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『あの世界』の常識に巻き込まれていく話  作者: 渡しログ
カラフルな『あの世界』
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6.2.01 - 仲間達、友だち


 信頼の噴水広場の陽射しは、まだ午後の中盤くらい。

 誰もいないかと思ったのに、大勢のプレイヤーが走り回っている。


 これ知ってる。

 まゆさんからも、聞いたことある。


 これはきっと、スタダ。

 スタートダッシュだ。


 信頼は、ゲームプレイヤーが多いエレメントだからかな。

 わたしが知ってる知恵の噴水広場は、いつも閑散としていたけど。

 大勢のプレイヤーが忙しそうにしてる。


 噴水広場のあちこちで、プレイヤーが虹色に輝いて消える。

 そして、それよりも多い頻度で、いろんなものを抱えて、出現していた。


 野菜や果物の入ったカゴ。

 椅子やテーブルを抱えたプレイヤー。

 ニワトリやブタを抱えたプレイヤーもいる。

 それと、仔馬。仔馬がめちゃめちゃ嫌がってる。

 小鳥や、オウムなんかを連れたプレイヤーもいた。

 何に使うんだろう……


 だれか知ってるヒトはいないかと、しばらく眺めていたけど。

 みんな知らないヒトだった。


 ここに立っていたら邪魔みたいなので、わたしは噴水のすぐ近くまで恐る恐る歩み寄る。

 とにかくみんな走り回っているので、そこに行くのにも気をつけた。



 噴水の姿とカタチは、知恵の広場と同じみたいだ。

 脚のスネほどの高さの円形の石の囲い。

 その中に水が張られ、中央には、ヒトの高さほどの石の台座。

 台座の上に佇むのは、信頼の石像?

 その足もとから、チロチロと水が流れ落ちている。


 わたしは石像を見上げた。

 両手を左右に広げ、目線は真っ直ぐ前を向いていた。

 セリフをつけるなら「さぁ行こう」って感じかな。


 男性か女性かもわからない見た目だけど。

 カウント22の神様も、まゆさんだからかな。

 よく見ると、どことなく、まゆさんに似てる気もする。


 エレメントに放出される4つの徳は、神様から分離した徳。

 まゆさんから、分離した信頼の徳。

 だからたぶん。

 この石像も、まゆさんの一部なんだよね。



 しばらく石像を眺めたあと、また、広場を見渡した。

 噴水おじさんの屋台はない。

 噴水おじさんがいるのは、知恵だもんね。信頼にはないよね。



 それにしても、ヒトが多い。

 

 パパとママは、どこだろう。

 っていうか、どうやって探せばいいんだろう。

 エレメント・ノードに現れるのは、いつだろう。

 そもそも、信頼でよかったのかな。


 なんだかまた……

 途方に暮れてる。


「ミキ!」

「え……?」


「ミキー!」

「うん……?」


 声は右の方から。

 顔を向けると、女の人が走ってくる。

 えっと、わたしの名前を呼びながら?


 すれ違うヒトを、すいすい避けて、真っ直ぐ向かってくる。

 踏切を渡る人の群れを、線路の方から縫うように。

 ぶつかりそうなのに、ぶつからない。


 そして、あの体型、あの人相は。


「オーララ~! ミキー!」


 深い赤色のドレスに、固そうな革でできたベストを重ねていた。

 長い髪を垂らした、フランス人の女性。


 みきの知ってるヒト。

 おにいちゃんが連れて来た、お姉さん。


 半年前に出会って。

 おにいちゃんといっしょに音信不通になった……


「ルシア……?」


 女性がわたしを抱きしめた。

 革のベストが、獣くさい。

 運動部の部室みたいな匂い。


 あの時は、灰色だったけど、この世界では色がついている。

 こんなに綺麗なヒトだったんだ。

 知らなかった。


 ルシアは英語で言った。

「ミキ……来るの早かったわね。念のため、早めにきてよかったわ」

「ルシア……苦しぃ……っ、あと重いっ」

 強く抱きしめられて、しかも体重が乗っている。

「あは、ごめんごめん」

 ルシアが、両手をわたしの肩に残したまま、カラダを離した。


 そんなことより。

「ルシア! なんで! どうしてここに!」

「ふふふ~。ミキがひとりで寂しいだろうなって、思って。来ちゃった」

「来ちゃったって……どうして? どうやって?」

「う~ん、ログインして?」

「そうじゃなくて、なんで? ぜんぜんわかんないよ」


「そうだね。どこから話そっか。ミキはどこから聞きたい?」

「おにいちゃん。おにいちゃんは?」


「あー、やっぱそこからかー」


 ルシアが、またわたしの背中に腕をまわした。

 こんどは優しく、抱き寄せてくれた。


「大丈夫。ソウジは元気よ。いまもミキを大切に思ってるし、見守ってるよ」


「おにいちゃんも、来てるの?」

「ソウジはね、ここにはいない。仕事が忙しいからって」


 ルシアの顔が離れた。

 わたしよりも身長の高いルシアが、少し上から、わたしを見下ろした。


「だからね、私が手伝いに来た。ミキのお手伝い」

「お手伝い?」

「そ。ダディーとマミーに会いにいくんでしょ?」

「うん」


「ッフフ。ミキー、カワイイー!」

 またわたしを抱きしめて、そしてすぐに離して、言葉を続けた。

「そして私のライバル……」

「ライバル?」

「あのシスコンめ……」

「え?」


「まぁいいわ。とにかく行こ。お腹すいたでしょ」

「うん。おなかペコペコだけど、どこへ?」

「あっちに私の家を建てたから、そこでご飯たべよ」

「え、もうおうちがあるの?」

「イヤーン、ミキ、カワイイー! いっしょにご飯食べられるなんて、最高にハッピー!」

「みきもすごく嬉しいけど、突然すぎて……」


「がんばろうねミキ。かならず家族に会わせてあげるからね」

「うん……」


 なんだかわからないけど。

 ひとりぼっちだと思っていたら、目の前にルシアが現れた。


 でも、少し違う。

 船の上で、いっしょに花火を見て、文化祭にも来てくれたルシアは、18歳くらいだった。

 このルシアは、とても大人っぽい。


「ねぇ、ルシア」

「うん?」

「いま、何歳?」

「何歳に見える?」

「うーん……にじゅう……」


「ッフフ。私はね、ミキに会うのは3年ぶり。いまは21歳よ」

「えぇ……」


「とにかく、行こ。続きはご飯食べながら。私も朝からずっと待ってたのよ。だからお腹すいたー」

「ふふッ、そうなんだ。で、ルシアのおうちはどこ?」


 ルシアが、わたしの左手を掴む。

 おにいちゃんがいたら、なんて言うだろう……


 怪しすぎる……行くんじゃない……


 でもなんだか。

 おにいちゃんが、ルシアをここに呼んでくれたような。


 そんな気もする。


「こっちだよ。いこっ」

「うん!」

「やーん、ミキー! うれしいー、ずっと会いたかったのよー!」



 もうそれは、お腹いっぱいかも……


 


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