6.4.09 - 自警団?
わけもわからず。
わたしは、木の上で、泣き出してしまった。
いろんなことが起こりすぎた。
ダストスが窮地に陥り、リュウタがそれを助けた。
まぼろしのリュウタが、生きたオオカミに致命傷を負わせた。
その結果、痩せたオオカミが死んで。
お話するヒマもないまま、リュウタは消えてしまった。
どれが正しくて、どこが間違っていたのか。
なにが悲しくて、なにを喜んだらいいのか。
安心と、後悔と、悲しみが、わたしの中で同時に溢れていた。
わけもわからず、わたしはメソメソと泣いていた。
「ミキ?」
ダストスの声で、顔をあげた。
樫の木に手を掛け、太い枝に座ってわたしを見ていた。
「ありがとうねミキ。助かったわ。いまのも魔法?」
「うん……リュウタ」
「そう。あのオオカミ、リュウタっていうのね。あとでリュウタにもお礼を言わせてね?」
「うん」
「木から降りられる? おやしろに帰るんでしょ」
「うん。帰る」
ダストスにわきの下から抱えられて、わたしは樫の木から降りた。
横たわるオオカミのカラダに刺さっている矢は4本。
首回りからは血が溢れ、地面は血だまりになっている。
わたしはオオカミに近寄り、手を伸ばしてお腹に触れた。
呼吸もなく、鼓動も感じない。
オオカミは、完全に息絶えている。
感じるのは、残された体温だけ。
生きていたという最後の証を、わたしに伝え残そうとしている。
わたしは、背中に刺さっている矢に触れようとした。
リュウタに姿を変えて、噛みついたと思ったら刺さっていた矢。
持って帰ろうかと思ったけど。
……ヤメた。
理由はとくにない。
「このオオカミは、どうなるの?」
「ミキを送り届けたら、ひとまず酒場へ運ぶわ。ハセたちのカタキでもあるからね。どうするかは、ハセとイナムラが決めるんじゃない?」
「そっか。そうだね」
「いきましょ」
「うん」
オオカミの死体を残したまま。
わたしたちは、その場を離れた。
おやしろが見えてきた。
ナイトビジョンで見るおやしろは、文字通りのおばけ屋敷。
陽炎のように浮かぶ、灰色の墓標のようだった。
それでも、そこに辿り着くころには、わたしも少し落ち着いた。
「久しぶりに見たわね。やっぱりセンスゼロだわ、この見た目」
「でも、わたしびと様の注文通りに作ったんでしたよね」
「おれは、いいと思うぜ。ヘタに凝った造りよりも、わかりやすいし頑丈だ」
ダストスに尋ねた。
「建てるのも手伝ったの?」
「そうよ。15人くらいで組み上げたんだっけ?」
「途中で、おかしらが殴り飛ばして、4~5人減ったけどな」
「ッふふふ」
わたしが笑うと、ダストスの表情も崩れる。
「わたしたちは戻るけど、ひとりで大丈夫?」
「うん。ありがとう」
「こっちこそありがとうだぜ、嬢ちゃん」
「そーっすね。普通に捜索したら追い込むのに何日かかったか」
「ひと晩で解決しちゃったものね」
「おかしらは、死にかけましたがねぇ」
「そんなの、いつものことでしょ」
「そうでやすね。ッハハハ」
「じゃあね、おやすみ、ミキ」
ずっと聞きたいと思っていたこと。
帰る前に、それだけ尋ねた。
「ねぇ、ダストスさんたちって……」
「うん?」
「盗賊なの?」
「そう見える?」
「うーん……わかんない」
「アタシたちは、盗賊じゃないわ」
「じゃあなに?」
「カタセ村自警団よ」
「自警団……?」
「元が抜けてますぜ、おかしら」
「いいのよ。アタシたちが全滅するまで、元も今もないの」
「わかんない。こんど詳しく教えて?」
「いいわよ。ぜんぶ教えてあげる。また遊びに来るわね」
「うん。待ってる」
ダストスら3人が、夜道を戻っていく。
3人は振り返ることもなく、暗闇に紛れてしまった。
わたしは、おやしろのドアを開けて中に入る。
灯りをつけて、ギシギシと階段をあがる。
この階段も、修理したほうがいい。
たぶん、あと数回上り下りしたら壊れる。
マントを外して、ブーツを脱ぐ。
ポーチや剣がくっついたベルトを外す。
そして、ベッドに寝ころぶ。
うわぁ、気持ちがいい。
干して、陽の光をたっぷり吸い込んだベッド。
ふかふかで、お日様の匂いがする。
目を閉じると、しばらく、あのオオカミの姿が浮かんでは消えていく。
お腹がすいた。
喉も乾いた。
ログアウトしようかな……
などと、ぼんやり考えていた。
気付いたら、ルシアや、アルベールのことが浮かんでいた。
レストランは、どうなったのかなぁ。
って、まだ1日だから、なんにも変わってないよね。
……




