↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『あの世界』の常識に巻き込まれていく話  作者: 渡しログ
カラフルな『あの世界』
510/558

6.4.12


 目を開けると、真っ暗な自分の部屋。

 わたしは、ユイさんのお葬式の途中で、ログアウトしてしまった。


 しばらく、ぼーっとしていた。

 感情の起伏が激しすぎるログイン時間だった。


 我に返ると、最初の心配は、メモリアに置いてきた自分のカラダ。

 お墓に放置されてたりしないよね。

 まさか、わたしまで、埋められたりしてないよね。



 スマホに触れる。

 ログインして、15分しか経ってなかった。


 2時間ログインするつもりだったのに。

 1日過ごしただけの、15分でログアウトしてしまった。



 寝よ……




 翌日。

 4月15日、土曜日。

 わたしは、図書館へ行った。

 百科事典も、パソコンも使って、ウガーラ語について調べようとしたけど、なにもわからなかった。

 現実世界には、存在しない言語なのかも。

 まゆさんにもメッセージを送ったけど、まだ返事はない。




 さらに翌日。

 4月16日、日曜日。


 少ないお小遣いを使って、インターネットカフェに来た。

 鍵付きの個室を借りる。


 3時間パックで、1600円。

 椅子じゃなくて、フラットな床の部屋。

 そうじゃないと、ログインスペースが確保できない。


 ニフィル・ロードなら、12日くらい過ごせるけど、長くても10日で帰ってこようと思う。


 もしここで、ログインデバイスを落としてログインしたら……

 想像したたけでも、大変。絶対に落とさない。

 

