6.3.11 - 魂の色
翌朝。
カウント22が始まって、5日目の朝。
噴水広場の周りは、昨日までとは違う喧騒でにぎわっていた。
ハンマーで木を叩く音や、男のヒトの怒号が、あちこちから聞こえる。
どうやら、家の建設が始まったらしい。
エレメント・ノードはこうやって作られていくんだと。
感心しながら、それを眺めていた。
セーフゾーンの確保も熾烈だった。
プレイヤーは1度だけ、自分の土地を宣言することができる。
広さは1辺50フィート。およそ15平方メートル。
貨物船のコンテナで作る四角形よりも少し大きいくらいの土地。
噴水広場周辺の土地はもう、3列目くらいまで埋まっていた。
道はあるのかと、不安になるくらいギュウギュウ。
でも、ルシアのテント周辺は、まだガランとしていた。
噴水広場まで半キロくらいの距離がある。
でもここ、川があるから、次に殺到するのはこのあたりかもしれない。
わたしも、この近所にしたほうがいいのかな。
だとしたら、早めに場所だけ確保したほうがいいかもだけど。
考え事をしていたら、横からルシアの声。
「どうしたのミキ。行かないの?」
「あ、ごめん、行くよ」
「オケイ。わたしたちは、遠くから見張ってるからね」
「うん」
今日は朝から、ディルのテントでアルベールと会う。
わたしは、剣のヒルトから垂れ下がる房飾りに、指先で触れた。
「リュウタにも、チカラを貸してもらうからね」
「あら、アルベールと戦わせるの?」
「あはは、まぼろしのリュウタじゃ戦えないよ」
「また魔術か。オレはどこに通報しにいけばいいんだ」
「だから、魔女じゃないってば。天使よ」
「…………」
「タデクも魔術、使えるかもよ。やってみたら?」
「いや、カンベンしてくれ……」
言いながら、タデクは胸元で十字を切った。
ディルのテントが見えてくると、アルベールは、焚火の傍でお茶をすすっていた。
顔だけ向けて、めんどくさそうに、言葉を放った。
「なぜ、3人で来た」
「私たちは護衛よ。盗み聞きはしないけど、遠くで見張ってるから、そのつもりでいてよね」
「……まぁいい。ならばひとつ言っておく」
「なによ」
「知ると、命に係わる可能性がある。死にたくなかったら聞くな」
「ちょっと、そんな物騒なハナシを、ミキとするの?」
「その可能性があるというだけだ。安全なハナシだけで済むなら、そのほうが望ましい。おまえならわかるよな?」
アルベールが、タデクに視線を向けた。
「わからないし、知りたくもない」
タデクは無表情のままだが、ルシアはますます、目元の皺を深くした。
「大丈夫ミキ? ほんとうにいいの?」
「うん、大丈夫だよ。リュウタもいるし」
「わたくしも、離れていたほうがいいかしらね」
テントから、ディルが顔を出した。
「そうしてくれ。ミキに危害を加えることはないと誓おう」
ディルの焚火の横にいるのが、わたしと、アルベールだけになった。
アルベールは腰に両手をあてて、わたしを眺めている。
「まったく、君の従者は過保護だな」
「あはは。そうだね。みんな心配してくれる」
「君に聞きたいことは、ひとつだけだ」
「うん」
「ウォルターとは、どこで知り合った?」
「えっと……その前に、ひとつ確認したいことが」
「なんだ?」
「魂の色が見たい」
「はぁ? なんと言った?」
私が腰の剣に手をかけると、さすがのアルベールも警戒したようだ。
無表情のまま、ほんの半歩くらい後ろに下がった。
念のため、ルシアたちがいるほうに笑顔を見せて、大丈夫のサイン。
心配させちゃうからね。
それと、アルベールにもひとこと。
「これは、剣じゃなくて、魔法の杖だから」
わたしはブルームシードを抜いた。
房飾りを目元に寄せて、リュウタを呼ぶ。
数日前の派手なやつじゃなくて、子供のリュウタでいい。
わたしは、房飾り越しに、焚火の煙にお願いした。
ユラユラと立ち昇る、煙の根元が歪む。
歪んだ煙が、目の高さまで昇ると、灰色の煙のカタマリができていた。
そのカタマリが、ふぅっと息を吹きかけられたように飛び出した。
煙は、瞬く間にカタチを変え、生後3か月くらいのちっこいリュウタの姿になった。
そのまま、わたしの胸元に駆け込んでくる。
わたしは剣を鞘に戻し、煙のリュウタを抱っこした。
魔法で生み出したリュウタだから、意識も感覚も、最初から接続済み。
数日ぶりの、リュウタとの意識の会話。
最初に浮かぶのは、いつもいっしょ。
お腹空いた。
背中掻いて。
ゴメンね。
してあげたいけど、できないの。
だって、煙だもん……
ねぇ、リュウタ。
あのおじさんの色、みきに見せて?
わたしを見上げていたリュウタの顔が、アルベールに向く。
さすがのアルベールも、口をホの字に開けて、驚いた表情をしている。
魂の色。
実はそんな色、存在しない。
ただ、感覚が伝わってくるだけ。
他にふさわしい言葉がないから、魂の色だと言っている。
電話が鳴る前に、鳴るのがわかる瞬間。
赤ん坊だけにわかる、母親を見分ける感覚。
会いたい、帰ろう、そう思った瞬間。
リュウタにはそれがわかる。
わたしがどれだけ変装しても、どれだけ歳をとっても。
リュウタには、それが「みき」だと見分けることができる。
そしていま。
リュウタがみた、アルベールと名乗る男性の色。
それは、まぎれもなく。
カウント24で知り合った、ウォルターだった。




