6.4.11 - デンゴラバ
ユイは、掘られた穴の中だった。
綺麗な麻の布が、かぶせられている。
周りには、お花がたくさん、積み上げられていた。
お花はぜんぶ、うす紫のローズマリーとタイム。
集まった人は、もしかすると、村人全員。
鼻をすする音が、そこかしこから聞こえてくる。
マスターと、ナギサ。ガロムちゃんも参列している。
知らない人ばかりだけど、こんなに大勢いたのかと。
それくらいの人数が、立ち姿でユイを囲んでいた。
後ろのほうには、ダストスの姿もあった。
片膝を折って、顔は地面を向いている。
その後ろにも、二十人近いの男達が並び、みんな片膝を折って、地面を向いていた。
その集団だけは、誰も彼もが盗賊みたいな恰好だった。
村人は50人くらい。ダストスらの集団が20人くらい。
70人前後の人々が、ユイの追悼に訪れていた。
ユイが横たわる穴の正面で、旅人の格好をした老人が両手をソラに広げた。
「かなたの、大いなる光の神に願う。
ユイの御霊を、本日、大地へお返しする。
穏やかに眠れますように。
この地で永遠の安らぎが得られますように。
ここに集う者らと共に、心からの願いと祈りを。
こなたの大地に、お願い申し上げる……」
たくさんの嗚咽のなかから、ひときわ大きな嗚咽。
両手で顔を抑えていたのは、ナギサだった。
その横で、マスターも肩を震わせ、必死にこらえている。
なにかが崩壊したのか。
ユイのふたりの子供。ハセとイナムラが、泣き崩れた。
老人は、言葉を続けた。
ユイの生涯を、切々と語った。
貴族の娘に生まれ、スピカの街で育ったこと。
ウガーラ族の反乱に巻き込まれ、両親と共にカタセ村に流れ着いたこと。
夢物語が終わり、農民の娘となったこと。
「ユイは、17歳でこの地に縛り付けられた。
だが、その彼女こそが、この村で最初のクワを振るった娘だ。
涙をこらえ、汗を流し、泥にまみれ。
かつての暮らしをうらやむことも忘れ。
歯を食いしばり、かぼそい腕で、村の命の源泉を築き続けた」
それは、あまりにも、壮絶な人生。
あの日の夜、わたしが見たユイの顔。
あれは少女時代の何もかもに蓋をして生きてきたユイ。
畑を耕し、次の世代を育て残した、ひとりの女性の顔だった。
ユイの言動は、カタセ村に向けられた、愛情そのもの。
ハセや、イナムラだけじゃない。村人だけでもない。
ユイは、この村そのものを愛し、育み、守っていた。
そして、いま……
その思いの結晶を、カタセ村の大地に埋めようとしている。
今日、カタセ村は、母親を失ったのだ。
そう思ったとたん、わたしの目からも、涙があふれた。
「デンゴラバ……」
最後に老人がそう言った。
たぶん、ウガーラ語。
「デンゴラバ!」
村人とダストス達が、老人に続いた。
全員が、その言葉を復唱した。
それから村人が、順にユイに土をかけていく。
わたしも土を涙で濡らしながら、ユイの上にその土を撒いた。
残った土で、ハセとイナムラが穴を埋めていく。
ときどき手を止めて、涙を拭きながらも、無言で穴を埋めた。
最後に、山ほどのカタバミの花。
ユイの盛土は、いちめんの黄色いカタバミの花に覆われた。
「ミキ」
ダストスがわたしを呼んだ。
「うん……」
手には、どこで摘んできたのか。
ピンク色のヒースの花束。
「最後にこのお花。わたしびと様の娘のミキから」
「……うん」
わたしだって、涙が止まらない。
いまにも、嗚咽を漏らしそう。
でも、やらなきゃ。
これは「みき」と、「わたし」の成すべきこと。
そう直感した。
パパがなにをしたのか。
それは、まだ知らないけれど。
ユイが、この村で畑を耕す原因を作ったのは、きっとパパ。
ダストスから受け取った、ピンク色の花束。
わたしはそれを持って、ユイのお墓の傍へ。
ごめんね。
ほんとうに、ごめんね。
ディルが言っていた。
この世界には。メモリアには。
幽霊がいる。
だからユイも、どこかで、きっと見ている。
だから、わたしは、剣を抜いた。
ブルーム・シード。
その白刃を、空にかかげる。
そして、わたしは目を閉じた。
溢れ続ける感情に、めいっぱいの思いを乗せて。
「わたし」は、「みき」は、空に向かって懇願した。
ねぇ、パパ!
どこかで、見てるの?
ユイさん……死んじゃったよ。
パパも、なにか……してあげてよ。
みきじゃ、なにをしてあげたらいいのか、わかんないよ。
最後に、ユイさんに、パパの思いを届けてあげて。
お願い……パパ……
地面から湧き上がる強烈な波動。
それと、激しく波打つブルームシード。
わたしは、それを握っていた。
そのあと、なにが起きたのか。
わたしは、知らない。
ログアウトしてしまった。




