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『あの世界』の常識に巻き込まれていく話  作者: 渡しログ
カラフルな『あの世界』
506/558

6.4.08


 グックとジンゲの手を借りて、樫の木に登った。

 グックとジンゲは、枝から身を乗り出して、弓を構える。


 ダストスは、樫の木から10メートルほど離れた場所。

 そこで腰の剣を抜いた。

 刃渡りは60センチくらいかな。

 使い込まれたグリップと、気持ち程度の短いクロスガード。

 ショートソードっていうのかな、あれ。


「おかしらぁ、残り300!」

「うん」


 ダストスが、腰を落とす。

 大丈夫なのかな……大丈夫だよね。ぜんぜん慌ててないし。


「100!」

「1射っ!」


 グックとジンゲの指から、矢が放たれた。

 放つ先に見えたのは、疾走してくる1匹のオオカミの姿。

 わたしにもはっきりと見えた。

 ナイトビジョンの色だけど、茶色の毛並みのオオカミだった。


 矢が当たったのかどうか、わたしにはわからない。

 オオカミは四肢を躍動させて、同じ速度のままダストスの元へと駆けていく。

 

 なるほど。リュウタよりも、ふた回りくらい大きくみえる。

 でも、ずいぶんと、やせ細っている。


 こんな場所で、たった1匹で。

 いったい、どんな理由で。なにがあって。

 群れを抜けたのか。それとも群れが全滅したのか。


 あのオオカミを見ただけじゃ、なにもわからない。

 わかるのは、あのオオカミも、生きるのに必死だということ。


 グックの声。

「さんじゅうぅぅ!」

 ダストスの返答。

「2射っ!」


 グックとジンゲは、流れるような動きで、矢筒から2本の矢を抜き取る。

 それをつがえて同時に放つ。

 飛翔する矢は、合わせて4本。

 うち、2本の矢が、オオカミのお尻と、左肩に刺さる。


 しかし、オオカミは止まらなかった。


 ダストスの手前、およ3メートルまで駆け寄る。

 その位置からオオカミが飛んだ。

 ダストスに飛びかかった。


 ダストスはショートソードを構えた。

 剣の先は、オオカミの軌道の真正面。


 オオカミは、空中で顔を逸らす。

 牙を斜め下に振り下ろし、ショートソードの刃に噛みついた。

 そのまま、前足で体重をかけて、ダストスを突き倒す。


 オオカミは、ショートソードに噛みついたまま。

 ダストスは、どうにかして、それを振りほどこうともがいている。


 オオカミと格闘するダストスが言った。

「1射!」


 グックもジンゲも躊躇した。

 放ったら、ダストスに当たってしまうかもしれない。


 どうしよう。どうしたらいい。

 時間がない。リュウタ、リュウタ助けて。

 リュウタを呼びたいけど、なにもない。

 葉っぱ? 枝?


 それとも……


 わたしは、グックの矢筒の矢を掴んだ。

「おっ、なんだぁどうしたッ……邪魔しねぇでくれ嬢ちゃん」


 そして、目を閉じながら、オオカミの方へと矢を投げた。

 顔の前で両手を組んで、投げた矢に願った。


 ――リュウタ……お願い。ダストスを助けてっ!


「オヒャッ、なんだぁッ!」

 グックが奇声を上げた。

 わたしは目を開けた。


 ジンゲは、弓を投げ捨て、木から飛び降りたところだった。


 わたしが投げた矢は、地面に落ちることなく、徐々にその姿を変えていった。

 赤んぼうのオオカミが空中を駆け抜けながら、成獣のオオカミになっていく。

 その瞬間は、2秒から3秒の合間。


 矢は、灰色オオカミの姿にカタチを変えた。

 まぎれもない、リュウタの姿。

 リュウタはそのまま、地面に着地することもなく、オオカミに突進し背中に牙を突き立てた。


 やせ細った大オオカミが、ギャンと、悲鳴を上げながらのけ反る。

 噛みついていた剣から牙を離し、ダストスから離れた。


 そのすきに、グックの矢が放たれる。

 矢は、オオカミの右脚に命中した。


 最後は駆け込んできたジンゲが、オオカミの首元に手斧を振り下ろした。

 オオカミは声もなく、崩れ落ちた。



 リュウタの姿は、いつのまにか消えていた。

 背中には、深々と突き刺さった1本の矢が残っていた。




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