6.4.12
目を開けると、真っ暗な自分の部屋。
わたしは、ユイさんのお葬式の途中で、ログアウトしてしまった。
しばらく、ぼーっとしていた。
感情の起伏が激しすぎるログイン時間だった。
我に返ると、最初の心配は、メモリアに置いてきた自分のカラダ。
お墓に放置されてたりしないよね。
まさか、わたしまで、埋められたりしてないよね。
スマホに触れる。
ログインして、15分しか経ってなかった。
2時間ログインするつもりだったのに。
1日過ごしただけの、15分でログアウトしてしまった。
寝よ……
翌日。
4月15日、土曜日。
わたしは、図書館へ行った。
百科事典も、パソコンも使って、ウガーラ語について調べようとしたけど、なにもわからなかった。
現実世界には、存在しない言語なのかも。
まゆさんにもメッセージを送ったけど、まだ返事はない。
さらに翌日。
4月16日、日曜日。
少ないお小遣いを使って、インターネットカフェに来た。
鍵付きの個室を借りる。
3時間パックで、1600円。
椅子じゃなくて、フラットな床の部屋。
そうじゃないと、ログインスペースが確保できない。
ニフィル・ロードなら、12日くらい過ごせるけど、長くても10日で帰ってこようと思う。
もしここで、ログインデバイスを落としてログインしたら……
想像したたけでも、大変。絶対に落とさない。
その前に、まゆさんからのメッセージ。
『デンゴラバは知らないけど』
『ウガーラ村のことは総司から聞いたことがある』
『カウント23くらいの時期に、盗賊崩れが作った村の名前がそれだったハズ』
ふーん……
ダストスさんたちの子孫が、作るのかなぁ。
わたしは、座ったまま、ログインゲートを呼び出した。
目を開けると、ホコリっぽくて、薄暗い部屋の中。
わたしは、木枠のベッドに寝かされていた。
マットレスじゃなくて、藁敷きのベッド。
どこも痛くはないけど、起き上がるとマントに、藁クズがいっぱいくっついた。
正面にドアがあるらしく、床から天井まで、オレンジ色の光の線。
ベッドから立ち上がると、床は剥き出しの地面だった。
ドアだと思われる場所に手を伸ばす。
やっぱりドアだ。押すだけで開いた。
真正面に、建物の入り口。
オレンジ色の光は、夕陽だったようだ。
ガヤガヤと、大勢のヒトの声が聞こえる。
そして、あれは、酒場の入り口。
わたしは、酒場の小部屋に運ばれ、そこで寝かされていたらしい。
パタパタとサンダルの音。
厨房から出てきたのは、ガロムちゃんだった。
「あー! みきー!」
「え、え」
ガロムちゃんが、わたしに飛びついた。
「突然、倒れて息もしてないから、死んじゃったかとおもったー!」
ガロムちゃんは、涙声だった。
「ごめんね、ガロムちゃん。言っておけばよかったね」
顔を離すと、鼻水と涙。
わたしのワンピースにも、ちょっとついている。
「お父さんがね、見たことあるから大丈夫だって言って、みきをここまで運んだんだよ」
「そっかぁ。ありがとうね」
「それより、こっちきて。みんな待ってるよ」
「え?」
ガロムちゃんが、力強くわたしの手を引く。
そして、入り口を出て、テラス席の前に出ると。
「おー! わたしびと様!」
「ちがうだろ、娘さんだろ!」
「ああそうか。じゃあなんて呼んだらいいんだ?」
「知らねぇよ。それより、娘さん驚いてるじゃねぇか」
まだよく知らない村人の皆さんで、テラス席は埋まっていた。
テーブルの上には、肉料理や魚料理、野菜が山盛りのお皿。
これは宴会だ。しかも、ただの宴会じゃない。
村を挙げての大宴会。
店の前にも敷物が敷かれ、酒の瓶やコップ。そこにも大勢の村人の姿。
次から次へと、声を掛けられ、わたしの頭は混乱した。
「みきちゃん、ここ座んな」
ハセは、いちばん手前に座っていた。
その隣に、イナムラ。
向かいにアロハ。
「マスター、椅子みたいなのない?」
「おう、ちょっとまってろー。ガロム!」
