6.3.15 - ファースト・フォリオお断り
フリッツから発せられた、夢物語。
それを聞いたわたしは、ポカンとしたままだった。
アルベールが最初に付け加えた。
「この計画は、ギルドを健全に実体化することだけではなく、資金調達という重要な目的も含まれている。信頼のエレメントは個人主義だ。よって、この世界での活動と生活に不可欠なものは自己資金。つまりカネだ」
ルシアがアルベールに尋ねた。
「資金調達って、まるで成功が約束されているかのようね」
「無論だ。私がプロデユースし、フリッツが経営するんだぞ。失敗などするわけがない」
ルシアはフリッツに視線を流した。
「どんなお料理を出すつもり?」
「二ツ星ですが、国際派のシェフを連れてくる方向で進めております」
「あら。すごいわね……って、どこまで本気なの?」
「この世界でのメイユ・ウヴリエ(最優秀職人章)を目指す所存です」
「それは……大きく出たわね」
「レストランの管理、運営に関しては、すべて私にお任せください」
「じゃあ、私やミキはなにもしなくていいの?」
「まかない料理……になってしまいますが、ご夕食は、シェフのまかないスペシャリテをご堪能ください」
ルシアの目の色が、徐々に変わっていく。
「給仕は? タデクは知らないけど、私とミキは手伝わないわよ?」
「給仕長とホールスタッフに関しては、アルベール様が手配してくださります」
「向かいにレストランができたとして、私の敷地はどうなるのよ」
「川を挟んだテラス席、というのはいかがでしょうか」
「家畜小屋にはならないの?」
「ジビエ主体でございます。食用飼育は必要ありません」
「じゃあ……ワインは。ワインはどうなるの!」
「ベテランのソムリエを手配しております」
ルシアの表情が、完全に崩れた。
「全部、フリッツがやってくれるのよね?」
「さようでございます」
「……ミキ」
「はい」
「やらせましょう。レストラン」
「うーん……みきたちが住むところは?」
その質問には、それまで黙っていたディルが答えた。
「わたくしが、レストランの隣に越してまいりますわ」
「え、ディルが?」
「はい。そこをギルドメンバーの宿舎にいたしましょう」
「いまのテントは、セーフゾーンじゃなかったの?」
「ちがいますわよ。ただテントを広げていただけですわ」
アルベール、ディル、そしてフリッツ。
なんだか、すごいなこの3人。
現実世界でも、ビジネスを成功させてしまいそうな、勢いと雰囲気。
高校生の、わたしごとき……が出る幕はない。
にもかかわらず、ルシアを含めた4人の視線が、なぜか、わたしに集中していた。
「えっと、みきは、なにをすればいいの?」
アルベールが言った。
「ギルドマスターは、イエスかノーか。それを判断するだけだ。簡単だろ」
え……
それって……簡単……?
ホテルの副支配人に、フレンチレストラン。
国際派のシェフに?
ベテランのソムリエ?
わたし、まだ、高校2年生だし……
フレンチのお店なんて1回しか行ったことないんだけど。
いったい、なにを根拠にして……なにを判断しろと?
というか。ノーと言える雰囲気ではない。
考えよう。
おにいちゃんだったら。
まゆさんだったら。
おにいちゃん。
(もう勝手にしろ。気に入らないことがあったらオレはすぐに出ていく)
まゆさん。
(ん。それやろう。でも、わたしも経営に口出させて)
わたしだったら……
ああ、なんだ。簡単だった。
思ったことを口にすればいいだけだた。
「わかった。みんなでフレンチレストランを始めよう!」
……はぁ。
パパとママに会えるのはいつだろう。
翌朝。
アルベールに羊皮紙を1枚渡された。
ギルドの申請書。
「1枚しかないから、書き間違うなよ」
「ディルに書いてもらうでいい?」
「それがいい。そうしろ」
上から順に、項目を確認した。
まずはギルド名。
『Folio, No Merci』
(フォリオ・ノーメルシ)
名前は、昨日、夜遅くまでみんなで考えた。
さんざん揉めたあげく、英語とフランス語を混ぜた、シェイクスピア風の名前に落ち着いた。
ほんとは、すごく深い意味があるんだけど。
音の良さげな、この名前に決定した。
ギルドマスターはわたし。
財務監査は、スイス人ホテリエのフリッツ。
公文書記は、靴屋の娘ディル。
代議員は、社交力抜群のルシア。
活動監督者は、ポーランド騎士のタデク。
それと影のギルマス、アルベール。
最初のメンバーは、総勢6名。
こうやって書き並べてみると、めちゃくちゃなメンバーだね。
でも楽しい。
スローガンはこれ。
『死ぬときは同じ日、同じ時間、同じ場所』
何日か前のルシアの言葉は、わたしのお気に入りになっていた。
ギルドの目標は、エレメント・コアの攻略支援。
そして、活動内容は。
なぜか、フレンチレストラン。




