6.4.05
マスターが店のドアを半分あけて、外を眺めた。
わたしも後ろから通りを見たが、ダレも歩いていない。
他のお客さんが、くる気配がない。
「今日はもう、店じまいだな」
店の中には、ダストスと呼ばれる女性と、ふたりの男性。
声が大きいので、聞き耳をたてずとも会話が聞こえてくる。
男性はたぶんダストスの部下。
しかも、ダストスを「おかしら」と呼んでいる。
村人とは異なる界隈のヒト……だと思う。
マスターが言った。
「俺ぁちょっと、ダストスに話がある。みきの嬢ちゃんは、あっちの部屋で、ガロムたちと晩飯食ってろ」
「うん。ありがとう」
結局、大して働きもせせず。わたしはまた、ごちそうになるらしい。
ほんとうに、ごめんなさい。
マスターは、ダストス達の方へ。
わたしは、ガロムちゃんたちと食事する部屋へ。
そこにも、お店にあるのと似たようなテーブルとベンチ。
部屋の奥には、木枠のベッドや衣装箪笥のようなものが見える。
たぶんここは、家族の住居兼ダイニング。
そこで、ナギサさんも含めた3人で、夕食を食べる。
メニューは、お客さんに出したのと同じシチューだった。
それと、ほどほどに堅い黒パン。
肉は、焦げ目がついてるのに、トロトロだった。
口にいれると、まろやかなラタトゥイユのような味。
野菜もたくさんはいっている。
前に食べた、アロハの家のシチューと比べたら、雲泥の差だ。
「おいしい……マスターの料理ってなんでこんなに美味しいの」
「そぉなの? お父さんはね、若い頃に街で料理の修行してたんだって」
「街?」
「うん、スピカだっけ?」
ガロムちゃんが、ナギサに視線を向ける。
「違うわよ。スピカは実家で、お店があったのはヴィルゴシータ。私はウェイトレスで、あの人は見習いコックだったの」
あれ……その街の名前も、なんか聞いたことあるぞ。
「ヴィルゴシータって、もしかして?」
「ヴィルゴ王国の王都よ」
「うわぁ、すごい。どんなお店だったの?」
「ステキなお店だったわ。煌びやかなお客さんに給仕して。それなりのお給料をもらって……」
「ええっ。そんなお店で働いてたなんて、ナギサさんの実家ってお貴族様とか?」
「っフフ。違うわよ。でもまぁ……いまの稼ぎだと、あの店じゃあ、お水もオーダーできないわね」
「ふーん。でも、そんなお店で見習いコックだったマスターもすごいね」
「さぁどうかしら。私もあの人もまだ十代でね。毎晩のように怒られてたわ」
ナギサは、クスクスと笑いながらそう言った。
「それなのにどうしてカタセ村で酒場を?」
「それはね、いろいろあったのよ」
「そっかぁ。いろいろかぁ」
「でも、ここの生活のほうがステキなのは間違いないわ」
「ふーん。そうなんだ」
「かわいい子供たちとずっといっしょ。いっしょに働けるし。お客さんはみんないい人。服にエールこぼしちゃっても、だれも怒らないわ」
なんだか、ナギサさんが遠くを見ている。
おもえば、ユイさんと同じくらいの歳。
お友達だったのかなぁ。ユイさんと。
「ナギサ。ダストスたち、帰るってよ」
突如、マスターが現れた。
「あら、もうお帰り?」
「野営地に戻って、オオカミを追跡してくれることになった」
「あらそう。なら安心ね。よかったわ」
それからマスターは、わたしを見た。
「ところで、みきの嬢ちゃんはどうするんだ? 泊ってくか?」
えっと。
なんにも考えてなかった。
「帰る……つもり」
「夜道は真っ暗だ。オオカミ云々がなくても、ひとりじゃあぶねぇぞ」
うーん……
わたしには、ナイトビジョンの魔法もある。
夜しかない世界で何十日も過ごしていたから、夜道にも慣れている。
もし、オオカミに襲われたとしても、リュウタが追っ払ってくれると思う。
でも、せっかくだから、泊まっていこうかな。
ガロムちゃんちにお泊り。
そしたら、朝の掃除とかで、お手伝いもできるし。
などと考えていたら、マスターの背後から女性の声。
「アタシが、送ってあげるわよ? 家はどのへんなの?」
ダストスだった。
マスターの腕の横から顔を出した。
巨大なマスターの後ろにいて、ぜんぜん見えなかった。
まだ、よくわからない人に夜道を送ってもらうって。
いくらなんでも、ちょっと考えてしまう。
たぶん、このヒトたち、盗賊だよね……
あれ?
だったらある意味、めっちゃ安全?
ダストスは、ガロムちゃんにどことなく似てるマダム。
マスターと仲良しで、もしかしたらマスターの姉か妹。
わたしの予想だと妹。
だから……安心感はすごくある、
「いいの?」
「村の中を、軽く見回りしていくついでよ。いっしょに行きましょ」
マスターが言った。
「おぅ。そりゃ助かる。じゃあ嬢ちゃんも送ってもらうか」
マスターがそういうんなら、きっと大丈夫だ。送ってもらおう。
「うん」
いまが何時かもわからないけど。
ダストスと、その部下らしき2人の中年男性。
見回りも兼ねるっていうなら、それをお手伝いできるかもしれない。
そして、帰り際。
「これもってくか?」
マスターの手には、小ぶりの松明。
でもわたしは、それを断った。
「大丈夫だよ。見回りもするんでしょ。みきが魔法でお手伝いしてあげる」
「魔法? そりゃすごいねぇ。どんな魔法だい?」
ダストスが、冗談めかしてそういった。
「ここじゃ、眩しくなるから、外出てからね」
「はいはい。じゃあ行こうか」
「うん」
「あんたらも行くよ」
「へーい。マスター、ごっそさん」
「おう。また来いよ。嬢ちゃんも気をつけてな。まっすぐ帰れよ」
「うん。ありがとうマスター」
最後に、ガロムちゃんにひとこと。
「ガロムちゃん、おやすみ。またね」
「うん。バイバイ」
ガロムちゃんが働く姿は、大人顔負けだったけど。
仕事がおわると、13歳の女の子だった。




