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『あの世界』の常識に巻き込まれていく話  作者: 渡しログ
カラフルな『あの世界』
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6.4.13 - ウガーラ族


 陽が完全に落ちるころ。

 大部分の村人は、家に帰った。


 それを見送ったあと。

 アロハとハセ。それとイナムラも、帰り支度を始めた。


 帰り際。

「みき」

 イナムラがわたしを呼んだ。

「うん?」

「たいしたもてなしもできないけど、いつでも遊びきてくれよ」

「うん」


 いつのまにか、後ろにいたマスターが言った。

「これもってけ」

「おお。いいのかい」

 パンとチーズ、それとベーコンやソーセージが入ったカゴ。

「残り物だ。気にすんな」

「ありがとな。マスター」

「おう。しっかりやれよ」


 イナムラが、もういちど、わたしに向き直る。

「みきも、今日はありがとな。それじゃあ、おやすみ」

「うん。おやすみなさい」


 イナムラが背を向けて歩き出す。

 離れたところからアロハが、手を振っている。

 わたしも手を振ると、そのあとは背を向けて、暗い夜道の先に消えた。


「今夜も、もう店じまいだ」

「そっか。そうだね」


「嬢ちゃんはどうする? 泊ってくか?」

 マスターの後ろから、アロハちゃんの名残り惜しそうな目。

「うん。そうしようかな」

 アロハちゃんの顔が、ニカッと笑う。

「みき、いっしょにご飯食べよ。残り物いーっぱいあるから、食べ放題だよ!」

「えー、そんなに食べられないよ?」


 わたしも、お店の片付けをお手伝いした。

 それが済むと、店内の食堂へ。

 マスターとナギサ。ガロムちゃん。

 それとわたしの4人で、残り物を摘まんで食べる。


「うまいか、嬢ちゃん」

「うん! すっごく美味しい」

「そうか。残ったらゴミになっちまうから。ムリしてでも喰えるだけ喰ってくれ」


 残り物とはいえ、マスターが作った料理は、どれもすごくおいしい。


「ケイスケも、そんな顔して喰ってたなぁ」

「へーっ、それ、いつ?」

「まだ王都で働いてた頃。25年前だ。ナギサも覚えてるよな」

「もちろんよ」


 ナギサが天井を見ながら、言葉を続けた。


「25年前……私ね、運んだお料理を、ケイスケさんのテーブルにひっくり返しちゃったの」

「えーっ、大変!」


「まだ名前も知らない、最初の出会いがそれだったわ。ッフフフ」

「えっ、えっ、それで? パパは怒った?」

「いいえ。ぜんぜん怒らないし、笑っていたわ」

「そっかぁ。よかったぁ」


「それでね、この人が代わりのお料理を作ってくれたのよ」

「マスターが?」

「そう。それでこんどは、ひっくり返さないように慎重に運んだわ。そしたらケイスケさん、とっても美味しいって言って食べてくれたのよ」


「うわぁ。みきも見たかった」



「そんで……事件が起きたのは、その後だ」

「事件?」

 マスターが、腕組みしながら話を続けた。


「店があったのは、城塞都市の南門の近くでな。その城門で騒ぎが起こった」

「えっ……?」


「あれはまだ、陽が陰り始めたばかりの夕方だった。

 きちんとした身なりの貴族が、通行証を見せて、衛兵は城門を開けた。

 そしたら、後ろに並んでた30人の旅人が、門の衛兵4人を殺害して、街の中に雪崩れ込んできたんだ」


「え、殺されちゃったの?」


「そうだ。通行証を見せた貴族もそいつらの仲間だった」

「そいつらって、盗賊とか?」

「違う……ウガーラ族だ」


「えっ……」

 

「そしたらよ、そいつらが、店の中に押し込んできたんだよ。

 後から知ったんだが、全て計画されてたらしくてな。

 店の中にも、ウガーラ族を手引きした貴族が紛れ込んでいた。

 店の入り口に立って、こっちだと合図しやがったんだ」


「なにそれ、強盗しにきたの?」


「俺も最初はそう思ったが違った。店は、30人のウガーラ族に占拠されて。ディナーを楽しんでいた貴族が人質になっちまったんだ」


「人質って、どうして?」


「これも後から知ったんだが、お城の地下牢に、ウガーラ族の族長とその妻が幽閉されてたんだってよ。で、ウガーラ族は、そのふたりの釈放を要求するための強硬手段に出たんだ」


