6.3.06
わたしたちは、ディルの知人の元へと向かった。
ルシアが、先頭を歩くディルに尋ねた。
「どのくらい歩くの?」
ディルは、お嬢様言葉のわりに、歩く姿は普通だ。
腕を振りながら、スタスタと歩く。
ふと、同級生のゆうこちゃんの姿がダブル。
「遠くはないですが、近くもないですわね。馬車でもあればすぐですが」
「馬車? 馬もいるの?」
「いませんね。信頼エレメントはいつまで経っても徒歩ですわね」
「へぇ」
ルシアのカラ返事。
タデクが、ディルに尋ねた。
「なんだ。この世界は、馬が希少なのか?」
「タデク様は、ニフィル・ロードについてはあまりお詳しくないようですね」
「迷い込んだばかりでな。不思議な世界だということは理解したが、なにもわかっていない」
「大抵の場合、馬を手に入れるには、仔馬から育てなくてはなりません。個人で育てる者なら稀にみかけますけど、乗れるようになった馬を譲ってもらえる可能性は低いですね」
「育てなきゃいけないのか」
「もしかしたら、どこかの平原に野生の馬が存在する可能性もあるらしいのですけどね。聞いたことはありませんね」
そういえば、仔馬は見かけたな。
知恵には、ヘラジカもいたけど、信頼では見かけないなぁ。
育てるの難しいみたいだし。
そもそも、ヘラジカが存在するメモリアのプレイヤーがいない……とかかな。
ルルは、どうしたかなぁ。
ルミナス・コアで死んじゃったのかな。
って言っても、ここカウント22だから、50年以上先だね。
まだ、生まれてもいなかった。
またルシアが尋ねた。
「ねぇ、ディル」
「はい?」
「他には、どんな言語が喋れるの?」
「テュルク語、ギリシャ語、アラビア語、ペルシャ語、それとラテン語が少し」
「すごいわね。ぜんぶ教えてほしいわ」
そのまま、ルシアとディルの会話が弾んだ。
ルシアの対人能力の高さはスゴイ。
そして、なんだろう。
ちょっと嫉妬めいたものを感じる。
それから、けっこうな距離を歩いた。
途中から川沿いを歩き、森が見えてきた頃。
すっかりお昼になっていた。
ゆるい丘を登りきったところでディルが言った。
「あのテントですわ」
それは、テント群だった。
サーカスを開催するには狭いかもだけど大きなテント。
ベッドが3つか4つくらい入りそうな四角いテントが3つ。
それと小ぶりな円すいのテントが4つ。
ヒトもたくさんいる。
見渡す限りで10人くらい。
「すごいわね。あれもギルド?」
「あれは、ギルドではなく、評議会施設の予定地です」
「ええっ……」
わたしとルシアが、同時に声を上げた。
先にルシアが問いかけた。
「ちょっとまってよ、これから会うディルの知人ってどんなヒト?」
「評議会の役員になる予定の人物です」
「やったわねミキ。コネよ、コネ。コネを手に入れるチャンスよ」
「うん……ハハハッ……」
「って、ちょっとまって、ディル」
「はい?」
「役員のポストに入れるのにギルドに入りたがってるの?」
「今回から役員候補になったのですが、本人は乗り気ではないみたいで。断わる理由を探しているようです」
「あらそう。偉い人の頭の中って、どこの世界でもよくわからないのね」
「そうか? オレだったら、カネ積まれても、そんなめんどくさいことはやらんが」
「そうね。タデクならそう言うと思ったわ。合格よ」
「おい。オレはもう、合格済みだろ」
ディルを先頭に、テント群に近づいていく。
森が近く、川の音が心地よい。
そこから吹いてくる風に癒しすら感じる。
いい場所だと思ってしまった。
わたしのおうちも、この辺に建てたいかも。
ルシアの家から遠くなっちゃうけど。
「あ、みつけましたわ。やはりヒマそうにしていますわね」
「うん? どれ?」
「あの焚火で、パイプを咥えている人物です」
焚火に座っているのは、聞いていたとおりの40代の男性。
仕立ての良さそうなグレーのフォーマルスーツを着ている。
なんか……
若い……というのが第一印象……
歳は違うけど、見たことあるヒト。
「ぱっと見、ドイツ人ぽいわね」
「フフッ、そう見えますわよね?」
「いや、違うな。雰囲気はあるが、あれは違う。プロイセンではない」
うん……わたしもそう思う。
あれが、わたしの知ってるヒトなら、たぶんアメリカ人。
弟さんがいたなんて話は、聞いたことがないけど。
そうじゃないなら、きっと本人。
ウォルターさんにそっくりだ。
まゆさんが言ってた、カウント22のウォルターさん。
ニフィル・ロードであんなスーツ着て。
しかも、お気に入りがパイプ。
そんな共通点があって、顔までそっくり。
そこまで似た別人なんて、いないよね普通。




