↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『あの世界』の常識に巻き込まれていく話  作者: 渡しログ
カラフルな『あの世界』
465/588

6.1.04 - また、巻き込まれていく話


 どうしよう。

 もう陽が暮れそう。


 西に向かって歩き続けたけど、村は見えてこない。


 カウント24での経験で、歩くのには慣れた。

 でも、ひとりでキャンプなんて……できない。


 進む先に見えるのは、西日に照らされた雑木林。

 北側は、深そうで真っ暗な森。

 南の方から吹いてくるのは、なんだか湿った風。


 喉が渇いた。

 お腹すいた。


 おにいちゃんも言ってたな……

 最初は、丸1日飲まず食わずで歩いたって。


 魔法でどうにかできないか。

 考えてみたけど、なにも思い浮かばない。

 こんなことなら、小鳥に魔法をかけて、村を探してもらえばよかったかも。



 雑木林に近づくと、その向こうに見えるのはゆるい斜面と丘。

 今からでもできないかと、動物を探しに林に踏み込んだ。


 広い林ではないけど、大きな巨木ばかりだ。

 つるが巻きついたシロブナの木と、クヌギの木かな。

 それと端っこにあるこの木、もしかしたら……桜の木?


「お嬢ちゃん、こんなところでどうした? 迷子か?」

「えっ……!」


 ビックリして、声のする方に視線を向けると、大木の横に若い男の人が立っていた。

 カビたようにくすんだ亜麻布の服と、もさっとした赤紫色の棉のパンツ。


 その後ろにも、二十代くらいの女の人。

 ウェーブなのか、ヨレヨレなのかわからない、長い黒髪。

 泥がついた灰色のローブを着込んだ、魔女みたいな恰好。


 わたしは、思わず、腰のバスケットヒルトに手を滑り込ませたけど。すぐに手を離した。


 男の人の目はやさしそう。

 魔女が両手に抱えたカゴの中には、お花や枝の葉がたくさん積まれていた。

 怪しいのはこのふたりじゃなくて、どう見てもわたしのほうだ。


「あらまぁ、どうしたのこんなところで、こんな時間に。どこから来たの?」


 2人とも、日本語で話していた。


「こんばんわ。あの……こっちに村があるって聞いて、探してるんです」


「あら。それって、私達の村かしら」

「えーと……カタセ村? だったかな」

「ええ、そうよ。カタセ村よ。だれか知り合いでもいるの?」

「えっと……」


 女性への返答につまると、男の人が言った。


「まぁ……いいだろ。こんなとこでこんな時間に、若い娘さんを放っておく道理はないからな。迷子だってんなら、村まで連れていってあげようよ」


「え……と……」


「どうした、心配はいらないよ。俺はハセ。こっちは女房のアロハだ。で、お嬢ちゃんは?」


「未希」

「そうか。みきちゃん、お腹すいてるか?」

「うん」


 アロハが言った。

「そうね。行くところなかったら、今晩はうちに来る? ご飯も食べさせてあげるわよ」


「うん、ありがとう」

「いいのよ。お互い様」


 アロハが、微笑みかけてくれた。

 格好は魔女みたいだけど。優しい目。

 フフっ、おにいちゃんがいたら、騙されるな、油断するなっていうだろうけど。

 いまは、このふたりの親切に甘えたい。


 それから、ふたりの後をついていく。

 雑木林の外れに、1頭のロバ。

 そこに、アロハのカゴを括り付けていた。


 木に縛っていた、手綱を解いて、ロバを曳く。

「んじゃ、帰ろうか」


 雑木林を離れた。

 丘を登ると、村は斜面を下ったすぐ先だった。

 丘の下に広がる、明かりの灯った十数軒の平屋の民家。

 立ち昇る細い煙が、落ちかけた夕陽に照らされている。


「あれがカタセ村だ」

「わぁ……ここが……」


 ここが、パパの作った村……

 思っていたよりも、閑散としてる。


 おにいちゃんは、この村に居酒屋と雑貨屋と、鍛冶屋があるって言ってたけど。

 あるのかな……


 ロバを引くハセの後ろから、アロハと並んで斜面を下っていく。


「みきちゃんは、旅人?」

「えと……そうなのかな」

「こんなかわいらしい娘さんが、どこから、旅をしてきたの?」

「遠いところ……かな……」


 思えばわたしは、どこから旅をしてきたんだろう。

 最初は街に閉じこもっていたけど。

 おにいちゃんが来て、まゆさんが現れて。

 そこからずっと、旅をしてる気がする。



 村に入ると、なんだか……臭い……

 村全体が、公衆トイレみたいな匂い。


 わたしは、こっそり、魔法を唱えた。

 わたしの、鼻の周りだけ。


 ――ミントの香りが嗅ぎたい。


 魔法はすぐに効果を示した。

 うん。これなら大丈夫。

 トイレの匂いに混ざった、おうちの芳香剤の匂い。

 これで、笑顔を続けられる。


 隣を歩くアロハの声。

「みきちゃんは、どこから来たの? だれか探してるの?」

「えっとね、パパを探しに来た」

「あらまぁ、お父さんがこの村にいるの?」

「パパがいるのは、もう少し遠いところだと思う。この村にいたのは、たぶん……25年前?」


「25年も……前?」

 アロハが、わたしを眺めている。

 頭の先から、つま先のほうまで。

 すこし怪訝な表情に変わって。

 最後は、悲しそうな表情。

 そして言葉を続けた。


「……そうなの。それは寂しいわね」

「うん」


「わたしもねぇ。去年、故郷の街を離れて、この村に嫁いできたのよ。逃げてきたみたいなものなんだけどね」


「故郷?」

「そ。スピカっていう街。知ってる?」


「あ、聞いたことある。えっと、おとめ座……ヴィルゴ王国?」

「そう。よく知ってるわね」


「うん、英語も喋れるよ」

「英語?」


 おにいちゃんが、ヴィルゴ王国は英語だって言ってた。

 わたしはアロハに、丁寧な英語で語りかけてみた。


「私は父上を見つけるために、ここまで旅をしてきました」

( I have journeyed here to find my father. )


「んまぁ、かわいらしいエングル語。すごいわね、言葉遣いも丁寧だわ。思えば、マントも立派だし腰の剣も高そうよね。もしかしてみきちゃんは、お貴族様なのかしら?」


 ……エングル語?


「あはは。違うよ」


 ハセが、歩きながら横顔を向けた。

「へぇ、もしかして、みきちゃん、すごい子? ビックリしたよ」


 アロハが英語で言った。

「エングルがわかるのは私だけだから、なにか言い難いことがあったら、わたしにだけこっそり教えてね」


 最後にアロハが片目だけまばたき。

 そのあと、ハセが日本語で言った。


「なんだぁ、ふたりでナイショ話かい。あっはは」


「いいでしょ。さぁ、ついたわよ。家族を紹介するわね」

「……うん」



 家族……


 辿り着いたのは、藁で編んだような三角屋根の民家。

 木枠の窓から、チラチラと灯りが揺れている。

 裏は、畑かな。

 匂いは、ミントなのでなんとも思わないけど。

 家畜小屋もあって、ヤギもいた。


 アロハとハセはいい人だけど。

 でも、他の家族は、どんな人達だろう。

 いきなり、知らないおうちにホームスティ。


 わたしは、服装を正して、手櫛で髪型を整えた。



 ちょっと緊張する……




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。