「ウガーラ族って、ダストスさんたちだよね……信じられない」


「ヴィルゴ王国とウガーラ族は、昔から因縁があってな。

 小さな小競り合いは、あちこちで起きていた。

 まぁ、いま思えば、盗賊みてぇな連中だったのも確かだが……

 その原因は、ウガーラ族に対する、王国主導の弾圧と差別だ」


「……差別……って」

 どこの世界でもあるんだなぁ……そういうの。


「族長は、なんで捕まっちゃったの?」

「それがよ、だまし討ちみてぇなことをされたらしいんだ」

「だまし討ち……?」


「王国側が、自治領を作ろうって交渉を持ちかけたらしい。

 だが、そんなのは最初から嘘っぱちでな。

 交渉の場に現れた族長は捕縛。その部下は残らず処刑。

 ついでに別の場所で族長の息子達も殺されて、族長の奥さんも捕まっちまったんだとよ」



「ヒドイ……」

「ウガーラ族が怒るのも無理ねぇよ」

「それで、レストランを襲撃?」

「ああ。そうだ」


「もしかして、パパも? グルだったの?」


「いーや。ケイスケは、たまたまメシ食ってただけだ」

「ええー! じゃあ被害者?」


 ちょっとホットした。

 その顔を見たマスターがニヤけた表情を浮かべた。


「ところがケイスケはよ、たったひとりで、ウガーラ族を鎮圧しようと立ち向かったんだよ」


「えー! 30人相手に?」

「そうだ。変わった服装……紺色のスカートみてぇなのを穿いた男が、細い片刃の曲刀を抜いてな。数人のウガーラ族を蹴り飛ばしながら、リーダー出て来いって怒鳴り散らしたんだよ。ありゃ傑作だったぜ」


「うわぁ……」

 そんなパパは、見たくないかも……


「それでな。そん時のリーダーが、ダストスだったんだ」

「え……うそでしょ……」


「ダストスはな、族長の2番目の子供。でも長男も弟も殺されちまって、あいつは最後に残った族長の娘だった……てぇ、いま思えば、無茶苦茶なハナシだな。最後の娘まで、怒りに任せてノコノコと出てきちまったんだからよ」


「ダストスが、パパと戦ったの?」

「斬り合いにはならなかったよ。始まったのは、話し合いだ」

「そっかぁ、よかったぁ」


「そんときダストスは、ウガーラ族の窮状を、涙を流しながら語った。みんなその話を聞いていた。店の従業員も、ケイスケも。人質になった貴族もみんなだ。おまえも聞いたよな、ナギサ」


「ええ……人質になったことも忘れて、みんな聞き入ってたわね」


「不当な扱い、差別、過酷な抑圧、族長へのだまし討ち。

 兄も弟も殺さて、おまけに、母親まで幽閉。

 ダストスは、ウガーラ族にとって、最後の希望だった。なのにその娘が、仲間を連れて父親の奪還に来たんだ。泣ける話だったよ」


 ヒドイ……

 ヴィルゴ王国って、そんなにヒドイ国なの……


「そして、ケイスケは矛先を変えた」

「……え」


「店の前は、何本も松明が燃えていて、100人を超す兵士に囲まれていた。あのままじゃ、ダストスもほかのウガーラ族も、ひょっとしたら俺達も。生きて帰る道はなかっただろう。なのにケイスケは言ったんだ」


 マスターがタメを作り、わたしはツバを飲み込んだ。


「わたしに任せろ、この窮地を脱する策が、わたしにはある」

「パパ……ちょうカッコイイ……」


「おおぅ。カッコよかったぜ。

 あの瞬間、バイスタンダーと呼ばれた英雄の時代が終わった。

 あの夕暮れから、わたしびと様の時代が始まったんだ」



「あらっ……」

 ナギサの肩に、うたたねをするガロムの頭。


「ガロムちゃん、寝ちゃった……」

「今日は、忙しかったからなぁ」


「寝かせてくるわね」

「おう」


 わたしはまだ、眠くない。

「マスター、続き聞きたい」



「……秘蔵のワイン、あけちまうか」




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