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『あの世界』の常識に巻き込まれていく話  作者: 渡しログ
カラフルな『あの世界』
503/566

6.4.05


 マスターが店のドアを半分あけて、外を眺めた。


 わたしも後ろから通りを見たが、ダレも歩いていない。

 他のお客さんが、くる気配がない。


「今日はもう、店じまいだな」


 店の中には、ダストスと呼ばれる女性と、ふたりの男性。

 声が大きいので、聞き耳をたてずとも会話が聞こえてくる。

 男性はたぶんダストスの部下。

 しかも、ダストスを「おかしら」と呼んでいる。

 村人とは異なる界隈のヒト……だと思う。


 マスターが言った。

「俺ぁちょっと、ダストスに話がある。みきの嬢ちゃんは、あっちの部屋で、ガロムたちと晩飯食ってろ」

「うん。ありがとう」


 結局、大して働きもせせず。わたしはまた、ごちそうになるらしい。

 ほんとうに、ごめんなさい。


 マスターは、ダストス達の方へ。

 わたしは、ガロムちゃんたちと食事する部屋へ。


 そこにも、お店にあるのと似たようなテーブルとベンチ。

 部屋の奥には、木枠のベッドや衣装箪笥のようなものが見える。

 たぶんここは、家族の住居兼ダイニング。


 そこで、ナギサさんも含めた3人で、夕食を食べる。

 メニューは、お客さんに出したのと同じシチューだった。

 それと、ほどほどに堅い黒パン。


 肉は、焦げ目がついてるのに、トロトロだった。

 口にいれると、まろやかなラタトゥイユのような味。

 野菜もたくさんはいっている。

 前に食べた、アロハの家のシチューと比べたら、雲泥の差だ。


「おいしい……マスターの料理ってなんでこんなに美味しいの」

「そぉなの? お父さんはね、若い頃に街で料理の修行してたんだって」

「街?」

「うん、スピカだっけ?」

 ガロムちゃんが、ナギサに視線を向ける。


「違うわよ。スピカは実家で、お店があったのはヴィルゴシータ。私はウェイトレスで、あの人は見習いコックだったの」


 あれ……その街の名前も、なんか聞いたことあるぞ。


「ヴィルゴシータって、もしかして?」


「ヴィルゴ王国の王都よ」

「うわぁ、すごい。どんなお店だったの?」

「ステキなお店だったわ。煌びやかなお客さんに給仕して。それなりのお給料をもらって……」


「ええっ。そんなお店で働いてたなんて、ナギサさんの実家ってお貴族様とか?」

「っフフ。違うわよ。でもまぁ……いまの稼ぎだと、あの店じゃあ、お水もオーダーできないわね」


「ふーん。でも、そんなお店で見習いコックだったマスターもすごいね」

「さぁどうかしら。私もあの人もまだ十代でね。毎晩のように怒られてたわ」

 ナギサは、クスクスと笑いながらそう言った。


「それなのにどうしてカタセ村で酒場を?」


「それはね、いろいろあったのよ」

「そっかぁ。いろいろかぁ」


「でも、ここの生活のほうがステキなのは間違いないわ」

「ふーん。そうなんだ」


「かわいい子供たちとずっといっしょ。いっしょに働けるし。お客さんはみんないい人。服にエールこぼしちゃっても、だれも怒らないわ」


 なんだか、ナギサさんが遠くを見ている。

 おもえば、ユイさんと同じくらいの歳。

 お友達だったのかなぁ。ユイさんと。


「ナギサ。ダストスたち、帰るってよ」

 突如、マスターが現れた。


「あら、もうお帰り?」

「野営地に戻って、オオカミを追跡してくれることになった」

「あらそう。なら安心ね。よかったわ」


 それからマスターは、わたしを見た。

「ところで、みきの嬢ちゃんはどうするんだ? 泊ってくか?」


 えっと。

 なんにも考えてなかった。


「帰る……つもり」

「夜道は真っ暗だ。オオカミ云々がなくても、ひとりじゃあぶねぇぞ」


 うーん……

 わたしには、ナイトビジョンの魔法もある。

 夜しかない世界で何十日も過ごしていたから、夜道にも慣れている。

 もし、オオカミに襲われたとしても、リュウタが追っ払ってくれると思う。


 でも、せっかくだから、泊まっていこうかな。

 ガロムちゃんちにお泊り。

 そしたら、朝の掃除とかで、お手伝いもできるし。


 などと考えていたら、マスターの背後から女性の声。


「アタシが、送ってあげるわよ? 家はどのへんなの?」


 ダストスだった。

 マスターの腕の横から顔を出した。

 巨大なマスターの後ろにいて、ぜんぜん見えなかった。


 まだ、よくわからない人に夜道を送ってもらうって。

 いくらなんでも、ちょっと考えてしまう。

 たぶん、このヒトたち、盗賊だよね……


 あれ?

 だったらある意味、めっちゃ安全?


 ダストスは、ガロムちゃんにどことなく似てるマダム。

 マスターと仲良しで、もしかしたらマスターの姉か妹。

 わたしの予想だと妹。


 だから……安心感はすごくある、



「いいの?」

「村の中を、軽く見回りしていくついでよ。いっしょに行きましょ」


 マスターが言った。

「おぅ。そりゃ助かる。じゃあ嬢ちゃんも送ってもらうか」


 マスターがそういうんなら、きっと大丈夫だ。送ってもらおう。

「うん」



 いまが何時かもわからないけど。

 ダストスと、その部下らしき2人の中年男性。

 見回りも兼ねるっていうなら、それをお手伝いできるかもしれない。


 そして、帰り際。

「これもってくか?」


 マスターの手には、小ぶりの松明。

 でもわたしは、それを断った。


「大丈夫だよ。見回りもするんでしょ。みきが魔法でお手伝いしてあげる」

「魔法? そりゃすごいねぇ。どんな魔法だい?」


 ダストスが、冗談めかしてそういった。


「ここじゃ、眩しくなるから、外出てからね」

「はいはい。じゃあ行こうか」

「うん」


「あんたらも行くよ」

「へーい。マスター、ごっそさん」

「おう。また来いよ。嬢ちゃんも気をつけてな。まっすぐ帰れよ」

「うん。ありがとうマスター」


 最後に、ガロムちゃんにひとこと。


「ガロムちゃん、おやすみ。またね」

「うん。バイバイ」



 ガロムちゃんが働く姿は、大人顔負けだったけど。

 仕事がおわると、13歳の女の子だった。




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