6.2.04
マッチは、擦るとすぐにパっと燃え上がった。
でも、あっというまに消えてしまう。
燃え移る前に火が消える。
なかなか焚火まで届かない。
現代のマッチとは違うみたい。
10本近いマッチをダメにしたところで、焚火に火が灯った。
ハーブはローリエと、これはなんだろ。
どこにでも生えてそうな葉っぱ。
パセリに似てるけど、スッとする甘い香りがする。
とりあえず、沸かしたお湯にハーブだけ浮かべて湯煎する。
急ごしらえのハーブティー。
コップがないので、白菜の葉をむしって、それで掬って口の中に流し込む。
はぁ~……
目が覚めるくらいの、葉っぱの苦味。
でも美味しい。
少し気分が落ち着いた。
辺りを見回すと、完全に夜になっていた。
ところどころに、焚火の灯りも見えるけど。
プレイヤーの人影が見えるのも、その周囲だけ。
朝のことはよく覚えているけど。
それからルシアと再会するまでのことは、あんまりよく覚えてない。
もう忘れた。
というより、思い出すのは危険。
それより、食材。
中途半端に残してもダメになっちゃうだろうから、全部煮込んじゃおう。
白菜みたいな野菜を手で剥がして、葉を沈めていく。
腰のキッチンナイフを抜いて、鶏肉を刻む。
調味料は、ハーブと塩。
舐めてみると、塩は、あんまりしょっぱくない。
とにかく全部煮込んだ。
アクをとって、少量の塩で味を調える。
というより、塩でいろいろごまかす。
それでもお腹ペコペコだからか、いい匂いだ。
器がないので、キッチンナイフで刺して掬う。
うん……苦味が強いけど、美味しい……かも。
日本人好みの味。
白菜みたいな野菜の苦味がいい。
春菊みたいな味。
鶏肉に巻いて食べると、苦味がいいアクセントになる。
量は沢山あるので、大量に残ってる。
でも、充分にお腹いっぱいになった。
食べ終わって、少し火を弱めておく。
弱めたら、途方もない寂しさが湧き上がっていた。
ルシアはまだ起きない。
それを眺めていたら、なんだか眠くもなってくる。
いま何時だろうと、ログインデバイスを出した。
『ELAPSED 00:22』
36時間くらいかな。
いまは、夜の8時か9時かなぁ。
テントに頭を突っ込むルシア。
たぶん、ログアウトしてから4時間くらい。
あと2時間かぁ……
それまで、寝ることもできないよね。
もし、再ログインしなかったらどうしよ。
ここに、ルシアのお墓つくんなきゃだけど。
それは、ムリです……
もう。
なにしに来たの、ルシア。
やることがない。
わたしは、腰の剣を鞘ごとはずした。
それから、剣を抜く。
焚火の灯りに照らされる片刃の剣。ブルームシード。
左のポーチを開けて、小瓶をふたつ。
それと、油が染みた、臭い布。
おにいちゃんから教わった、剣の手入れ。
鞘を逆さまにして、地面に向けて何度も振る。
2日に1回くらいやってるから、大してゴミは落ちない。
布で獣脂を鞘の表面に塗り込む。
最後に、鞘の中のウールに、油を垂らす。
「枯れないでね」
わたしは、鞘に向かって、ドイツ語でそう言った。
「そこは、錆びないで……じゃないのか。お嬢ちゃん」
ドイツ語の声。
振り向くと、亜麻布の服1枚の男の人。
焚火をセットしてくれた人だった。
さっきは夕闇でよく見えなかったけど、焚火の灯りで、顔つきもよく見える。
歳は二十歳くらいかな。
おにいちゃんと、同じくらいだと思うけど。
ぜんぜん似てない外国人だった。
おにいちゃんで慣れてるけど、怖そうな顔つき。
それと、体つきがすごい。
筋肉隆々だけど、ムキムキというわけじゃない。
なにかのスポーツか、格闘技の達人みたいな印象。
でもなんだか、表情だけは、元気なさそう。
わたしは剣を鞘に納めて、立ち上がった。
そして、お辞儀した。
「あの、さっきはありがとうございました」
「ああ、それはいいんだけど……それより、ちょっと頼みがあるんだが」
顔を上げた。男の人の顔を見た
「え?」
その視線は、鍋に釘付けだった。
「昨日からなにも食ってなくて、ちょっと分けてもらってもいいか?」
「えぇ……?」
男の人のお腹が、ぐぅ~っと鳴った。
「プッ……あははははっ」
ごめんなさい。
笑いがこみあげてくる。
厳つい印象で、がっしりした体格。
亜麻布1枚は、もしかして、最初の最初。
この世界に、初めてログインしたときの初期装備?
おにいちゃんも、最初は、こんなだったのかな。
丸1日、なんにも食べてなくて。
どこ行ったらいいかもわからなくて。
言葉も通じなくて。
「笑ってごめんなさい。お口に合うかわからないけど、座って」
「ありがとう。お嬢ちゃん」
「わたしは、みき。お兄さんは?」
「オレは、タデウシュ。タデクでいい。オレを知るヤツはみんなそう呼ぶ」
「うん。タデク。お皿もスプーンもないけど、あ……そこで寝てるヒトのだけ、ひと口分くらい残してくれればいいから」
わたしは、目いっぱいの笑顔を作って、タデクに言った。
だって、なんだか。
このひと、なんだか。
どことなく、雰囲気がおにいちゃんに、似てる。




