5.8.08
7人で食事を摂った。
未希は、ランタとポンタに挟まれて座った。
お互いに会ったばかりだと思うが、仲の良い親戚のように懐いている。
オレ達の食糧もあとわずかだが、今夜の夕食は豪勢だった。
燻製肉のパウチと、最後の乾燥豆。
それがキノコといっしょに煮込まれていた。
微かなパセリとセージの香り。
残りのハーブをすべて使ったのだろうか。
そこに燻製肉のダシがよく溶け込み、味は悪くない。
10羽に増えた雁の群れには、残りの大麦に、こまかく刻んだキノコを混ぜて食べさせた。
充分な量ではないが、それが最後だ。
ヘラジカには、最後に残った枝葉と、同じく拾ってきたキノコ。
未希の客をもてなしてくれたのか。
あるいは、ソフィアも、うすうす感づいているか。
良くも悪くも、明日で終わる。
オレ達が殺されるのか、それとも、この世界が破壊されるのか。
ストームだけが、眠そうだった。
「ストーム、眠いか」
「ん、大丈夫」
「オレが、ポンタに質問するから、おまえは英語で、ミラーとソフィアに翻訳して伝えてくれ。ポンタもランタも、英語が喋れない」
「ん……わかった」
ポンタに向き直る。
未希は、ランタに肩を預け、ランタは未希の顔を覗き込んでいた。
「ポンタ。話を聞かせてくれ」
「なんでも聞いてくれ。なにをどこから話したらいい?」
「ランタとポンタは、信頼のプレイヤーという認識でいいんだな?」
「そうだよ。ボク達は80日前に、12人で信頼のエレメント・コアを出発した」
「ここまで、どうやって来た。馬車かなにかか」
「全員歩きだよ。ログアウトすれば食糧はどうにかなるからね。そのかわりに、この子たちを連れてきた」
ポンタが、温泉の周囲で毛づくろいをしている雁の群れに視線を向けた。
「雁の群れを操っているのは?」
「ランタさんだよ。ランタさんは魔法で、動物と意思疎通ができるんだ。みきちゃんにもできるだってね。ふたりとも、すごいよね」
もやもやさんとは、ランタのことか。
「ここに向かっていた目的はなんだ?」
「主神の再生、それが無理なら、主神の討伐。ボクとランタさんは渋々だけどね」
ミラーが、くたびれた顔をそむけたのが視界の端に見えたが、ポンタに質問を続けた。
「再生には、全属性のプレイヤーが必要だよな。正義のプレイヤーはどうするつもりだったんだ?」
「それは、知恵の部隊が、連れてくるって聞いてたんだけど?」
なんだと……
そんな話、聞いてないぞ。
ストームも翻訳しながら、驚いていた。
オレは英語で、ミラーに尋ねた。
「ミラー、聞いてたか」
「おぅ……」
「おまえ、なにか知ってるか?」
「そうだなぁ。もう、こうなっちまったら、喋っちまってもいいだろう」
「知ってるのかよ……どういうことだ?」
ミラーは、数秒のためを置いてから、また口を開けた。
「ウォルターだ」
「あいつが、なんだって言うんだ」
「あいつはな、アメリカに創設されたばかりの……シーエイだか、チアだかのメンバーでよ」
「チアって、応援団かよ」
「ちげぇ、諜報員だ」
「はぁ?」
「ん……もしかして、CIA?」
「おぅそうだそれだ。ウォルターはな、知恵、というか西側の所属だが、このカウントで選んだのは正義。あいつは大戦中もドイツでスパイ活動をしていたからよ。日本とドイツが連合を組んでる正義に紛れ混むのも難しいことじゃねぇだろ」
なんなんだよ。
入ってくる情報が、ややこしすぎるぞ。
どこから整理したらいいんだ。
「ならどうして、あいつは、オレ達を助けたんだよ」
「あいつなら、正義に捕まってもうまくやるだろう。もしかしたら正義の連中に混じって、寄り道でもさせながら、ここに向かってるんじゃねぇのか」
「ふざけやがって……」
「まぁ、そういうなって。実はな、もうひとつ目的がある」
「なんだよ。ぜんぶ話せ」
「おまえの保護も、優先事項だ。ソウジ」
またオレか……
「ミラーまで、そんなことを言うのか」
「なんだ。誰かに同じこと言われたのか。まぁ厳密にいえば、おまえだけじゃなくて、おまえと、おまえが持ってるその剣だ」
「剣?」
「そうだ。アーネストが言っていた。おまえとその剣さえルミナス・コアに運べれば、望みはあるってよ」
「望み?」
「俺もそこはよく知らねぇが、おまえなら、その剣で、ルミナス・コアをぶった切れるんじゃねぇかって、アーネストが言ってたぜ」
そんなもん……斬れるわけが……
「んん、ねぇ、まってよミラー。それって、最初からそのつもりだったの?」
「おぅ……こんなところまで騙して連れてきちまって、すまねぇとは思ってる。俺もアーネストも、たぶんウォルターもな。怒ったか?」
騙して……
オレ達を騙して……だと?
