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『あの世界』の常識に巻き込まれていく話  作者: 渡しログ
カラフルな『あの世界』
482/588

6.2.12 - おやしろ(カウント22)


 ガロムの歳は、たぶん13歳くらい。


 後ろから眺めると、ぽっちゃり感がある。

 酒場の娘って感じの、ふくよかな女の子だった。

 癖っ毛の短い黒髪を、ゆさゆさと揺らしながら歩いている。

 やっぱり、全体的にかわいい。


 そのガロムが、後ろも振り向かずに言った。

「ねぇ、みきは、おやしろなんかに行ってなにするの?」

「パパがね、ずっと前に住んでたんだって。だから見に行く」


「ふーん」


「ねぇ、ガロムちゃん。おやしろって、お化け屋敷なの?」

「原っぱにぽつんと、四角い石臼みたいなのが立ってるんだけどね。壁とかドアに触れようとしても、手が届かないんだよね」

「えっ?」


「手を伸ばしても、ポヨンて弾かれるの」

「ふーん」


 セーフハウスに使うクリスタルかな。

 みきは、入れるのかなぁ。


「あとね。夜に松明の火をかざすと、うねうねした明かりを反射するんだよね。不気味でしょ」

「そうなんだ。夜だとそれ怖いね」


「ねぇ、もしかして……みきちゃんのパパって……幽霊?」

「うーん……」


 間違ってはいない。

 かもしれない。


「あの森の端っこあたりだよ」


 ガロムが、指先を向ける。

 まだ1キロくらいありそうだ。

 歩く場所は道ではなく、原っぱ。


 案内がないと、辿り着けない場所。

 気を使ってくれたマスターに、心から感謝だ。



「ねぇ、ガロムちゃん」

「なに?」

「この村は、いつできたの?」

「あたしはよく知らないんだけど、25年前? 正確には、23年くらい前に、うちのお父さんたちが、最初に住みついたんだって」

「ふーん」

「最初は村とも言えなくて、6~7人しかいなかったらしいよ。って、いまも50人くらいの、小さな村だけどね」

「そっかぁ。じゃあこれから発展していく村だね」


「どうかなぁ。立ち寄る旅人はあんまりいないし。村の外は盗賊もいるし。オオカミとかクマもいるんだよね。オオカミは村にもたまに出てくるよ」


「オオカミかぁ……」

「あたしは見たことないけど、たまにお父さんとかも駆り出されて、追っ払いにいってるんだよね。怖いよね」


 盗賊は怖いけど、オオカミなら、お友達になれるかなぁ。


「盗賊も襲ってくるの?」

「盗賊はね、親戚とかがいるらしいから、襲ってこないよ。むしろうちの大事なお客さん」

「え、そっちのほうがヤバくない?」


「あっはは。街とかお城のヒトには、ナイショらしいんだよね。だからみきちゃんも、聞かなかったことにして」


 ってことは。

 盗賊が、どこかから巻き上げたお金で、商売してる酒場……ってこと?


 ヒドイのか、逞しいのか。


「あ、そろそろ、見えてきたよ」


 原っぱの先に、ぽつんと見える建物。

 灰色の四角い建物だった。

 塀のようなものはなく、原っぱに突然、ぽつんと立っている。


 近づくにつれて、ゴマ豆腐みたいな見た目になり、目の前までくると、そのまま巨大なゴマ豆腐になっていた。

 灰色のレンガを組み合わせたような、無骨な建物。

 窓はないみたい。

 まんなかに、堅そうな木でできたドアだけついている。


「やっぱり、お化け屋敷だね。ほんとにみきのお父さんの家?」

「うーん、ドア開けられるかやってみる」

「え、開けるって、さわれないのに?」


 扉に手を伸ばしてみたら、ポヨンと弾かれた。

 柔らかい風船みたいな感触だけど、扉に手は届かない。

 ためしに壁にも触れようとしてみたけど同じだ。


 感触は、セーフハウスに使うクリスタルに似ている。


 わたしは、右手を叩いて、ログインデバイスを出した。

 後ろでガロムが驚いてるけど、無視して手を伸ばす。


 また、弾かれた。


「入れない……」

「いや、むりでしょ。だれも入れたことないんだよ?」


 そうだよね。

 このデバイスは、パパのデバイスのコピーだけど、パパのデバイスじゃない。

 おにいちゃんは、パパのデバイスだったから、入れたんだろうけど。



 ヒドイ。

 パパのおうちなのに、入れない。

 みきは、入れてもらえない。



「ガロムちゃん」

「うん? なに?」

「少し離れてて」

「え、壊すの? 壊せるの?」

「違う」


 魔法を使う。


 目を閉じて、おうちのドアを思い浮かべた。

 パパがいるのは、そのドアの先。

 記憶の回廊では開けることができなかった、パパとママと、みきたちのおうちのドア。


 意識の中で、ノブに触れる。

 そして回す。

 あとは、引くだけ。


 ――パパ……みきだよ。みきも、パパのおうちに入れて。


「うわっ、なにっ。歪んでるっ」

 ガロムが、後ろで驚いてるけど、集中集中……


 目を開けた。

 見上げると、ゴマ豆腐のレンガの建物が歪んでいる。

 音はしないけど、そこだけ地震で揺れているように見える。


 でも、その歪みは、数秒でおさまった。


「いまのなに……お化けの仕業?」

「うーんとね……わたしびとパワー?」

「え、なにそれ」


 扉に手を伸ばす。

 弾かれなかった。

 扉に触れることができた。


 カギはかかっていない。

 ノブを掴んで、回す。

 そして引く。



 中は真っ暗だった。

 扉から差し込む光の届く範囲が、かろうじて見えている。

 右側にはハンガーラックかな。

 正面の奥はよく見えない。

 左側はたぶん棚かな。


「ガロムちゃん、ちょっと待っててね。中を見てくるから」

「う……うん、大丈夫? っていうか、いったいなにしたの?」

「えへへ」


 足を踏み入れた。

 真っ暗。

 すぐ手前の棚に、ほこりまみれのオイルランタンが見える。

 近づいて拾い上げてみたけど、使えるわけないよね。

 オイルが入っているようにも見えない。

 そもそも、使い方もわからないし。


 だんだん目が慣れてきたけど、奥はよく見えない。

 なにかが潜んでいるような感じはしないし、お化けが出るとしても、それパパだよね?

 なら、いいんだけど。


「ねぇ、みき、大丈夫なの?」

 真後ろからガロムの声。

 驚いて、振り向いた。


「え、ガロムちゃんも入れたの?」

「あーごめん。入らないほうがよかった?」


「うーうん……そっか、そっかそっか!」


 そっか……

 ガロムは、みきのお友達なんだね。

 だから、パパが、招待してくれたのかも。


「そっかー。あっはは」

「ええ、どうしたのみき。もしかして呪われちゃった?」


「違う違う。だってここ、お化け屋敷じゃなさそう。たぶん、パパがすんでたおうち」


「そっかー。あたしはまだちょっと怖いけど」

「あっはは。暗いし、すごいほこりっぽいもんね。だいぶ掃除しなきゃ」



 古いタンスの匂いと、ほこりっぽさしかないけど。

 ここは、パパが使っていたおうち。



 ぜったいそうだよ!



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