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『あの世界』の常識に巻き込まれていく話  作者: 渡しログ
カラフルな『あの世界』
493/586

6.3.10


 帰り際。

 わたしだけ、噴水広場に寄って、おやしろへ向かう。


 昼間でも真っ暗なので、デバイスを出して灯りを点ける。


 明るくなった室内を見て思い出した。

 掃除の途中だったんだ。

 見たくなかった。


 壁際の棚に近寄って、手斧の形をした錆の塊を眺めた。

 それが3本、並んでいる。

 掴み取って、もっていこうとしたけどムリ。

 1本でもけっこう重い。


 ホコリ臭い亜麻布の袋があったので、それに詰め込む。

 この袋も、ところどころが擦り切れ、端っこには穴が空いている。


 それと、砥石のようなも。四角くて茶色い平らな石。

 ただのレンガかもしれないけど、1個だけあるのはおかしい。

 砥石かもしれないから持っていく。


 全てを亜麻布の袋に詰め込むと、かなり重かった。

 でもこれでゴミが減るし、タデクが有効活用してくれるはず。


 わたしはそれを抱えて噴水広場へ。

 最初の頃よりは落ち着いているけど、広場は慌ただしい。

 ぶつからないように注意しながら、ルシアのテントへ向かう。


 タデクは焚火に座っていた。

「あれ、ルシアは?」

「あいつは、夕飯の調達だとかで、メモリアへ行った」

「そっか」


 タデクに袋の中の手斧を見せる。

「これ使えそう?」

 タデクが1本を掴み取った。

「ああ、これくらいなら問題なさそうだ。研げばまた使えるよ」

「よかったぁ。砥石みたいなのもあるよ」

 タデクにレンガも見せる。

「これも使える。さっそく研いで、斧を復活させよう」


 さすが中世の騎士だ。

 現代人のわたしから見たら、レンガと錆びのカタマリだった。


「いまから研ぐ?」

「他にすることがないからな」

「みきは、また掃除しにもどるけど」

「そうか。気をつけてな」

「うん」


 なんか……家族っぽい。

 ルシアおねえちゃんと、タデクおにいちゃん。



 わたしは、また噴水広場まで戻り、メモリアへ飛ぶ。

 まずは川か井戸を探そうと、おやしろの外に出た。


 壁ぎわには、昨日運び出したガラクタが積んである。

 何に使うのかわからない板切れや、棒が抜けた木の車輪。

 崩れかけた棚、錆び錆びのノコギリやミノ。

 もしかして、ノコギリも使えるのかな。

 まぁいいや。


 カビだらけの布は、雑巾に使うから捨てない。

 だから、水が欲しいんだけど。

 見渡しても、川も井戸も見当たらない。


 辺りは平地で、北側は森。

 遠く南側に、カタセ村の建物が見える。

 村へいけば井戸があると思うけど、そこまで1キロ。

 オオカミが出るって言ってたから、森に近寄るのはヤメよう。

 アロハに挨拶しにいくのも、今度でいいよね。


 うーん……

 ヨレヨレの竹ぼうきみたいなのが1本ある。

 今日は、掃き掃除でいいか。


 わたしはそれから、日が暮れ始めるまで、おやしろのホコリを外に掃きだした。 

 ベッドのお布団を干すのは明日でいいや。



 夕方。噴水広場に戻った。

 テントに戻ると、ルシアは焚火の鍋をかき回していた。


「ミキー、おかえり。ご飯もうすぐできるけど、ちょっと手伝って」

「うん」

「お水汲んできてもらっていい?」

「わかった」


 やっぱり家族みたいだなぁ。

 そのうち間違って、おねえちゃんとか呼んじゃいそう。


 タデクは川辺に座って、亜麻布の袋で手斧を磨いていた。

「わぁっ、斧が綺麗になってる」

 手斧はピカピカに生まれ変わっていた。


「やけに重いと思ったが、ただの鉄ではなく鋼鉄の斧だ。柄もしっかりしているし、たかが手斧だと思ったが全体の作りもいい。錆びを落として正解だったよ」

「そうなんだ。よかった」


「おまえも、1本使うか?」

「みきには、そんな重いの持ち歩けないよ」


「そうか。ならばしばらく、オレが借りて使おう」

「うん、ないよりはいいでしょ」

「これなら充分だ。ありがとう」


 そっか。

 もしかして、この手斧もパパの形見……なのかな。

 だったら、上等な手斧にきまってるよね。



 パパを見つけたら、もっといいやつをおねだりしよ。



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