 その前に、まゆさんからのメッセージ。

『デンゴラバは知らないけど』

『ウガーラ村のことは総司から聞いたことがある』

『カウント23くらいの時期に、盗賊崩れが作った村の名前がそれだったハズ』


 ふーん……

 ダストスさんたちの子孫が、作るのかなぁ。


 わたしは、座ったまま、ログインゲートを呼び出した。


 目を開けると、ホコリっぽくて、薄暗い部屋の中。

 わたしは、木枠のベッドに寝かされていた。

 マットレスじゃなくて、藁敷きのベッド。

 どこも痛くはないけど、起き上がるとマントに、藁クズがいっぱいくっついた。


 正面にドアがあるらしく、床から天井まで、オレンジ色の光の線。

 ベッドから立ち上がると、床は剥き出しの地面だった。


 ドアだと思われる場所に手を伸ばす。

 やっぱりドアだ。押すだけで開いた。


 真正面に、建物の入り口。

 オレンジ色の光は、夕陽だったようだ。


 ガヤガヤと、大勢のヒトの声が聞こえる。

 そして、あれは、酒場の入り口。

 わたしは、酒場の小部屋に運ばれ、そこで寝かされていたらしい。


 パタパタとサンダルの音。

 厨房から出てきたのは、ガロムちゃんだった。


「あー! みきー!」

「え、え」


 ガロムちゃんが、わたしに飛びついた。


「突然、倒れて息もしてないから、死んじゃったかとおもったー!」

 ガロムちゃんは、涙声だった。


「ごめんね、ガロムちゃん。言っておけばよかったね」

 顔を離すと、鼻水と涙。

 わたしのワンピースにも、ちょっとついている。


「お父さんがね、見たことあるから大丈夫だって言って、みきをここまで運んだんだよ」

「そっかぁ。ありがとうね」


「それより、こっちきて。みんな待ってるよ」

「え?」


 ガロムちゃんが、力強くわたしの手を引く。

 そして、入り口を出て、テラス席の前に出ると。


「おー! わたしびと様!」

「ちがうだろ、娘さんだろ!」

「ああそうか。じゃあなんて呼んだらいいんだ?」

「知らねぇよ。それより、娘さん驚いてるじゃねぇか」


 まだよく知らない村人の皆さんで、テラス席は埋まっていた。


 テーブルの上には、肉料理や魚料理、野菜が山盛りのお皿。

 これは宴会だ。しかも、ただの宴会じゃない。

 村を挙げての大宴会。


 店の前にも敷物が敷かれ、酒の瓶やコップ。そこにも大勢の村人の姿。

 次から次へと、声を掛けられ、わたしの頭は混乱した。


「みきちゃん、ここ座んな」


 ハセは、いちばん手前に座っていた。

 その隣に、イナムラ。

 向かいにアロハ。


「マスター、椅子みたいなのない?」

「おう、ちょっとまってろー。ガロム!」

「はぁい!」



「ほら、突っ立ってないで」

 ハセが、わたしの背中を押す。

 そして、あけてくれたベンチの端っこへ。

 わたしは、されるがままに、そこに座る。


「えっ……と」


 向かいに座る、アロハが言った。

「みきちゃんの魔法、すごかったわ」

 顔が赤い。かなり酔っている。

 そして、お酒くさい。

 わたしは、ちょっと長めのまばたきの合間に、自分の嗅覚をトイレの芳香剤に変更した。


「みきね、気絶しちゃったから……なにがおきたの?」


 後ろに大男の気配。


「わたしびと様……ケイスケが現れた」

 顔を斜め上に向けると、高いところにマスターの顔。


「え……パパ、が?」


「地面から、土ぼこりが舞い上がってよ。

 何秒もしなうちに、ヒトの姿になった。

 それがよ、白い衣装に、紺色の袴。腰に細いカタナを吊った、ケイスケだったんだ……って、嬢ちゃんが呼んだんだろ?」


「うそ……」


 なんで……どうして、わたしは気絶しちゃったの……

 みきも、わたしもパパを見たかった。


 その後、マスターは、わたしがログアウトした後のことを語ってくれた。


 啓介は最初に、倒れ込むわたしを抱きかかえて、地面に寝かせた。

 落としたヒースの花束を拾うと、村人達が見守る中で、ユイの盛土に歩み寄り、花束を添えてくれたらしい。


 最後に直立し、そのあと深くお辞儀。

 その体制のまま、啓介は消えってしまったのだという。


 その時間は、ほんの数分。

 それでも、ユイの葬儀に現れた「わたしびと」の姿に、集まった村人は、誰もが膝を折り、その姿を焼き付けたという。



 アロハが、ため息交じりに言った。

「ほんと……カッコよかったわねぇ。わたしびと様……」

 ハセは、その仕草に顔をしかめた。

「おいおい、やめてくれよ」


「ねぇみき、あれはなんだったの?」

「えっと……」


 あれは、魔法。

 パパを呼んだわけじゃなくて、わたしが生み出した幻覚。

 ……だと思うんだけど。


 なんだか、そうとも言い切れない。

 わたしがお願いしたのは、パパの思いを届けてほしいという、パパへのお願い。


 だとしたら、幻覚なんかじゃなくて……もしかしたら、パパ本人……?

 え、パパの幽霊?

 わたしにも、なにがなんだかわからない。

 でも、パパがしたかったこと。してくれたこと。

 それはわかる。


「パパがね、ユイさんに、どうしてもお花を手向けてあげたかったみたい」


 ハセが泣き出した。

「そか。ありがとうな。最後の最後で、最高の栄誉を貰っちまった。これで母さんも、この村の英雄の仲間入りだ」


 イナムラもその横で、うんうんと頷きながら、涙を流していた。

「次は……俺たちの仕事だ」


「おう、この村はいわば、おれ達の兄貴みてぇなもんだからよ」

「そうだ。おれ達兄弟で、この村を守っていこう」


「ちょっと、わたしのことも忘れないでよ」

「もちろんだアロハ。これからもよろしく頼むぜ」

「うん」



「おいおい、俺達のことも忘れんなよ。お前らがこの村の兄弟なら、俺たちだってユイの息子……は、おめぇたちだから……腹違いの息子だ。ダッハハ」


 知らない村人が、言った。


「てめぇ、なんてこと言いやがんだコノ野郎ぉ。母さんはそんなアバズレじゃねぇよ! オモテ出ろぉ!」

「おおぅやるかぁ! いったるわぁ! ってもう、ここオモテだろがぁ!」


「え、え、なに、ケンカ?」

「いいのよ、気にしないで。ああやって、励ましてくれてるのよみんな」


 ぜんぜんそうは見えないけど……


 そのまま、ハセとイナムラが、その村人とケンカを始めた。

 最初から2対1。しらない村人は、最初から負け気味。

 それでも、3人とも、泣き笑いで殴り合っていた。

 周りの村人たちは、コップを傾けながら、笑いながら煽っていた。


 ひとつ、聞きたいことを思い出した。


「ねぇアロハ」

「うん?」

「デンゴラバって、どういう意味?」


「ウガーラ語でね」

「うん?」



 先に逝って待ってろ。後から行く。



 それが、デンゴラバの意味。

 らしい。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。