6.4.08
グックとジンゲの手を借りて、樫の木に登った。
グックとジンゲは、枝から身を乗り出して、弓を構える。
ダストスは、樫の木から10メートルほど離れた場所。
そこで腰の剣を抜いた。
刃渡りは60センチくらいかな。
使い込まれたグリップと、気持ち程度の短いクロスガード。
ショートソードっていうのかな、あれ。
「おかしらぁ、残り300!」
「うん」
ダストスが、腰を落とす。
大丈夫なのかな……大丈夫だよね。ぜんぜん慌ててないし。
「100!」
「1射っ!」
グックとジンゲの指から、矢が放たれた。
放つ先に見えたのは、疾走してくる1匹のオオカミの姿。
わたしにもはっきりと見えた。
ナイトビジョンの色だけど、茶色の毛並みのオオカミだった。
矢が当たったのかどうか、わたしにはわからない。
オオカミは四肢を躍動させて、同じ速度のままダストスの元へと駆けていく。
なるほど。リュウタよりも、ふた回りくらい大きくみえる。
でも、ずいぶんと、やせ細っている。
こんな場所で、たった1匹で。
いったい、どんな理由で。なにがあって。
群れを抜けたのか。それとも群れが全滅したのか。
あのオオカミを見ただけじゃ、なにもわからない。
わかるのは、あのオオカミも、生きるのに必死だということ。
グックの声。
「さんじゅうぅぅ!」
ダストスの返答。
「2射っ!」
グックとジンゲは、流れるような動きで、矢筒から2本の矢を抜き取る。
それをつがえて同時に放つ。
飛翔する矢は、合わせて4本。
うち、2本の矢が、オオカミのお尻と、左肩に刺さる。
しかし、オオカミは止まらなかった。
ダストスの手前、およ3メートルまで駆け寄る。
その位置からオオカミが飛んだ。
ダストスに飛びかかった。
ダストスはショートソードを構えた。
剣の先は、オオカミの軌道の真正面。
オオカミは、空中で顔を逸らす。
牙を斜め下に振り下ろし、ショートソードの刃に噛みついた。
そのまま、前足で体重をかけて、ダストスを突き倒す。
オオカミは、ショートソードに噛みついたまま。
ダストスは、どうにかして、それを振りほどこうともがいている。
オオカミと格闘するダストスが言った。
「1射!」
グックもジンゲも躊躇した。
放ったら、ダストスに当たってしまうかもしれない。
どうしよう。どうしたらいい。
時間がない。リュウタ、リュウタ助けて。
リュウタを呼びたいけど、なにもない。
葉っぱ? 枝?
それとも……
わたしは、グックの矢筒の矢を掴んだ。
「おっ、なんだぁどうしたッ……邪魔しねぇでくれ嬢ちゃん」
そして、目を閉じながら、オオカミの方へと矢を投げた。
顔の前で両手を組んで、投げた矢に願った。
――リュウタ……お願い。ダストスを助けてっ!
「オヒャッ、なんだぁッ!」
グックが奇声を上げた。
わたしは目を開けた。
ジンゲは、弓を投げ捨て、木から飛び降りたところだった。
わたしが投げた矢は、地面に落ちることなく、徐々にその姿を変えていった。
赤んぼうのオオカミが空中を駆け抜けながら、成獣のオオカミになっていく。
その瞬間は、2秒から3秒の合間。
矢は、灰色オオカミの姿にカタチを変えた。
まぎれもない、リュウタの姿。
リュウタはそのまま、地面に着地することもなく、オオカミに突進し背中に牙を突き立てた。
やせ細った大オオカミが、ギャンと、悲鳴を上げながらのけ反る。
噛みついていた剣から牙を離し、ダストスから離れた。
そのすきに、グックの矢が放たれる。
矢は、オオカミの右脚に命中した。
最後は駆け込んできたジンゲが、オオカミの首元に手斧を振り下ろした。
オオカミは声もなく、崩れ落ちた。
リュウタの姿は、いつのまにか消えていた。
背中には、深々と突き刺さった1本の矢が残っていた。




