↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『あの世界』の常識に巻き込まれていく話  作者: 渡しログ
カラフルな『あの世界』
462/589

6.1.01 - 安全だった他人



 ……みきちゃん……先にいなくなっちゃうの?



 桜の花びらと共に吹いてきたのは、幻聴だった。

 幼い頃の、おにいちゃんの声。


 わたしがあのとき、なにを言ったのか。

 なにを聞いて、おにいちゃんが、そう答えてくれたのか。

 その会話どころか、日々の生活すらも、よく覚えていない。


 思い出そうとしても、浮かび上がらない記憶。

 あの頃のわたしは、深い沼の底に沈んだ毎日だったから。



 わたしは、高校2年生になった。

 今日は始業式の朝。


 洗面台で笑顔の練習。

 バターが溶けた、カリカリのトーストを食べて。

 お母さんに行ってきますと告げて。

 それから、電車に乗って。


 いまは、学校に向かう坂道の途中。


 目に映るのは、白黒の坂道。

 登る人も、下って来る人も。

 周りの家も、木も。

 みんな、白黒。


 色がついて見えるのは、道の端に咲く黄色いお花。

 それと、飛んでくる桃色の花びら。


 幻聴は、もう聞こえてこなかった。

 代わりに、ビリビリと震える音。

 カバンの中からスマホを取り出す。

 画面を見ると、まゆさんからのメッセージ。


『みきさんおはよう。もうすぐね、飛行機に乗る』


 わたしは歩道の端によって、メッセージを返した。

『そっか。しばらくお別れだね』


『うん、さみしいけどね』

『夏に会おうね。あっちで』


『ん、先にカウント25へ行って待ってるから』

『うん』


『会えるといいね。大切な人達に』

『うん。ありがと』


『じゃあまた、ついたらおしえるね』

『わかった。待ってる』

『じゃね』


 アプリを閉じた。


 まゆさんは、アメリカのボストンへ留学する。

 その飛行機に乗るのが今日。

 もう、まゆさんとも、気軽に会えなくなる。



「おはよう、未希」


 後ろから、女の子の声。

 振り向くと、坂を登って来るのは、メガネをかけた、ゆうこちゃん。

 とっても頭が良くて、成績優秀な生徒会役員。

 でも、クラスの男子からは、煙たがられている。


「おはよう、ゆうこちゃん」

「リボンの向き、変だよ未希」

「え、うそ」


 どこが変だったのかな。

 わたしにはわからなかったけど、ゆうこちゃんはカバンを地面に置いて、わたしのリボンを直してくれた。


「ありがと。ゆうこちゃん」

「あと頭に花びらついてる。でもこのままでいっか。なんか、かわいいし」

「え、いいの? どこ?」

「右上のとこ」

「えー、とって」

「フフッ」


 ゆうこちゃんの右手が、わたしの髪の毛を払う。

 桃色の花びらが、ひらひらと風に舞う。


「いこ、未希」

「うん」


 仲良しのゆうこちゃん。

 わたしを追い抜いて、先に歩き出していく。

 きっと、ゆうこちゃんも、わたしの友達。


 でも、ゆうこちゃんの背中は。


 灰色。



 ヒトも坂も、ソラも街並みも。

 見分けがつきにくい坂道を、ゆうこちゃんの後ろから登っていく。


 家には、やさしいお父さんと、お母さん。

 学校に来れば、先生も友達も、わたしに親切にしてくれる。


 でも。

 みんな灰色。



 灰色の世界で、わたしは、ひとりぼっち。


 おにいちゃんは、5カ月も行方不明のまま。

 まゆさんは、アメリカへ行っちゃう。


 わたしが、甘えられる人も。

 わたしが、わがままを言える人も。



 色のついた、ヒトが、この世界には……

 わたしの近くには……



 だれもいない。




 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。