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『あの世界』の常識に巻き込まれていく話  作者: 渡しログ
カラフルな『あの世界』
515/561

6.5.03


 フリッツが言った。

「いかがでございましたか」


 斜め後ろには、ミシェルも立っている。


 わたしたちは、朝食を食べ終えた。

 ソースも、ぜんぶパンにつけて食べた。

 だからどのお皿も、真っ白になっていた。


 わたしには、言葉もない。

 この朝食の感動と感謝が説明できる言葉なんて、わたしは知らない。


 代わりに、ルシアが口を開いた。

「ミシェル。あなた、ほんとうにここでシェフをやるの?」

「は、はぁ……そのつもりですが……お口にあいませんでしたか?」


「ねぇ、フリッツ」

「はい」

「ミシェルのお給料は、ちゃんと払えるのかしら?」

「これは、彼にとっての研修でございます。個別のギャランティは必要ありません」

「あら、そう……なら合格よ」


「あっは。あははは……は」

 ミシェルの作り笑い。


「ミキも、いいわよね?」

「うん……なんか、ごめんね、ミシェル?」

「い……いえあの……マドモワゼル。どうかおきになさらず。今朝はお口にあいましたでしょうか」

「うん、とっても美味しかった。ちゃんとした感想が言えなくて、ごめんねミシェル」

「ははは。あははは」


 ピンと張っていた、ミシェルの両肩からチカラが抜けたのがわかる。

 小太りミシェルの、ころころとした笑顔。

 フレンチの料理人さんも、こんな感じで笑うんだね。


 フリッツが、ヒジでミシェルを小突く。

 ミシェルは、再び、姿勢を正した。


「ありがとうございます。それでは、ミシェルをシェフとする体制で、今後の計画をお話させていただきます」


 ルシアが言った。

「計画って、まだあるの?」

「まだまだ、序の口のつま先ほどでございます」

「あら、頼もしいわね。それで?」


「ソムリエと、パティシエが合流しましたら、食材の仕入れ交渉と、メニュー開発を同時に進めます。それから…………」


 フリッツが、説明を始めた。

 パティシエって、ケーキとかも作ってくれるのかな。

 うーん……

 わたしには、途中からよくわからない。


 ルシアとディルが、その話を熱心に聞き、そして質問もしていた。

 わたしは、ただ聞いているフリ。

 タデクは、歯に挟まったリーキの葉をむしりながら、ソラを眺めている。


 これから、どうなっちゃうんだろ。

 まぁどのみち。

 知恵への旅が始まるまで、1年以上先だろう。

 フリッツとミシェルのレストランを、楽しみにしておこうと思う。



 話が終わる頃。

 大工さん達がやってきて、レストランとギルドハウスの建築が始まった。


 わたしは、邪魔になる前に、その場を離れた。

 やることもないので、メモリアへ行く。



 食材の仕入れくらいなら、わたしも手伝えるかな。

 カタセ村のカブや、キャベツも、とってもおいしい。

 仕入れ契約するには、どうすればいいんだろう。




 酒場の小部屋に戻って、部屋から出た。

 テラス席には、お客さんがふたり。


 ガロムちゃんが、料理を運び、マスターは厨房。

 ナギサは、仕入れに出かけているらしい。


 食事をしているのはふたりの男性。

 名前は知らないけど、顔は知っている。

 昨日、村人全員と会ってるからね。



 お客さんはわたしを見ると、開口一番。

「みき様、おはよう」

「えー、もうなにそれ。違う呼び方にして!」

「なんだよ、じゃあ、なんて呼んだらいいんだよ。わたしびと様か?」

「それもなんか違う」

「こまったなぁ。どうすりゃいいんだよ」

「ふたりは、なんて名前?」


「俺は、レクサム」

「俺は、コンフィ」


 覚えにくい名前。

 歳はたぶん、30代後半。

 2人とも、顔がよく似ている。

 どっちがどっちなのか、すぐ忘れる自信がある。


 とりあえず、わたしも、あいてる椅子に座る。


「なんか、名前の種類がみんなと違うね」


「俺たちの親族は、もともとヴィルゴシータの出身でよ。もう、みんな死んじまったけどな」


「え、なんかごめん」

「かまわねぇよ。名前の種類が違うのは、その影響だ」

「ふーん。あ、もしかして、門を開けたヒト?」

「おお、よく知ってるな。開けたのはアニキだけどな。俺もこいつも、弟だ」


「ふーん。そうなんだ」


「で、何て呼んだらいい?」


 2人は、かわるがわる喋っているけど。

 どっちがダレだか、すでにわからない。


「みきでいいよ」

「みき様?」

「様はいらない」

「なんだ、みきでいいのか」

「うん」

「ありがたみが、これっぽっちもねぇんだが」

「ありがたくもないし」

「なんだか、しまらねぇなぁ……ヒメ様はどうだ?」

「えぇ、やだぁ」



「ふたりとも、仕事は?」

「俺も、こいつも、今は農夫だ」

「ふーん。兄弟で農夫かぁ」


「いっとくけど、俺もこいつも、別々の農園だぞ。結婚して子供もいるんだぜ」


「えー、どんな子?」

「俺んちは、男の子で、いま7歳」

「俺んちは、女の子で、5歳だ」


「わー、かわいいね」

「っへへぇ、そうだろ。目を離すと、すぐどっかいっちまうけどな」

「みきにも、こんど会わせて」

「おぅ、会ってくれるか。嬉しいなぁ。じゃあ遊びにこい」

「うん、おうちはどこらへん?」

「村の南西だ。俺もこいつも、向かい合わせで住んでるからよ」

「わかった……あ、そうだ」


「あん?」

「こんど作物を売ってくれたりする?」

「なんだよ急に。仕事の話か?」

「うん」

「まぁいいけど、買いたいってどのくらいだ?」

「うーん、まだわかんない。どんな作物があるの?」

「うちは、野菜だ。キャベツ、カブ、リーキ、最近トマトも始めた」

「うちは、穀物と豆と果物だ。大麦、オート麦。レンズ豆。それとリンゴと桃」


「桃あるんだ! ジャガイモは?」

「ジャガ、イモ? なんだそりゃ?」

「やっぱ、ないよね」

「聞いたことねぇなぁ」


「今日は、畑いくの?」

「おう。納品に来たついでにメシ食って、これから帰るとこだ」

「じゃあ、いっしょにいく」

「え?」



 レクサムと、コンフィだっけ。

 どっちがどっちなのか。もうわからないけど、いっしょに畑に行くことにした。


 お昼ご飯食は、マスターからチーズの挟んだパンを貰う。



 ごめんなさい。

 また、タダでもらっちゃった。



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