おまえたちを、知恵の連中全員を騙して、ここまで辿り着いたのは、オレ達だろ。
どういうことだ?
騙されていたのは、オレ達だと?
「なら、ソフィアはなんだ? ソフィアは全て知ってたのか?」
「いんや、ソフィアは知らねぇだろ? ただの巻き添えじゃねぇか?」
「フフッ、私が最初の頃からアーネストに言われていたのはね、ソウジとミキとストームの3人を、守ってやってくれって。それだけよ」
「そんな、おまえはそんなことで、こんな危険な旅に参加したのか?」
「もちろん、それだけじゃないわよ。私には私の理由があるわ」
「その理由ってなんだよ。またここでも、話せないなんていうのか?」
「そうね……ごめん、まだ話せないわ」
「どうして……どうしてだよ」
「いいよ。みきはソフィアを信じるよ」
「ん、わたしもソフィアを信じる」
ああ……ダメだ。
チカラが抜けていく……
「未希……ちょっと、交代してくれ」
「うん? なにを?」
しばらく、オレが黙っていたら、ストームが言った。
「ランタとポンタのふたりに質問。みきさんも、聞きたいことあるよね」
「うん! ねぇ、ポンタさん、ランタさん」
「なんだい、みきちゃん」
「みきね、パパとママに会いたいの。カウント22で」
おい……未希っ
おまえ、何を言うつもりだ……
「それはいいアイデアだね。ログインすれば、きっと会えるよ」
「ホント?」
「うん。でもカウント22のログインデバイスは、持ってるの?」
「もってないよ……」
「じゃあ、シェイプシフトデバイスだなぁ。カウント22にもログインできるから」
ああ、話がめちゃくちゃだ。
もうオレの出る幕じゃない。
この会話は、オレの理解を超えている。
「でも、とれるかなぁ」
「それがねぇ……」
ポンタの顔が、沈んでいく。
「どうしたの?」
ストームの翻訳を聞いていたミラーが言った。
「当代の主神……か」
「主神? それって、どんな神様なのミラーさん」
「これまでにもな、正義の連覇を止めるために、カウント23でも、何度か戦いを挑んだことがあるらしい」
「ん、それで、どうなったの?」
「全滅だ。だれも帰ってこなかった」
「え?」
「当代の主神がな、恐ろしく手強いんだってよ」
ポンタが未希に言葉を掛けた。
「ねぇ、未希ちゃん、なんて言ってるの?」
「神様がすごく強いんだって。そうなの?」
「ああぁ、そうらしいね。信頼の攻略組も、カウント23で戦いを挑んだらしいけど、みんな負けちゃったらしいよ」
ミラーが続けた。
「それでもな、カウント24は違う。このカウントでは、主神が倒されるんだ」
ストームが尋ねた。
「それはダレに聞いたの?」
「アーネストだ」
また、アイツかよ……
アイツは最後まで好きなれないな。 結局全てを操ってるのはあの男。アーネストか……
「この話はな、現実世界で聞いた。あいつがログインしているのは1952年。俺のログインは1954年。だから俺の年代では、あいつのカウント24は、もう終わってんだよ。そのアーネストから聞いたんだから間違いねぇ」
「主神を倒したのはダレ?」
「それがわからねぇんだ。ダレが倒したのか」
「ポンタは知らないのか。カウント24で主神を倒したのがダレか」
「このカウントで主神が倒されるらしいというのは、ボクも聞いてるよ。でもどこ勢力のダレが主神を倒したのかは、ボクたちも知らないんだよね」
またミラーが続けた。
「だからよ。再生に失敗したときは、3勢力合同でルミナス・コアに乗り込んで、神様を袋叩きにしようってことになった。誰が倒したかわからねぇんだから、ダレが行っても構わねぇってこった」
ストームが言った。
「神様って、そんなに強いんだ。どんな戦い方をするんだろう。戦ってみたい」
馬鹿かコイツ……
んまぁ……ストームの場合、カラ元気でも、誇張でもないのか。
強いラスボスを前にした、ゲーマーの好奇心。
そのストームに、ポンタが声を掛けた。
「ねぇ、ところでさ。ストームさん?」
「ん?」
「お嬢さんて、神様にそっくりなんだけど、どうして?」
「え?」
そういやそうだったな。
ランタとポンタは、主神に会ったことがあるんだっけ。




