6.4.01 - みきと、わたし
自分の部屋で目蓋を開ける。
ログインデバイスは机の引き出しの中へ。
スマホに触れると、時刻は深夜1時を過ぎていた。
明日も学校がある。
寝なきゃ。
……
翌朝。
6時半に起きた。
平日の深夜のログインは、朝がつらい。
寝不足のまま、洗面台で笑顔の練習。
今朝のカリカリのトーストは、イチゴジャム。
食べてる途中で、お父さんに「行ってらっしゃい」
食べ終わって支度をすませて、お母さんに「行ってきます」
現実世界の、みきの家族。
優しくて親切な、お父さんとお母さん。
学校へ行けば、仲良しのお友達。親切な先生。
みんな、みきに優しくしてくれる。
だって、みきは、いい子だから。
……みきってなんだっけ。
ダレだっけ……?
わたしは、この名前が好き。
どうしてなのか、思い出せないけど、この名前が大好き。
思い出せなくても、問題ない。
パパとママが、付けてくれた名前。
わたしにとっての「みき」という名前は、失ってしまった家族の絆。
そして、思い出の蓋を開けるためのカギ。
開ければ、いつでも、パパとママに会える。
でも、思い出すと、歩けなくなる。
笑顔も見失ってしまう。
だから今日も、そして明日も。
蓋をしたたまま、学校へ行く。
4月13日、木曜日。
まゆさんとのメッセージ履歴は、カウント22の日記みたいになっていた。
ギルドを設立したこと。
わたしがギルドマスターになったこと。
『わたしも、ギルマスやりたい!』
期待通りの、まゆさんの返事。
アルベールという名前のウォルターに会ったことも伝えた。
『偽名なんだね。またスパイ活動でもしてるのかな』
それと、なぜか、レストランを経営することになったこと。
『レストラン? なんで?』
『ギルドとしての建て前と、資金集めのためだって』
『ふーん。ウォルターなら考えそうだね』
『まゆさんは、カウント25進めてるの?』
『んー……、バイトとか研究会が忙しくて進めてない』
『バイトって、なにしてるの?』
『バグバウンティっていうやつ』
『なにそれ?』
『いまやってるのは、ドローンのハッキングとか』
『え、なんかすごいね』
『でも、おとといミスって、近くを走ってた教授のクルマの制御を乗っ取ってちょー怒られた』
『あはは、なにそれ。でもすごいね。そんなことできるんだね』
『あれは失敗。魔法ミスったときよりも焦った』
『事故にならなかったの?』
『わたしが制御して安全に路肩に止めた』
『帰国するのはいつ?』
『ゴールデンウィークにはそっちに帰るよ』
『そっか。たのしみ』
『ん。みきさんもがんばってね。死なないようにね』
『なにげに、みきは、まだノーデスですから』
『すごい……わたしは1回死んだ。くやしぃ』
死んだら痛いだろうなぁ。
そんなのイヤだから、気をつけなきゃ。
さらに翌日。
4月14日、金曜日の夜。
明日は寝坊できるし、寝不足でも問題無し。
わたしは、深夜0時前にログインした。
目を開ける。
カウント22では、8日目の朝が始まるところだった。
ルシアのテントへいくと、ぎょっとした。
男のヒトが十数人。
なぜかみんなタンクトップ。上半身も腕もムキムキ。
どうやらこの場所でも、ギルドホームとレストランの建設が、始まるらしい。
総監督はアルベール。
お店の設計はフリッツ。
ルシアは交渉事でサポートするらしい。
タデクも力仕事で建築を手伝うようだ。
わたしとディルは、建設メンバーから外された。
ディルは、ルシアの敷地にテントを移していた。
そこで古文の解析に没頭するらしい。
住居が完成するまで1カ月はかかるとのこと。
さらに、お店がオープンするのは2カ月先になるらしい。
それまで好きにしてろと言われた。
わたしも、お茶くみとか、お洗濯とかで手伝うと言ったんだけど。
邪魔だから、あっちいってろと、アルベールに言われてしまう。
ヒドイ……
わたしは役立たずらしい。
メモリアへ行くことにした。
太陽の角度はお昼をちょっと過ぎたくらい。
なんだか、村の方が騒がしい。
ときどき、男性の微かな大声が聞こえる。
とりあえず酒場へ向かう。
みんなに会うのは何日ぶりだっけ。
ガロムちゃんには1回会ったけど。
他のヒトには、1週間くらい会ってない気がする。
ヤバイ。こんなんじゃダメだ……
わたしは、メモリアでも役立たずだ。
もっと、仲良くして、メモリアの人間関係も円満にしておきたい。
だってそうしないと、パパの名が汚れてしまう。
そんな気がするから。




