6.4.07
ダストス、ジンゲ、グック。
変な名前の3人に付き添われて、おやしろへ向かう。
前を歩くダストスが言った。
「あれからもう23年かぁ」
「あっというまでしたねぇ」
「おれたちも、歳をとるわけだなぁ」
「ダストスたちも、パパとお友達だったの?」
「うーん、お友達っていうか……なんだろ?」
「なんでしょうねぇ」
「なんだったんだろうなぁ」
「パパは、どんなことをしたの?」
「あら、聞いてないの?」
「……うん」
聞けるわけもない。
「アタシらの命の恩人。どんな逆境でも『ワタシに任せろ』が口癖でね」
「ふーん」
「だから、ついたアダ名が……」
「あっ……わたしびと?」
「そうよ。ウッフフ。カッコよかったなぁ」
遠くを見つめるダストスに、ジンゲとグックが言った。
「おれたちの憧れ。生きる見本だ」
「おかしらは、ベタぼれでやした」
「ねぇ、ミキ」
「うん?」
「わたしびと様……お父さんはどうしたの?」
「うん……今回は、どうしても来られなくて。ごめんね」
「そっかぁ。でも、娘さんが来てくれたなんて、本当に嬉しいわ」
「老けたおかしらを見せずにすんで、よかったですね」
ダストスは、立ち止まって数歩引き返し、ジンゲにケリを入れた。
つま先ではなく、カカトでお腹を蹴った。
「ドゥ…ッ、ッフゥ…ゥ」
ジンゲの呻くような、もだえるような声。
そして言った。
「あざーっス!」
ダストスのケリは、勢いも音も、本気に感じたが。
ジンゲは、苦痛にゆがみながらも、嬉しそうな顔。
……怖い。
「クセだ。気にすんな嬢ちゃん」
「う、うん」
ダストスが言った。
「次に会えるとしたら、また25年後かしら。生きていられるかしらねぇ」
グックが言った。
「生きてたとしても……みんな、ヨボヨボの年寄りだな」
「でもガロムや、スバナは会えるわよね。わたしたちの想いだけでも、残しておかなきゃね」
ごめんね……みきがきちゃって。
わたしが、シュンとしてるのに気がついたのか。
ダストスが慌てた。
「ああ、ごめん、ごめん。ミキが来てくれてほんとに嬉しいんだからね」
ジンゲが言葉を加えた。
「そうですよお嬢さん。娘さんに恩返しさせてもらえるなんて、最高のほまれです」
「あら、いいこと言うじゃない、ジンゲ」
「あざっす。それじゃあ、ぶってくだせぇ」
「イヤよ、きもちわるい」
グックが言った。
「ところでよぉ、おかしら」
「なによ」
「松明を持たねぇで夜歩くのって、やっぱ、マズいんじゃねぇか」
「なんでよ。荷物が減っていいじゃない」
「そりゃそうだけど、見てみろよ、あれ」
グックが、遠くの森を指さした。
「うん? なに?」
わたしも、ダストスも。ジンゲも。
その指の先を眺めた。
わたしには、なにも判別できなかったが、ダストスがいった。
「あら。オオカミじゃない。コッチ見てるわね」
「普通は、松明の火を恐れて寄ってこねぇはずだが……あ、ほら」
「1匹だけかしら。もしかしてあれが?」
「走り出しやしたね。こっちに駆けてきますぜ」
「もしかして、やる気ですかい、あの犬っころ」
「じゃれ合うつもりかもしれないわよ?」
「とにかく、探す手間が省けたなぁ」
「そうね。やっぱり松明持たなくて正解だったわね」
え……と。
オオカミが襲ってくるのかな。
この3人、なんでこんなに平然としてるの。
「で、どうしやす、おかしら?」
「ジンゲと、グックは、あの木に登りなさい。アタシがここで向かえ撃つわ」
「大丈夫ですかい、ひとりで?」
「見た感じ、けっこうデケぇなあのオオカミ」
「あんたたちが、矢を外さなければ問題ないわよ。外さないわよね?」
「へぇ。はずしやせんよ」
オオカミ、どこだろう。
わたしには、まだ見えない。
「ミキは、木登りできる?」
「うーん……ムリ」
わたしは、グックとジンゲの手を借りて、近くに1本だけ生えていた樫の木に登った。
「ほい、手ぇだしな」
グックが、枝の上から腕を伸ばした。
わたしはその手を掴む。
「失礼しますよ。お嬢さん」
ジンゲが、わたしのお尻をささえて、押し上げる。
手助けしてくれるのは嬉しいだけど。
このふたり、臭ぇ……
わたしは目を閉じた。
そして、ジンゲとグックの獣臭を、樫の木の匂いに変更。
ところが、ふたりはガサツだった。
自分の匂いが変わったことに、まったく気がついていない。




