6.1.02
2日後。
4月8日、土曜日の午後。
お父さんは出張。
お母さんは、買い物へでかけた。
洗濯物を取り込んで、たたむお手伝いをして。
それから、階段を上がって自分の部屋へ。
時計を見上げると、時刻は午後の14時。
部屋に入って、机の引き出しを開けた。
エンピツや消しゴムが整頓された横に、黒い名刺入れのような電子機器がふたつ。
仮想世界、ニフィル・ロードへと渡るためのログインデバイス。
ひとつは、裏にSのシールが貼られた、ママのデバイス。
もうひとつは、おにいちゃんが未希のために取ってきてくれた、シェイプシフトデバイス。
わたしは、シェイプシフトデバイスを手に取った。
ワールドカウント22に行く。
このデバイスを使えば、パパとママに会える。
わたしには、操作方法がわからなかったから、まゆさんに設定してもらった。
『 World Count 22 / Waiting for Login 』
ニフィル・ロード、ワールドカウント22へ。
わたしは今日、そのカウントに初めてログインする。
カウント23から24まで、もうなんども、訪れた世界だけど。
今回は、特別。
少しの不安と、張り裂けそうなほどの期待。
ドキドキがおさまらない。
部屋の中央まで数歩。
ログインデバイスを落とさないように、しっかりと手に持つ。
『 Join Me 』
こっちに来てと、わたしを誘う文字。
指先を、文字の上へ。
そしてわたしは、目を閉じた。
何秒かすると、真っ白い光が、わたしの目蓋にのしかかる。
やがて遠ざかっていくヘッドライトのように、フェードアウトしていく。
ふぅっと、涼しい風が頬を撫でた。
肌に触れる空気が変わった。
ヒバリがさえずるような鳥の鳴き声。
全身に感じるのは、暖かい陽の光。
ゆっくりと目を開けた。
ああ……
青と緑と、白い雲。
わたしは、広い草原に立っていた。
わたしにとっての、カラフルな世界。
青々と茂る草地が、ゆるく隆起しながら、遠くまで続いている。
その先には緑色の森が広がり、さらに遥か遠くには、雪をかぶった山脈が見える。
見上げると、深い青空。
ふわっとした雲が、ところどころに浮かんでいる
そしてまた風が……
わたしはまた目を閉じた。
風が……
とっても、気持ちいい……
風にのって届くのは、色のついたお日様と、草木の匂い。
ここはニフィル・ロード、メモリアの草原。
この世界の先に、パパとママがいる。
また目を開けて、自分の服装を確認した。
服装はカウント24の最後のときと同じ服装。
薄い生地の白いローブの上から、クリーム色の短いワンピース。
足元は、ママが残した革と木でできた靴。
肩に羽織るのは、おにいちゃんからもらったマント。
マントはちょっと、臭いけど……
それは、これまでの旅のあかし。
おにいちゃんや、まゆさん達と過ごした、冒険の思い出。
だから、ぜんぜん臭くない。
それから腰には、片刃のバックソード。ブルームシード。
柄のところに結んだ、タッセルもそのままだ。
垂れ下がった紐の先に、ふさふさの灰色の毛がついた、房飾り。
グルーミングで出たリュウタの毛を、結んでアクセサリーにした。
「リュウタ、ちゃんと、いい子にしてるかな……」
まぁいいや。
そんなことより。
「ここ、どこだろう……?」
あたりを見渡したけど……
遠くに森。
うんと遠くにも森。その先には山。
建物はどこにも見えない。
だれも歩いてない。
生き物は、小鳥くらい。
どっちに行ったらいいのかもわからなかった。
わたしは、草原の真ん中で、ひとり。
途方に暮れた。




