残してね」
「ほうほう」
「あとは、これを、日陰の多い湿った土壌に埋めるだけ」
「……それだけか?」
「うん。それだけ。とにかく加熱するまで素手では触らないこと」
「おっかねぇ作物だなぁ」
「だから美味しいんだよ」
「なぁるほど。うちのカミさんといっしょか。納得だ」
「え? シモネタ?」
「うん?」
6株で、23コの種イモが取れた。
半分に切れば倍になるけど、傷みやすくなるので今回はヤメとく。
ニフィル・ロードは、作物の成長が現実世界の3倍くらい早い。
種イモを埋めなおして、1カ月くらいで、3倍か4倍に増える。
ヒメリュウキンカは、ジャガイモと同様、爆発的に繁殖する。
効率良く増やせば、半年くらいで村人全員に行き渡るポテトが収穫できる。
「んでぇ、これを育てて、ヒメ様に売ればいいのか?」
「うん。お金どのくらい持ってきたらいい?」
「それはぁ……収穫してからだな。何カ月で育つんだ?」
「1カ月くらいだよ」
「そか。カブやキャベツと大して変わんねぇな」
「なんにもしなくていいからね。放置で大丈夫だよ」
「そう言われてもなぁ……水もやらなくていいのか?」
「うん。そもそも、素手で触るのはダメ。だから、シチリちゃんや、ニシカタくんを近づけないで」
「それは難しいなぁ。柵でも作るか」
「それがいいね。とくに指をくわえるクセのあるニシカタくんは、絶対に近づけないで」
「うーん、悪魔の畑……とでもウワサしとくか」
「それは……どうだろう……食べるのイヤになりそう」
「で、ほんとに、なんにもしなくていいのか?」
「大丈夫だよ。困るのは、増えすぎることだけ」
「増えすぎ? それは、なんにも困らねぇだろ?」
「ヒメリュウ・ポテトはね、病気にも強いけど、万がいち病気になると、あっというまに全滅しちゃうの」
「ほぉ……伝染するってことか?」
「うん。だからね、全滅したときに食べ物がなくなっちゃうから。他のお野菜も、穀物も、いままでどおりに育ててほしいの」
「簡単だからってコレに頼ると、村が飢饉になるかもしれねぇ……そういうことか?」
「うん。そうそう」
「なぁるほど、勉強になった。まぁ、手間がかからねぇなら、他の作物はいままでどうりだ。問題ねぇ」
「とにかく、1カ月後。楽しみにしてようね」
「ああ、楽しみだなぁ。あのホクホクが食べ放題かぁ。村のみんなも喜ぶよ」
「バターとか、塩とかあると、さらに美味しんだけど」
「バターかぁ……そりゃ難しいなぁ」
「牛とかいないの?」
「この村には、いねぇな。ヤギならいるが」
「そっかぁ。バターって高い?」
「そりゃおめぇ、街に行かねぇと売ってねぇんだ。行くだけでも片道6日だ」
「ムリだ……ね」
「ああ。ムリだ」
「ねぇ、このヒメリュウ・ポテト、4個だけ貰っていい?」
試食用に残したポテトは、12個ある。
「おぅ、もちろんだ。みきが作ったんだしな。あとはウチで喰っていいのか?」
「うん。加熱しないとダメだからね。危ないから、先に全部蒸しちゃったほうがいいかも」
「わかった。ありがとな、みき」
「うん。じゃあ、よろしくね、えっと……レクサム?」
「おれは、コンフィのほうだ……」
「あ、ゴメン……」
「……」




