6.3.02 - 勧誘
4月10日、火曜日のお昼。
スマホのビリビリ音には気が付いていた。
授業中は怒られるから、チャイムが鳴るまで待つ。
メッセージの着信は、まゆさんの連投3件。
『カウント25でランタポンタと合流した』
『啓介と詩織は知恵らしい』
『ランタとポンタもカウント22は知恵』
背中からチカラが抜けた。
ウソでしょ。ウソって言って。
ヘナヘナと机の上にもたれた。
ゆうこちゃんから「告ってフラれでもしたの?」とか言われた。
チガウ……違うけど、ものすごい脱力感。
やっぱ、まゆさんに聞いてからにすればよかった。
もう信頼でスタートしちゃったよーぅ。
パパとママに会うには、エレメント・コアを抜けて、知恵のコアまで旅をするのが確定かも。
って、あれ。
じゃあなんで、ルシアは、信頼に来たんだろう。
まぁ、いっか……
最初から、謎の美女だし。
放課後。
まゆさんからまた3通のメッセージ。
『ウワサで聞いたんだけどさ』
『ウォルターが22の信頼にいるらしいよ』
『所属は知恵だと思うから探してみたら面白いかも?』
どこのウワサだよ。
でも、面白そうだから、探してみよ。
その日の夜。
深夜0時に、わたしはログインした。
カウント22へ。2回目のログイン。
目を開ける前から真っ暗。
開けても、部屋の中が真っ暗だった。
ログインデバイスを出して、灯りを点ける。
そして、2階の床板の上で起き上がった。
寝てたわけじゃないから、どこも痛くないけど、マントがホコリだらけだ。
この場でマントをはたくのはやめて、そのまま1階に降りる。
記憶の回廊へ飛んでから、ホコリを落とす。
あれ。ここではたき落としたホコリってどうなるんだろ?
って、ちょっと気になったけど、信頼のエレメント・ノードへ向かう。
東のソラを見ると、うっすらと赤い。
陽が昇ろうとしている。
もうすでに、わたし以外にも、歩いているヒトがチラホラ。
でも、あちこちの焚火の周りで、プレイヤーが寝ていた。
みんな地面にごろ寝。
ルシアのテントの周りでも寝てるヒトが2人。
まだテントがあるだけマシなのかな。
ルシアと、タデクだった。
昨日と同じ焚火と鍋。
鍋の底に、焦げた茶色いナニカがこびり付いている。
へんな匂い。
なに食べたんだろう。
ルシアは自分の腕を枕に原っぱにごろ寝。
あれって、腕が痛くなるよね。
タデクは消えかけた焚火の前に座っているが、いびきをかいている。
夜明けまであと少し。
そのまま寝かしておこう。
起こさないように。静かに鍋を掴み上げる。
小川に持っていき、鍋を洗う。
「ハロ」
後ろから女の人の声。
振り返ると、ふんわりとしたオリーブ色のロングドレス。
すっごいキレイなブロンドのミディアムヘア。
肌の色は白くて、黒目の周りは青っぽい。
歳は20代前半くらいだと思うけど、お人形さんじゃないなら妖精さん?
……ってくらいの美女だった。
「ちょっとお時間いいかな」
妖精さんが、ドイツ語をしゃべった。
「はい?」
「私の名前はケーテ。よろしくね」
握手は求めず、右手を胸にあてながら、女性はケーテと名乗った。
わたしは、立ち上がってお辞儀しながら返答した。
「みきです」
「こんにちわミキ。あなたって、どこかのギルドに所属してるの?」
「ギルド?」
「うん。まだ、未所属?」
ギルドって……なに……
ケーテが言葉を続けた。
「もしまだだったら、いちど見学に来ない?」
「見学?」
「うん。まだ募集始めたばかりだけど、もう20人くらいいるよ。ちなみにギルマスは、そこそこイケメンのドイツ人」
「へー……」
その前に、ギルドって……なんですか……
「そっちは、3人かな? みんな一緒でも構わないし大歓迎なんだけど、どう? 興味ある?」
「あの、そのギルドって、どんなことをするの?」
「あー、方向性? えっとね。安全第一で楽しみながら、全員で完走しようがスローガン。評議会にも知り合いがいるから自由もきくわよ」
「ふーん」
えーっと……評議会……
わからないことが多すぎる。
「どう? 興味あるなら、ギルマスを紹介するけど?」
「え……あ、えっと。相談してからでもいい?」
「ああ、そうね。じゃあどうしよっか……また、あとで来るね」
「うん」
「じゃね、ミキ」
「うん。ばいばい」
ケーテが立ち去っていくのを、手を振って見送る。
「おはようミキ」
「あ、ルシアー」
「やーん、ミキー。朝帰りなんてヒドイわー」
今日も朝いちばんのルシアのハグ。
このスキンシップにも慣れてきている。
「で、どうしたの、あのドイツ人だれ?」
「ギルド? に入らないかって勧誘された」
「ああ。それね。私も昨日誘われたわ。あの子じゃなかったけど」
「ねぇルシア、ギルドってなに? ゲームとかのやつとおんなじ?」
「私もゲームとか知らないのよね」
ルシアと会話していると、横から男の声。
「組合とか、寄り合のことだろ? オレの国にも、北の方にいくとあるよ」
タデクだ。
燃えカスだけの焚火の前に座って、背伸びをしている。
「あら、タデクも起きたのね」
「もぅ、起きてるなら、だれか助けてよぉ」
「スマンな。オレは……ドイツが嫌いなんだ」
「ええ、なんで?」
「まぁ憎んでいるのはドイツというより、プロイセンなんだがな。なんども殺し合って、オレも殺した。仲間も大勢殺された。だからドイツという国とその連中には、あまり関わりたくない」
「ふーん。そうなんだ」
「あのオンナのギルドに参加したいのか?」
「うーうん。みきの目的は、そういうんじゃないからなぁ」
「そうか。ならいいんだ」
しばらくの沈黙あと、ルシアが言った。
「私も昨日、情報を集めてきたから説明するわ。ついでに朝ごはん食べましょう」
「うん」
ギルドに、評議会。
まゆさんがいたら、目を輝かせそうな単語だ。




