6.3.10
帰り際。
わたしだけ、噴水広場に寄って、おやしろへ向かう。
昼間でも真っ暗なので、デバイスを出して灯りを点ける。
明るくなった室内を見て思い出した。
掃除の途中だったんだ。
見たくなかった。
壁際の棚に近寄って、手斧の形をした錆の塊を眺めた。
それが3本、並んでいる。
掴み取って、もっていこうとしたけどムリ。
1本でもけっこう重い。
ホコリ臭い亜麻布の袋があったので、それに詰め込む。
この袋も、ところどころが擦り切れ、端っこには穴が空いている。
それと、砥石のようなも。四角くて茶色い平らな石。
ただのレンガかもしれないけど、1個だけあるのはおかしい。
砥石かもしれないから持っていく。
全てを亜麻布の袋に詰め込むと、かなり重かった。
でもこれでゴミが減るし、タデクが有効活用してくれるはず。
わたしはそれを抱えて噴水広場へ。
最初の頃よりは落ち着いているけど、広場は慌ただしい。
ぶつからないように注意しながら、ルシアのテントへ向かう。
タデクは焚火に座っていた。
「あれ、ルシアは?」
「あいつは、夕飯の調達だとかで、メモリアへ行った」
「そっか」
タデクに袋の中の手斧を見せる。
「これ使えそう?」
タデクが1本を掴み取った。
「ああ、これくらいなら問題なさそうだ。研げばまた使えるよ」
「よかったぁ。砥石みたいなのもあるよ」
タデクにレンガも見せる。
「これも使える。さっそく研いで、斧を復活させよう」
さすが中世の騎士だ。
現代人のわたしから見たら、レンガと錆びのカタマリだった。
「いまから研ぐ?」
「他にすることがないからな」
「みきは、また掃除しにもどるけど」
「そうか。気をつけてな」
「うん」
なんか……家族っぽい。
ルシアおねえちゃんと、タデクおにいちゃん。
わたしは、また噴水広場まで戻り、メモリアへ飛ぶ。
まずは川か井戸を探そうと、おやしろの外に出た。
壁ぎわには、昨日運び出したガラクタが積んである。
何に使うのかわからない板切れや、棒が抜けた木の車輪。
崩れかけた棚、錆び錆びのノコギリやミノ。
もしかして、ノコギリも使えるのかな。
まぁいいや。
カビだらけの布は、雑巾に使うから捨てない。
だから、水が欲しいんだけど。
見渡しても、川も井戸も見当たらない。
辺りは平地で、北側は森。
遠く南側に、カタセ村の建物が見える。
村へいけば井戸があると思うけど、そこまで1キロ。
オオカミが出るって言ってたから、森に近寄るのはヤメよう。
アロハに挨拶しにいくのも、今度でいいよね。
うーん……
ヨレヨレの竹ぼうきみたいなのが1本ある。
今日は、掃き掃除でいいか。
わたしはそれから、日が暮れ始めるまで、おやしろのホコリを外に掃きだした。
ベッドのお布団を干すのは明日でいいや。
夕方。噴水広場に戻った。
テントに戻ると、ルシアは焚火の鍋をかき回していた。
「ミキー、おかえり。ご飯もうすぐできるけど、ちょっと手伝って」
「うん」
「お水汲んできてもらっていい?」
「わかった」
やっぱり家族みたいだなぁ。
そのうち間違って、おねえちゃんとか呼んじゃいそう。
タデクは川辺に座って、亜麻布の袋で手斧を磨いていた。
「わぁっ、斧が綺麗になってる」
手斧はピカピカに生まれ変わっていた。
「やけに重いと思ったが、ただの鉄ではなく鋼鉄の斧だ。柄もしっかりしているし、たかが手斧だと思ったが全体の作りもいい。錆びを落として正解だったよ」
「そうなんだ。よかった」
「おまえも、1本使うか?」
「みきには、そんな重いの持ち歩けないよ」
「そうか。ならばしばらく、オレが借りて使おう」
「うん、ないよりはいいでしょ」
「これなら充分だ。ありがとう」
そっか。
もしかして、この手斧もパパの形見……なのかな。
だったら、上等な手斧にきまってるよね。
パパを見つけたら、もっといいやつをおねだりしよ。