「はぁい!」
「ほら、突っ立ってないで」
ハセが、わたしの背中を押す。
そして、あけてくれたベンチの端っこへ。
わたしは、されるがままに、そこに座る。
「えっ……と」
向かいに座る、アロハが言った。
「みきちゃんの魔法、すごかったわ」
顔が赤い。かなり酔っている。
そして、お酒くさい。
わたしは、ちょっと長めのまばたきの合間に、自分の嗅覚をトイレの芳香剤に変更した。
「みきね、気絶しちゃったから……なにがおきたの?」
後ろに大男の気配。
「わたしびと様……ケイスケが現れた」
顔を斜め上に向けると、高いところにマスターの顔。
「え……パパ、が?」
「地面から、土ぼこりが舞い上がってよ。
何秒もしなうちに、ヒトの姿になった。
それがよ、白い衣装に、紺色の袴。腰に細いカタナを吊った、ケイスケだったんだ……って、嬢ちゃんが呼んだんだろ?」
「うそ……」
なんで……どうして、わたしは気絶しちゃったの……
みきも、わたしもパパを見たかった。
その後、マスターは、わたしがログアウトした後のことを語ってくれた。
啓介は最初に、倒れ込むわたしを抱きかかえて、地面に寝かせた。
落としたヒースの花束を拾うと、村人達が見守る中で、ユイの盛土に歩み寄り、花束を添えてくれたらしい。
最後に直立し、そのあと深くお辞儀。
その体制のまま、啓介は消えってしまったのだという。
その時間は、ほんの数分。
それでも、ユイの葬儀に現れた「わたしびと」の姿に、集まった村人は、誰もが膝を折り、その姿を焼き付けたという。
アロハが、ため息交じりに言った。
「ほんと……カッコよかったわねぇ。わたしびと様……」
ハセは、その仕草に顔をしかめた。
「おいおい、やめてくれよ」
「ねぇみき、あれはなんだったの?」
「えっと……」
あれは、魔法。
パパを呼んだわけじゃなくて、わたしが生み出した幻覚。
……だと思うんだけど。
なんだか、そうとも言い切れない。
わたしがお願いしたのは、パパの思いを届けてほしいという、パパへのお願い。
だとしたら、幻覚なんかじゃなくて……もしかしたら、パパ本人……?
え、パパの幽霊?
わたしにも、なにがなんだかわからない。
でも、パパがしたかったこと。してくれたこと。
それはわかる。
「パパがね、ユイさんに、どうしてもお花を手向けてあげたかったみたい」
ハセが泣き出した。
「そか。ありがとうな。最後の最後で、最高の栄誉を貰っちまった。これで母さんも、この村の英雄の仲間入りだ」
イナムラもその横で、うんうんと頷きながら、涙を流していた。
「次は……俺たちの仕事だ」
「おう、この村はいわば、おれ達の兄貴みてぇなもんだからよ」
「そうだ。おれ達兄弟で、この村を守っていこう」
「ちょっと、わたしのことも忘れないでよ」
「もちろんだアロハ。これからもよろしく頼むぜ」
「うん」
「おいおい、俺達のことも忘れんなよ。お前らがこの村の兄弟なら、俺たちだってユイの息子……は、おめぇたちだから……腹違いの息子だ。ダッハハ」
知らない村人が、言った。
「てめぇ、なんてこと言いやがんだコノ野郎ぉ。母さんはそんなアバズレじゃねぇよ! オモテ出ろぉ!」
「おおぅやるかぁ! いったるわぁ! ってもう、ここオモテだろがぁ!」
「え、え、なに、ケンカ?」
「いいのよ、気にしないで。ああやって、励ましてくれてるのよみんな」
ぜんぜんそうは見えないけど……
そのまま、ハセとイナムラが、その村人とケンカを始めた。
最初から2対1。しらない村人は、最初から負け気味。
それでも、3人とも、泣き笑いで殴り合っていた。
周りの村人たちは、コップを傾けながら、笑いながら煽っていた。
ひとつ、聞きたいことを思い出した。
「ねぇアロハ」
「うん?」
「デンゴラバって、どういう意味?」
「ウガーラ語でね」
「うん?」
先に逝って待ってろ。後から行く。
それが、デンゴラバの意味。
らしい。




