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『あの世界』の常識に巻き込まれていく話  作者: 渡しログ
カラフルな『あの世界』
477/588

6.2.07


 翌朝。


 最初に聞こえたのは、いびき。

 カラダを起こすと、すぐ近くにルシアの顔。

 ルシアのいびきじゃなかった。

 でも、気持ちよさそうに眠ってる。



 うるさいのはこっち。消えかけた焚火の反対側。

 タデクは、寝苦しそうなうつ伏せ。

 地面にヨダレを垂らしながら、地鳴りのようないびきをかいていた。

 亜麻布のシャツがめくれて……おしりが半分見えている。

 わたしは、そっと近づいて、めくれている布を戻した。


 東のソラから昇る朝陽を眺めながら、カラダを伸ばす。

 もう、だいぶ明るくて、ソラの色は青い。


 やっぱり、この世界の朝は気持ちがいい。


 噴水広場の方に視線を向けると、すでに大勢のプレイヤーが歩き回っていた。

 耳を澄ますと、英語は半分も聞こえてこない。

 知らない言語が大半だった。

 わかるのは、ドイツ語。それとたぶんオランダ語。

 フランス語は、あんまり聞こえない。

 中国語みたいなのが聞こえるかも。

 でも、日本語は、まったく聞こえてこない。


 パパとママは、どこだろうな。



「ミキ、おはよう」

 ルシアが起きた。


「おはよう、ルシア」

「ミキとキャンプで外泊。朝の挨拶……またひとつ、夢が叶ったわね」

「そんなの、たぶんこれからずっとだよ」

「そうよね。そうなのよね。ずっと冒険するんだもんね。すごいね、ニフィル・ロードって」


 ルシアの言葉は英語。

 朝からテンションが高そうだ。


 昨日は、ドイツ語をしゃべって、フランス語もちょっと話して。

 実際、ルシアと過ごすニフィル・ロードは、すごい旅になりそうな予感する。


「ねぇミキ、今日はなにをすればいいの?」

「ええ。なにするって、ルシアは予定ないの?」

「私は初心者だから、なにしたらいいかわからないわ。ミキがしたいことでいいわよ」


「うーん。パパとママを探したいんだけど。

 エレメント・ノードにいつ来るかもわかんないし。

 そもそも、信頼に来るのかどうかもわかんない」


「え、この近くにはいないの? ミキのダディーとマミー」

「うーん、わかんない」

「そっかー。じゃあ、当面は情報収集ね。って、さっきからウルサイわね」


 うるさいのは。

 タデクのイビキ。


「ねぇ、ミキ」

「うん?」


「このヒト、どうする?」

「え、どうするって……うーん……」


「わたしもヒトのこと言えないけど、タデクも、なんにも知らないで来たみたいね」

「うん……悪いヒトなのかなぁ」


「そうは思わないけど。焚火作ってくれたんでしょ?」

「うん」


「タデクが、ポーランド人だってことは、ミキは聞いてるのよね」

「うん」

「西暦1900年からログインしてるってのは聞いた?」

「えっ、そんな昔から」


「タデクは130年前のポーランド騎士の家系らしいわよ」

「ふーん?」

「もしかしたら、すごく強いのかもしれないわ。この男」

「そうなの?」


「私も、歴史の授業はぜんぜん受けてないから知らないけどね。

 その頃のポーランドって、国自体が占領されてて存在しなかったんじゃないかしら?

 とにかくそのくらい戦火にまみれてる騎士なのだとしたら、実戦経験も、相当豊富かもってこと」


「ふーん」

 わたしには、まるでピンとこない話。

 タデクの家族はどうしてるのかな。


「フガっ、ガっ……」

 うつ伏せで苦しそうなタデクが、呼吸を荒げながら、寝返りを打った。


「はっ! ミキ! 見ちゃだめー!」

 ルシアがわたしに覆いかぶさる。

 どうしたんだろう。


 昨日、あれほど獣臭く感じたルシアの革のベストが、そうでもない。

 匂いが消えたのではなく、たぶん、わたしが慣れた。


「ちょっと、タデク起きて! 起きろー!」

 ルシアのドイツ語。


 わたしの視界は、ルシアの覆われている。

 タデクは、なにをしているんだろう。

 寝ているのに?


「どうしたの、ルシア」

「なんでもないのよ。ミキは気にしないで。だから見ちゃだめよ。キレイでカワイくて、純粋なままのミキでいてね」

「うん?」


 ルシアが、腰に止めている、コルク抜きを抜いた。

 それを、タデクの方に放りなげた。


「痛っ……なんだ、なにがっ」


「起きたの? いますぐ、それをしまって! っていうか、服とズボン買ってきてあげるから、サイズはいくつよ!」


「な、なんだっ、どこだここは。おいここはどこだ!」


 なんだかわからないけど、寝ぼけてるのかな。


「いいから、はやくしまいなさい!」

「はぁ? なんだ? なにがだ?」

「ソレよ、ソレ。わかるでしょ!」


「え、あっ……ああ……スマン」


「……ふぅ、あぶなかったわ。もう大丈夫よミキ」

「うん。えっと、ありがとう?」


 ルシアの腕から、離れた。

 タデクは焚火を背にして座り、大きなあくびをしていた。

 


 なんだかわからないけど。

 今日も賑やかに、1日が始まったみたい。



 さて。

 今日はなにをしたらいいんだろう。




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