6.3.09
昼過ぎに、川辺で解散した。
そのままディルのテントまで戻り、お昼をごちそうになった。
ディルは、メモリアを往復して、調理済みの料理皿を持ち込んだ。
焦げ目の入った、ソースたっぷりの煮魚。
良く煮込まれた野菜のシチュー。
ルシアやタデクは、美味しそうに食べていた。
ルシアが言うには、現代でも通用しそうなフレンチっぽい料理らしい。
でも、全体的に辛いのとスッキリと甘いが複雑に混ざり合ったというかなんというか。
わたしの口には合わなかった……かも。
わたしが貧乏性なのかも……
お昼を食べ終わって、その帰り際。
「ミキさん」
ディルがわたしだけを呼び止めた。
「うん?」
「正直にお話しますね」
「え?」
「アルベールが、ミキさんとふたりでお話をしたいそうです。明日の朝か夕方、もういちどここにいらしてくれませんか?」
「アルベール……が?」
「はい。ウォルターという人物に関することで伝えたいことがあると」
ああ、そういう……
もしかして、知ってはいけないことを知ってる娘……
だから、みきは、消される……?
なんてね。どうしよう。怖いなぁ。
「ルシアや、タデクには聞かれたくない話ってことだよね」
「そのようですね。ご心配でしたら、わたくしも同席いたしますけど」
「うん……わかった。じゃあ明日の朝でもいい?」
「ええ。ありがとうございます。お待ちしています。ミキさん」
「それじゃあ、また明日」
その場を離れた。
ルシアとタデクは、だいぶ先を歩いていた。
相談したほうがいいかなぁ。
ダメだよね。
それがダメだから、こっそり伝えたんだよね。
ルシアが、振り返った。
「どうしたの、ミキ?」
「うーうん、なんでもない」
「あっ、なんかウソっぽい。私にウソはつけないわよミキ。なにか心配ごと?」
やっぱり、ルシアには、話しておこう。
そのまま帰り道。
アルベールが、わたしに会いたがっていることを、ルシアに話した。
タデクも聞いていた。
「あの、アルベールという男は不気味だ。どういう男なんだ」
「そういえば、ミキは、見たことあるって言ってたわね。同じヒトだったの?」
「わかんない。名前は違うヒトだった」
「どうせアルベールは偽名だろ。名前だけはドイツっぽいが、ドイツ人らしさがない。オレは騙されないぞ」
「そうなの?」
「でも、サイコパスって感じはしないし。損得で動くタイプにも見えないわ」
「損も得も持たないってのは、いざとなったら、なにもかも見捨てて自分だけ逃げるってことだ」
「あら、よく見てるじゃない、タデク」
「オレもそうだからな」
「いいわよ。私は嫌いじゃないわよ、そういうの。ミキもでしょ?」
「うん。身近に似たヒトいたからね」
「なんだよそれ。免疫みたいなやつか。逆に危なっかしいな」
「身近にいたから知ってるのよ。逃げ出すっていっても、きっと最後でしょ。みんなが先に死んでから、最後に逃げるヤツ」
生きた時代が違うと、死生観も違うかもしれないけど。
もうタデクにも、ルシアにも。
わたしよりも、長生きしてほしい。
その気持ちは変わらない。変えられない。
だから、タデクにも言っとく。
「逃げてもいいから、みきよりも長生きしてね。おにいちゃん」
「ダレがおにいちゃんだ。ヤメロ」
「ちょっとぉ、ミキ、私は? 私には?」
「ルシアはぜったい、みきよりも長生きして」
「ああ……それは……イヤ」
「えー、なんでー」
「死ぬときはね。同じ日、同じ時間。同じ場所がいいわ」
「うむ、それは賛成だ。オレもそうすべきだった」
「そんな、うまくいくかなぁ……」
「ミキ」
「うん?」
「アルベールは、聞かれたくない話を、ミキとふたりでしたいのよね?」
「うん、たぶんそう」
「じゃあ明日の朝、私とタデクは、遠くから見張ってるわ。変なことされそうになったら、すぐに大声だしなさい。タデクが助けに行くから」
「おい、ちょっとマテ」
「なによ。嫌なのタデク? 仕事よ?」
「こんなこと言いたくないが……あのアルベールとかいう男に、オレは勝てないかもしれん」
「どうしてよ。今日見た感じ、アルベールも武器は持ってなかったわよ?」
「ただの感だが。アルベールが殺してきた人間の数は、桁がたぶんひとつ違う」
「ねぇタデク」
「なんだよ姫様」
「錆びた斧なら持ってこれるかも。研いだら使える?」
「斧か。それなら他の役にも立つから、あるなら持ってきてくれ」
「3本くらいあったかも」
「錆びてていいから、2本でも3本でも持ってきてくれ」
捨てようと思ってたガラクタなんだけど。




