6.2.07
翌朝。
最初に聞こえたのは、いびき。
カラダを起こすと、すぐ近くにルシアの顔。
ルシアのいびきじゃなかった。
でも、気持ちよさそうに眠ってる。
うるさいのはこっち。消えかけた焚火の反対側。
タデクは、寝苦しそうなうつ伏せ。
地面にヨダレを垂らしながら、地鳴りのようないびきをかいていた。
亜麻布のシャツがめくれて……おしりが半分見えている。
わたしは、そっと近づいて、めくれている布を戻した。
東のソラから昇る朝陽を眺めながら、カラダを伸ばす。
もう、だいぶ明るくて、ソラの色は青い。
やっぱり、この世界の朝は気持ちがいい。
噴水広場の方に視線を向けると、すでに大勢のプレイヤーが歩き回っていた。
耳を澄ますと、英語は半分も聞こえてこない。
知らない言語が大半だった。
わかるのは、ドイツ語。それとたぶんオランダ語。
フランス語は、あんまり聞こえない。
中国語みたいなのが聞こえるかも。
でも、日本語は、まったく聞こえてこない。
パパとママは、どこだろうな。
「ミキ、おはよう」
ルシアが起きた。
「おはよう、ルシア」
「ミキとキャンプで外泊。朝の挨拶……またひとつ、夢が叶ったわね」
「そんなの、たぶんこれからずっとだよ」
「そうよね。そうなのよね。ずっと冒険するんだもんね。すごいね、ニフィル・ロードって」
ルシアの言葉は英語。
朝からテンションが高そうだ。
昨日は、ドイツ語をしゃべって、フランス語もちょっと話して。
実際、ルシアと過ごすニフィル・ロードは、すごい旅になりそうな予感する。
「ねぇミキ、今日はなにをすればいいの?」
「ええ。なにするって、ルシアは予定ないの?」
「私は初心者だから、なにしたらいいかわからないわ。ミキがしたいことでいいわよ」
「うーん。パパとママを探したいんだけど。
エレメント・ノードにいつ来るかもわかんないし。
そもそも、信頼に来るのかどうかもわかんない」
「え、この近くにはいないの? ミキのダディーとマミー」
「うーん、わかんない」
「そっかー。じゃあ、当面は情報収集ね。って、さっきからウルサイわね」
うるさいのは。
タデクのイビキ。
「ねぇ、ミキ」
「うん?」
「このヒト、どうする?」
「え、どうするって……うーん……」
「わたしもヒトのこと言えないけど、タデクも、なんにも知らないで来たみたいね」
「うん……悪いヒトなのかなぁ」
「そうは思わないけど。焚火作ってくれたんでしょ?」
「うん」
「タデクが、ポーランド人だってことは、ミキは聞いてるのよね」
「うん」
「西暦1900年からログインしてるってのは聞いた?」
「えっ、そんな昔から」
「タデクは130年前のポーランド騎士の家系らしいわよ」
「ふーん?」
「もしかしたら、すごく強いのかもしれないわ。この男」
「そうなの?」
「私も、歴史の授業はぜんぜん受けてないから知らないけどね。
その頃のポーランドって、国自体が占領されてて存在しなかったんじゃないかしら?
とにかくそのくらい戦火にまみれてる騎士なのだとしたら、実戦経験も、相当豊富かもってこと」
「ふーん」
わたしには、まるでピンとこない話。
タデクの家族はどうしてるのかな。
「フガっ、ガっ……」
うつ伏せで苦しそうなタデクが、呼吸を荒げながら、寝返りを打った。
「はっ! ミキ! 見ちゃだめー!」
ルシアがわたしに覆いかぶさる。
どうしたんだろう。
昨日、あれほど獣臭く感じたルシアの革のベストが、そうでもない。
匂いが消えたのではなく、たぶん、わたしが慣れた。
「ちょっと、タデク起きて! 起きろー!」
ルシアのドイツ語。
わたしの視界は、ルシアの覆われている。
タデクは、なにをしているんだろう。
寝ているのに?
「どうしたの、ルシア」
「なんでもないのよ。ミキは気にしないで。だから見ちゃだめよ。キレイでカワイくて、純粋なままのミキでいてね」
「うん?」
ルシアが、腰に止めている、コルク抜きを抜いた。
それを、タデクの方に放りなげた。
「痛っ……なんだ、なにがっ」
「起きたの? いますぐ、それをしまって! っていうか、服とズボン買ってきてあげるから、サイズはいくつよ!」
「な、なんだっ、どこだここは。おいここはどこだ!」
なんだかわからないけど、寝ぼけてるのかな。
「いいから、はやくしまいなさい!」
「はぁ? なんだ? なにがだ?」
「ソレよ、ソレ。わかるでしょ!」
「え、あっ……ああ……スマン」
「……ふぅ、あぶなかったわ。もう大丈夫よミキ」
「うん。えっと、ありがとう?」
ルシアの腕から、離れた。
タデクは焚火を背にして座り、大きなあくびをしていた。
なんだかわからないけど。
今日も賑やかに、1日が始まったみたい。
さて。
今日はなにをしたらいいんだろう。




