↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『あの世界』の常識に巻き込まれていく話  作者: 渡しログ
カラフルな『あの世界』
467/588

6.1.06


 強烈なニワトリの鳴き声。


 わたしは、その声で、びっくりして飛び起きた。

 たまらず耳をふさいだ。


 鳴き声が終わって周囲を見渡すと、昇ったばかりの朝陽が、家畜小屋の中に差し込んでいた。

 

 上半身を起こして、マントにくっついている、枯れ葉や土を叩き落とす。

 すると、ニワトリが、鳴き声を上げてバザバサと走り回り、ヤギとロバが、並んで片目をわたしに向けた。


 驚かせたみたい。


「ごめんね」


 頭に手をあてて、髪をかるく撫でながら、立ち上がった。

 地面にパサっと、布タオルがずり落ちる。

 拾ってたたむ。

 それから、家畜小屋を出て、太陽が差し込む方に目を向けた。

 視界に映るのは、朝陽で色づく森。その手前に広がる畑。

 建物はほんの数軒。


 ほんとに閑散とした村。


 わたしは、右手を3回叩く。

 ログインデバイスを出現させる。


『ELAPSED 00:13』


 まだ、たったの13分。


「え……っ、あれ?」


 赤色の文字。

『 INSTALL - Collected memories 』

(インストール ― 収集した記憶)


 記憶の回廊を生み出すコマンドが表示されていた。

 赤色だから、押せないけど、記憶の回廊を知る人物が、近くに?


 後ろから、勢いよく扉が開く音。

 驚いて、手を下に向けると、ログインデバイスは消えた。


 大きなカゴを抱えた、40代の女の人。

 この家のお母さん、ユイだった。

「……おはようございます。みきさん……でしたね?」


 なんだか、ちょっと……怖い。

 いじわるそうな目を、わたしに向けている。


「あ、の……おはようございます。昨日はありがとうございました」


 わたしは、お辞儀した。

 でも、もしかしたらとユイが……?

 記憶の回廊を知っているかもと、私は顔を上げた。


「あの……」


 でも、ユイは、もうそこにいなかった。


 代わりに、扉の奥から、20代のふたりの男性。

 ハセと、イナムラのご兄弟。


「やぁ、おはよう、みきちゃん。よく眠れたかい……って、家畜小屋だもんなぁ」


 ハセがそういうと、1歩わたしに近づいて、口元に手のひらを添えながら、小声で言った。


「母さんがうるさくてよ。ごめんな」

「うーうん、よく眠れたよ。どうもありがとう」


「おお、そか。ならかったよ」

「お仕事にいくの?」


「おぅ。俺とイナムラは、これから畑だ。

 みきちゃんは、アロハといっしょに、酒場へ行ってみな。親父さんのこと、なにかわかるといいな」


「うん。ありがとう」

「じゃあな」


 そう言うと、ハセが、背中を向けて歩いていく。

 イナムラも、微笑みながら小さく頭を下げて、その後を追いかけていった。

 途中でイナムラが、振り返って、またわたしと目があう。

 驚いたような顔をしながら、前を向き直して、行ってしまった。


 イナムラはたぶん、おにいちゃんと同じくらいの年かなぁ。


「おはよう、みきちゃん」

 扉のほうから、女性の声。

 視線を戻すと、灰色のローブを着た、魔女みたいな女性。

 でも、とってもやさしい、アロハ。


「おはようございます」

 わたしはまた、お辞儀した。


「ちょっとまってて。ニワトリの餌だけあげちゃうから」



 アロハの足音は、布が擦れるような音。

 足元を見ると、亜麻布のような生地の靴下みたいなのを履いている。

 泥だらけで、擦り切れていて、とても靴とは呼べないもの。


 村の生活は、きっと大変なんだろう。

 わたしなんかには、想像もできないくらいの毎日の重労働。

 今日と明日のご飯のために、休まずに働かないといけないんだと思う。

 迷子のわたしなんかに、構ってる暇なんてない。


「みきも、お手伝いする」

「っフフ。そう。ありがとう」


 アロハが、家畜小屋の隅っこの棚から、ボウルを取り出した。

 それと、パツンパツンの布袋を開けて、粉みたいなものをよそう。


「じゃあ、みきちゃん、これお願い。ニワトリの足元に撒いてあげて。わたしは軽く小屋の掃除しちゃうから」

「うん」


 これ、なんだろう。

 いろんな種類の、ゴマみたいな芽?

