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『あの世界』の常識に巻き込まれていく話  作者: 渡しログ
シェイプシフトデバイス
458/589

5.9.01 - たごころ、みき



 お花畑


 それが、わたしが、最後に見た光景。



 無我夢中で、ブルームシードを振り上げて。

 そしたら、月が太陽になって。

 足元にはいろんな花が咲き乱れていて。

 寒くて真っ暗だったあの丘が、ポカポカとした、陽だまりのお花畑に変わっていた。

 あれは、わたしの魔法だったのかな。


 ただただ、無我夢中。

 魔法を使った自覚もなかった。

 その後、もっと眩しい光に包まれて、目を瞑ることしかできなかった。


 おにいちゃん。まゆさん。

 ソフィアさん。ミラーさん。

 みんなどうしただろう。


 ランタさんと、ポンタさんに出会えたのには、ビックリしたけど、うれしかった。

 もっとお話し、したかった。



 目をあけると、まゆさんの家。まゆさんのお部屋。

 わたしの部屋よりも殺風景な、大学受験生の部屋。


 わたしだけ、先に出てきちゃったみたい。

 部屋にまゆさんはいない。


 どうなっちゃったんだろう。


 窓辺を見ると、カーテンの隙間から長い影。

 時計を見上げると、16時。 


 視線を右手に落として、ログインデバイスの画面を見た。


 World Count 24

 Login Recharge 29


 This count has been cleared.

 (このカウントは、クリアされた)


 Remaining Stay 99:59

 (滞在できる残り時間 99時間59分)



 カウント24が、クリアされている。

 おにいちゃん?

 それとも、まゆさんが、倒したのかな。

 神様を……


 クリア後もあと100時間、ログインできることは知っていた。

 カウント23の時もそうだったから。


 リュウタ……

 無事だったのかなぁ……


 ログインリチャージ30時間。

 はやくログインしたいなぁ。




 1分もしないうちに、まゆさんがログアウトした。

 わたしが声を掛けるよりも早く、まゆさんが、わたしに飛び込む。

 顔を隠して、わたしを抱きしめた。


「みきさん……大丈夫だった?」


 わたしよりも、まゆさんの方が普通じゃなさそうなのに。

 まゆさんは、わたしを心配してくれる。


「うん。ごめんね。また暴走してログアウトしちゃったみたい」

「それはいいよ。わたしは眩しくて、地面しか見ていられなかったけど。すごい魔法だったね」


 わたしもまゆさんの背中に腕をまわして、同じくらい強く抱きしめた。


「まゆさん、ルミナス・コアは、どうなったの?」

「ん、わかんない。わたし途中で死んじゃった」

「えっ……まゆさんが?」

 腕を緩めた。

「うん、神様に負けた」


 まゆさんも、顔を起こした。

 ほんの少しの涙が、両目に浮いている。


「まゆさんでも勝てない神様を、だれが倒したんだろ。おにいちゃん?」


「え、倒されたの?」

「うん、みきのデバイスにクリアされたって、表示されてる」


 わたしのログインデバイスの画面。

 それをまゆさんに見せる。

 

「クリアまで生き延びると、こうやって表示されるんだね。わたしも生き残りたかったなぁ」

「みき、ログアウト中だけどね。えへへ……」


「わたしのは……ゲームオーバーだね」


 まゆさんのログインデバイスの画面。

 ログインリチャージ30時間は同じだけど、カウント25のログイン待機中。

 もう、カウント24には、入れなくなっている。


 その画面に視線を落としながら、まゆさんがつぶやく。

「でも、がんばった。わたしたち」

「うん。すごい毎日だった」


「あいつ、シェイプシフトデバイス手に入れたのかな」

「うん……どうだろう」


「あいつ、どこにいるんだろうね、帰ってくるのかな」

「わかんない」


 まゆさんが、デバイスを放りだしながら、仰向けに寝転がる。


「はぁっ、とにかく終わった。おわっちゃったぁ。カウント24」

「まゆさん、次はカウント25を始めるの?」


「ん、留学の準備もあるから、それが落ち着いてからかな。またいっしょに行こう、みきさん。ランタとポンタに協力してあげなきゃ」


「うん、行きたい。ランタさんとポンタさん……また会いたいなぁ」


「じゃあ、次は信頼……のエレメントって、あるのかな。無さそう」

「うん、なんで?」


「神様が交代するとね、その神様から4つの徳が分離する……らしい」


 しばらくの沈黙。

 わたしも、たぶんまゆさんも、同じことを考えている……


「ねぇ、みきさん」

「うん、もしかして……」


 次の神様って……


「総司……なの?」

「おにいちゃんが……?」



 意味わかんない……



「ぶっ……っ」

「あはははっ」


 神様になった、大嶽総司を想像した、わたしとまゆさん。

 残酷と絆で彩られた生と死。

 それを体験したばかりなのに。



 笑いが止まらなかった。



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