6.1.03 - あの世界の常識に
まゆさんが、留学する2日前。
まゆさんの家で、ふたりでピザを食べた。
いつもと変わらないお昼のピザ。
その部屋でデリバリーのピザを食べるのも、たぶん最後の日。
「ねぇ、みきさん、聞いてる?」
「うん……」
今日は、クリーム色のパーカーを着たまゆさん。
まゆさんは、いったい、何種類のパーカーを持っているんだろう。
服装は地味で、あんまりオシャレじゃないけど。
パーカーやスェットについてるタグのロゴは、どれもブランド物。
「おそらく、総司がとどけたシェイプシフトデバイスは、コピーデバイスの可能性が高い」
色白で、不健康そうだけど。
服の色も、肌の色も、瞳の輝きもはっきりと見える。
この世界で数少ない、色のついたヒト。
「コピー? デバイス?」
「カウントを設定して入ったときに推測できるパターンは、3つ」
「3つ」
「ひとつは、完全な新規の世界。ニフィル・ロード開発者が用意した初期状態のメモリア」
「初期状態?」
「もしかしたら、村も町も、何もないメモリアかもしれない」
「えぇっ、そんな場所で、どうやって、生きていくの?」
「ひょっとしたら、すぐに記憶の回廊に行けるかもしれないから、デバイスを出して確認してみて」
「うん、わかった。あと2つは?」
「コピーしたデバイスの世界がそのまま受け継がれる世界」
「う~ん……どういうこと?」
「総司のカウント24のメモリアが、そのままコピーされてるかもってこと」
「え、じゃあ、おにいちゃんが生活した後の世界?」
「ん、そうなんだけど、その可能性も低い」
「どうして?」
「初期状態も、完全なコピーも、不公平だから」
「わかんない……」
「いちばん可能性が高いのは3つめ」
「うん。3つめ?」
「総司のデバイスの過去のメモリア。つまりカウント22の初期状態でスタートするメモリア」
「えっと……」
「総司のデバイスって、みきさんのお父さんが使ってたんだよね?」
「うん」
「カウント22も、お父さん?」
「だと思う」
「だとしたら、お父さんが始めたカウント22と、みきさんがシェイプシフトデバイスでログインするカウント22が、まったく同じ世界になっているかもしれないってこと」
「え、じゃあ、メモリアにパパがいるの?」
「メモリアには、いないってば……わかってないなぁ」
「ごめーん、わかんない」
「とにかく、総司から聞いた話を思い返すと、村があるのはスタート地点の西。西にいけば、カタセ村……だったかな。が、あるはずだから、そこまで辿り着けばあとはどうにかなると思う」
「わかった。西ね」
「西がどっちか、わかる?」
「うん、夕陽が沈む方角だよね」
「ん……わたしもシェイプシフトデバイスの最初のログインが、どんなメモリアなのか知りたいから。ログアウトしたら、中の様子教えて」
「わかった。でもまゆさん、ボストンに行っちゃうんでしょ」
「SNSメッセージなら、いままでと変わらないよ」
「そうだね……」
「ねぇ、みきさん」
「うん?」
「みきさんが、高校卒業したら、旅行いかない?」
「どこ?」
「オレゴン、スコットランド、ロンドン、ドイツにも」
「みんなに会いに行くの?」
「うん。ミラーはお墓かもだけど」
「あはははっ、スコットランドって、ほとんど裏側だよね。そんな遠くまでお墓参りにいくの。ふふふっ」
「ん、だって、約束したから」
「うん。そうだね。みきも行きたい」
「じゃあ行こう。2年後」
「うん。楽しみだね」
「ん、楽しみ……」
それが、数日前のこと。
留学する前のまゆさんと過ごした、最後のお昼。
会話は、ニフィル・ロードの話ばっかりだった。
まゆさんは、カウント22に入るデバイスを持ってない。
おにいちゃんは、どこにもいない。
だから今回は、久々のソロ・ニフィル・ロード。
元々ひとりだったから、慣れてるけど。
やっぱり、心細い。
右手を叩いて、ログインデバイスを出してみた。
記憶の回廊のゲートを呼ぶ文字は、表示されていない。
だから、初期状態のメモリアではないってことかなぁ……?
ぜんぜんわかんない。
わかんないけど、西にいけばいいんだよね、まゆさん?
空を見上げても、いまが、午前なのか、午後なのか。
でも、しばらくここにいたらわかった。
あっちから、太陽が昇っていく。
だから、それを背にして、わたしは歩けばいい。
まゆさんに教えてもらった方角。
西へ。