 白い骨粉のようなものも混ざってる。


 なんだかわからないけど、ニワトリのところへ持っていて撒くと、4羽のニワトリは、おいしそうに食べていた。


 その間に、アロハは、家畜小屋の掃除。

 時間かかるかと思ったけど、5分もしないうちに、アロハが終了を告げた。


「じゃあ、いきましょう。みきちゃん」

「うん」


 借りた布タオルを返して、アロハと、家を離れた。

 その後ろをついていく。


 家を離れて、しばらくすると、アロハが立ち止まって、振り向いた。


「みきちゃん、お腹空いてるでしょ」

「うん。少し」


 本当は、めちゃくちゃお腹空いてる。


「みて、これ」

 アロハが、右手を上げて、その手を広げた。


 コイン?

 鉄みたいな色のコインが1枚。

 横を向いた女の人の顔。


「酒場についたら、なにか食べましょう」

「うん!」



 それから、歩いて10分くらい。

 アロハが「酒場」だと紹介した建物は、入り口が他より少し大きいだけの民家だった。


 ドアは開いている。

 ポーチとドアの間に、テラス席がある。

 丸太を切ったベンチと、ヴィンテージ感のある長方形のテーブル。

 それが4セット置かれている。


 このベンチ……見たことあるような。

 なわけないか。気のせいだね。



「マスター、いる?」

「おぅ、ちょっとまってろ」


 図太い男の声。

 しばらくすると、がっしりとした体格の長身の大男が、エプロン姿で、ドアの中から姿を見せた。

 エプロンを付けた巨人。


「なんだよ、アロハか。どうした」

「なによそれ、お客として来たのよ。朝ごはん食べさせて」

「いいけど、カネあんのかよ。もうツケは効かねぇぞ」

「あるわよ。はい。2人分なんだけどいい?」

「1枚じゃねぇか……まぁいいか。座って待ってろ」



 あのコインに、どのくらいの価値があるんだろう。

 お金のことは聞かなかったから、よくわからない。


「ここのパンはね、とっても美味しいのよ。って言っても、朝出てくるのは昨日の残り物なんだけどね」


「ほかにお店はある?」

「お店? 鍛冶職の人がいるけど、お店はここだけよ。それと王都から嫁いできた薬剤師もいるんだけど……」

「うん? 薬剤師?」

「まだ、村の人には受け入れられてなくてね。魔女だなんだと煙たがられてるわ」

「そうなんだ」


 アロハ以外にも、魔女いるんだ。


「どうしたの? なにかほしいの?」

「あ、ちがう。聞いてみただけ」


 おにいちゃんから聞いていたのは、50年後のカタセ村。

 この村には、まだ、酒場しかないんだね。


「アロハ、おまたせ」

「あら、ガロムちゃん、おはよう」


 顔を向けると、女の子だった。

 まだ若い。中学生くらいかな。

 たぶん、13歳かそのくらい。

 クルクルとした、ちょっと癖毛で黒髪の女の子。

 灰色のチュニックの上に裏返した毛皮のベスト。

 茶色と灰色の格子模様のスカートを穿いている。


 全体的に、すごく、かわいい。


 驚いたたのは、ガロムの背中。

 小さな赤ちゃんを背負っていた。


 おもわず、声が漏れる。

「わぁ、かわいい」

「えへへ、かわいいでしょ。この子は歳の離れた弟。たぶん、このお店の2代目になる予定なんだよ」


 目がくりくりで、ずんぐりした男の子。

 ずいぶん大きいけど、2歳くらいかな?


「いま、何歳?」

「あと5カ月で1歳」

「へぇー……」


 って……

 ちょっと大きすぎるような……

 なんか、パンダの赤ちゃんみたい。


「はい、朝ご飯。もう少し置いたほうがいいよ」


 ガロムがテーブルに、木のコップをふたつおいた。

 コップの上には、四角くスライスされた、固そうな、こげ茶色のパン。

 その隙間から、湯気が立ち昇っている。


 良い香り。

 コップの中はハーブティ。


「で、こちらの新しいお客さんは?」

「あ、みきです、えっと……」


 どう自己紹介しようかと、言葉に詰まっていると、アロハが言った。

「昨日ね、この村を探して、林で迷子になってたのよ」

「ふーん、こんな村になんの用?」

「カタセ村にいた、パパを探しに……」

「パパ? なんて人?」

「ケイスケって言うんだけど」

「ケイスケ……なんか聞いたことあるような……」

「え?」

「うーん……なんだっけ。お父さんに聞いてみるね。じゃ、ごゆっくり」

「ありがと、ガロムちゃん」


 ガロムが、立ち去っていく。

 背中を向けると、背負われていた赤ちゃんと目があった。

 くりくりの目。

 かわいい……

 のだけど……やっぱりパンダの赤ちゃんみたい。

 大きい。


「お父さーん」

「おぅ、どうした」


 え……


 お店の中から聞こえたのは、あの大男の声。

 あのエプロンを付けた巨人が、ガロムのお父さん?

 ガロムとは、どこも似てないと思うんだけど……



 でも、あかちゃんは、ものすごく説得力ある。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。