6.2.12 - おやしろ(カウント22)
ガロムの歳は、たぶん13歳くらい。
後ろから眺めると、ぽっちゃり感がある。
酒場の娘って感じの、ふくよかな女の子だった。
癖っ毛の短い黒髪を、ゆさゆさと揺らしながら歩いている。
やっぱり、全体的にかわいい。
そのガロムが、後ろも振り向かずに言った。
「ねぇ、みきは、おやしろなんかに行ってなにするの?」
「パパがね、ずっと前に住んでたんだって。だから見に行く」
「ふーん」
「ねぇ、ガロムちゃん。おやしろって、お化け屋敷なの?」
「原っぱにぽつんと、四角い石臼みたいなのが立ってるんだけどね。壁とかドアに触れようとしても、手が届かないんだよね」
「えっ?」
「手を伸ばしても、ポヨンて弾かれるの」
「ふーん」
セーフハウスに使うクリスタルかな。
みきは、入れるのかなぁ。
「あとね。夜に松明の火をかざすと、うねうねした明かりを反射するんだよね。不気味でしょ」
「そうなんだ。夜だとそれ怖いね」
「ねぇ、もしかして……みきちゃんのパパって……幽霊?」
「うーん……」
間違ってはいない。
かもしれない。
「あの森の端っこあたりだよ」
ガロムが、指先を向ける。
まだ1キロくらいありそうだ。
歩く場所は道ではなく、原っぱ。
案内がないと、辿り着けない場所。
気を使ってくれたマスターに、心から感謝だ。
「ねぇ、ガロムちゃん」
「なに?」
「この村は、いつできたの?」
「あたしはよく知らないんだけど、25年前? 正確には、23年くらい前に、うちのお父さんたちが、最初に住みついたんだって」
「ふーん」
「最初は村とも言えなくて、6~7人しかいなかったらしいよ。って、いまも50人くらいの、小さな村だけどね」
「そっかぁ。じゃあこれから発展していく村だね」
「どうかなぁ。立ち寄る旅人はあんまりいないし。村の外は盗賊もいるし。オオカミとかクマもいるんだよね。オオカミは村にもたまに出てくるよ」
「オオカミかぁ……」
「あたしは見たことないけど、たまにお父さんとかも駆り出されて、追っ払いにいってるんだよね。怖いよね」
盗賊は怖いけど、オオカミなら、お友達になれるかなぁ。
「盗賊も襲ってくるの?」
「盗賊はね、親戚とかがいるらしいから、襲ってこないよ。むしろうちの大事なお客さん」
「え、そっちのほうがヤバくない?」
「あっはは。街とかお城のヒトには、ナイショらしいんだよね。だからみきちゃんも、聞かなかったことにして」
ってことは。
盗賊が、どこかから巻き上げたお金で、商売してる酒場……ってこと?
ヒドイのか、逞しいのか。
「あ、そろそろ、見えてきたよ」
原っぱの先に、ぽつんと見える建物。
灰色の四角い建物だった。
塀のようなものはなく、原っぱに突然、ぽつんと立っている。
近づくにつれて、ゴマ豆腐みたいな見た目になり、目の前までくると、そのまま巨大なゴマ豆腐になっていた。
灰色のレンガを組み合わせたような、無骨な建物。
窓はないみたい。
まんなかに、堅そうな木でできたドアだけついている。
「やっぱり、お化け屋敷だね。ほんとにみきのお父さんの家?」
「うーん、ドア開けられるかやってみる」
「え、開けるって、さわれないのに?」
扉に手を伸ばしてみたら、ポヨンと弾かれた。
柔らかい風船みたいな感触だけど、扉に手は届かない。
ためしに壁にも触れようとしてみたけど同じだ。
感触は、セーフハウスに使うクリスタルに似ている。
わたしは、右手を叩いて、ログインデバイスを出した。
後ろでガロムが驚いてるけど、無視して手を伸ばす。
また、弾かれた。
「入れない……」
「いや、むりでしょ。だれも入れたことないんだよ?」
そうだよね。
このデバイスは、パパのデバイスのコピーだけど、パパのデバイスじゃない。
おにいちゃんは、パパのデバイスだったから、入れたんだろうけど。
ヒドイ。
パパのおうちなのに、入れない。
みきは、入れてもらえない。
「ガロムちゃん」
「うん? なに?」
「少し離れてて」
「え、壊すの? 壊せるの?」
「違う」
魔法を使う。
目を閉じて、おうちのドアを思い浮かべた。
パパがいるのは、そのドアの先。
記憶の回廊では開けることができなかった、パパとママと、みきたちのおうちのドア。
意識の中で、ノブに触れる。
そして回す。
あとは、引くだけ。
――パパ……みきだよ。みきも、パパのおうちに入れて。
「うわっ、なにっ。歪んでるっ」
ガロムが、後ろで驚いてるけど、集中集中……
目を開けた。
見上げると、ゴマ豆腐のレンガの建物が歪んでいる。
音はしないけど、そこだけ地震で揺れているように見える。
でも、その歪みは、数秒でおさまった。
「いまのなに……お化けの仕業?」
「うーんとね……わたしびとパワー?」
「え、なにそれ」
扉に手を伸ばす。
弾かれなかった。
扉に触れることができた。
カギはかかっていない。
ノブを掴んで、回す。
そして引く。
中は真っ暗だった。
扉から差し込む光の届く範囲が、かろうじて見えている。
右側にはハンガーラックかな。
正面の奥はよく見えない。
左側はたぶん棚かな。
「ガロムちゃん、ちょっと待っててね。中を見てくるから」
「う……うん、大丈夫? っていうか、いったいなにしたの?」
「えへへ」
足を踏み入れた。
真っ暗。
すぐ手前の棚に、ほこりまみれのオイルランタンが見える。
近づいて拾い上げてみたけど、使えるわけないよね。
オイルが入っているようにも見えない。
そもそも、使い方もわからないし。
だんだん目が慣れてきたけど、奥はよく見えない。
なにかが潜んでいるような感じはしないし、お化けが出るとしても、それパパだよね?
なら、いいんだけど。
「ねぇ、みき、大丈夫なの?」
真後ろからガロムの声。
驚いて、振り向いた。
「え、ガロムちゃんも入れたの?」
「あーごめん。入らないほうがよかった?」
「うーうん……そっか、そっかそっか!」
そっか……
ガロムは、みきのお友達なんだね。
だから、パパが、招待してくれたのかも。
「そっかー。あっはは」
「ええ、どうしたのみき。もしかして呪われちゃった?」
「違う違う。だってここ、お化け屋敷じゃなさそう。たぶん、パパがすんでたおうち」
「そっかー。あたしはまだちょっと怖いけど」
「あっはは。暗いし、すごいほこりっぽいもんね。だいぶ掃除しなきゃ」
古いタンスの匂いと、ほこりっぽさしかないけど。
ここは、パパが使っていたおうち。
ぜったいそうだよ!




