6.2.11
リュウタの遠吠えを聞いたあと。
めそめそしていたわたしを、ルシアが抱きしめた。
タデクはというと、なにも言わずに立っていただけ。
ただ、ぽかんと口をあけたまま、唖然とした表情でリュウタがいた場所を眺め続けていただけだった。
その日の午前中。
わたしたちは、別れて行動することになった。
タデクは、食糧を探しにメモリアへ行く。
わたしもメモリアへ戻る。
ルシアは、情報収集とかコネ作りをするらしい。
ひとまず3人で、噴水のところまで歩く。
わたしは、タデクとルシアに言った。
「じゃあ、行くね。夜に戻れなかったら、明日の朝には戻るね」
「わかったわ。ミキも、ログアウトするの?」
「うん。できそうな場所があればだけど」
「ダコール。なかったらテントに戻ってきて。朝まで見張っててあげるから」
「うん。ありがと」
「ミキ」
タデクの声。
「うん?」
「おまえの騎士になるかどうかは、まだ保留にさせてくれ」
「そんなのならなくていいよ。ルシアが大げさなだけ」
「いや、いいんだ。他にすることがないのも事実だ。ただな……」
「うん?」
「いまのオレじゃ役立たずだ。おまえの友達の白銀のオオカミに並び立つこともできない」
「ふふっ、それも大げさ」
白銀じゃなくて、灰色だし。
「マジメね。タデクは」
「それも買いかぶりだ」
「そう?」
タデクに聞く。
「メモリアへの行き方わかる?」
「ここを押せばいいんだよな」
タデクの右手に、ログインデバイス。
噴水広場なので、メモリアへ行くコマンドが表示されている。
「うん、そだよ」
「じゃあオレも行ってくるよ」
「うん、ケガしないでね」
「ホント、無茶しないでよタデク。大事な戦力なんだからね」
「武器もなしに、どう無茶しろって言うんだ」
「武器は探してみるけど、なかったら買ってあげるわよ。どんなのがいいの?」
「……」
無表情な仏頂面をルシアに向けたまま、タデクが虹色に光って消えた。
「もうルシア、ヒドイ。タデクがかわいそう」
「そう? ああいう男は、あれでいいのよ」
「そうかなぁ……」
「ミキは大丈夫なの? お金持ってるの?」
「フフッ、お母さんみたい」
「だって心配だもん。ミキも気をつけなきゃダメよ?」
「はぁい」
「やーん、ミキ、かわいいー!」
「もう、わかったってそれは。行ってくるね」
わたしも、ログインデバイスを出して、目を閉じた。
噴水広場の喧騒が消える。
目をあけると、記憶の回廊。
わたしだけの灰色の部屋。
記憶の回廊でログアウトすることはできない。
まゆさんいわく「不公平だから」ということらしいけど。
ここでログアウトできたら、安全なのにね。
不便だよなぁ。
今日は、探し物をする。
25年前にパパが住んでいたらしき住居。
おやしろだっけ。
メモリアに戻ると。
……臭い。
こびり付いたアルコールの匂い。
それと、チーズとかお肉を、3日くらい放置したような匂い。
とにかく、吐きそう。
目を開ける前に魔法をかけることにした。
今日は、制汗剤の匂いにしよう。
コンビニで売ってるやつ。
匂いの感覚が変わる。村の匂いが、ぜんぜんしなくなった。
夏場に、シュッシュッとスプレーしたあとの、ツンとくるような匂い。
目を開けると、酒場のテラス席。誰もいない。
でも、建物のドアは開けっぱなしで、その奥から足音が聞こえた。
お客さんはいなくても、酒場は朝から忙しそうだ。
入り口に近づいて、声を掛けた。
「あのう、こんにちわ?」
「おぅ、ちょっとまってろ。おいガロム、ナイフ洗っといてくれ」
「はーい」
しばらくして、ジャリジャリと土の地面を踏みしだく音。
暗がりから出て来たのは、大男。酒場のマスター。
「おぅ、ミキの嬢ちゃんじゃねぇか。戻ったのか」
「うん」
「急にいなくなっちまったからなぁ。俺と女房は見たことあったけど、アロハは腰抜かして、パニック起こしてたぞ」
「ごめん。あとで謝っとく」
「っははは。んで、どうした。腹減ったのか」
「お腹は大丈夫。あのね、おやしろ? だっけ? どこにあるか、場所知りたくて」
「ああ、わたしびと様の家か。よし、ちょっとまってな」
マスターが、背中を向ける。
「ガロム、ちょっといいか」
「はぁい」
ドアの中には、正面と右と左にドア。
右のドアだけ開いていて、その中も食堂になっているみたい。
たぶん厨房もそこにあるのかな。
マスターが向き直る。
「なんだ、嬢ちゃん、なんか森みたいな匂いがするな」
「え、そう?」
「心配だなぁ。遠出するときは、ボディーガード付けろよ」
「遠出はしないよ。留守にはするけど、ずっとこの村にいるから」
「そうか。まぁ、なんか困ったことあったら、いつでも言えよ」
「うん、ありがとう」
ガロムが右の部屋から顔を出した。
「ナイフぜんぶ洗ったよ、お父さん」
「こんにちは。ガロム」
「あー、みきだ。いらっしゃーい。なに、お腹空いたの?」
「っふふ、おんなじこと言ってる。わたしそんなに食いしん坊じゃないよ」
「あっはは。そう?」
「おい、ガロム。スバナは預かっとくから、ミキを、おやしろまで案内してやれ。場所はわかるよな?」
「おやしろ……って、ああ、あのお化け屋敷みたいなとこ?」
「おまえなぁ……まぁいい、たぶんソレだ。北の外れにある石の家」
「ああ、そうそう。ソレ」
どうやら、ガロムが道案内してくれるらしい。
ガロムが、背負っていた赤ちゃんを降ろす。
今日も、くりくりで、もこもこの赤ちゃん。
やっぱり、パンダの赤ちゃんみたい。
スバナちゃんて言うんだね。
「じゃあ、いこっか。みき」
「うん」
「行ってくるね、お父さん」
「おう」
ガロムを先頭に、酒場を離れた。
時刻は、まだ午前中。
朝ごはん食べたのに、酒場にいたからかな。
それか、マスターの顔を見たから?
なんだか、お腹がすいてきた。




