5.7.02 - 幸運の星
月が昇った。
見張りの2番と3番だったミラーとソフィアは、まだ寝ている。
ストームは、枝で地面を削り、月の昇る方角に数メートルの直線を引いた。
それから、地図で特定した角度の2本目の線を、月から南側にズレた方角に引く。
そして夜空を見上げた。
「行き先は、みずがめ座ベータ。サダルスウド」
オレと未希も釣らて、同じ夜空を見上げた。
どの星なのか、オレには、わからない。
「それが向かう先か」
「ん。あの星に向かって進む」
未希がストームに質問した。
「みずがめ座って、どんな星座?」
「ネクタル、と呼ばれる不死のワインを、神様に捧げる美少年の星座」
「なんか、ミラーさんとソフィアが喜びそうだね」
「でも、中身は、ただのお水らしいよ」
「えぇ、じゃあ神様を騙してたの?」
「どうかな。神様にとっては、そのお水こそが、不死のお酒だったのかな」
「サダルスウドは?」
「アラビア語で幸運の星。星占いだったらSレア」
「えーすごいね。じゃあ、いいことあるのかな」
「あるかな……あるといいな」
「幸運の星……か」
なんの意味も持たない、気休めにもならない言葉。
あいにくと、オレは。
いや、たぶん未希も、ストームも。
その手の言葉には、裏切られ続けている。
むしろ、不幸が訪れるかもと、身構えてしまう。
「ミラーと、ソフィアを起こそう」
「うん」
「そのあと、馬に乗れるか試そう」
「そうだね。でも、みきがお願いするから、大丈夫だよ」
2人を起こし、短い食事を済ませた。
ここでは、焚火を起こすことはできない。
5人で、また、腸詰めの燻製肉を食べた。
昇り始めた月明かりで、周囲は見えている。
食べ終わると、ソフィアが言った。
「それじゃあ、ミラー、馬に乗ってみて」
「俺か」
「オレは?」
「ソウジはヘラジカ。体重の重いミラーが馬」
ミラーが馬に近づく。
あぶみに、足を引っかけて、オレが尻を押し上げた。
ソフィアは手綱を両手で握り、未希とストームは、少し離れて見守っていた。
ミラーは馬にまたがった。
乗ることはできたが、ミラーも馬も緊張している。
乗っただけだ。
「チカラを抜きなさいミラー。そんなんじゃ馬も落ち着かないわ」
「そういわれてもな……」
「もっと馬を信頼して。馬は、人間の気持ちに敏感なんだから、そんなんじゃ乗せてくれないわよ」
「いや……そういわれてもよ、どうすりゃいんだよ」
馬がクビを上下に振りながら、顔を揺すっている。
嫌がっているのだろうか。
「ダメね……私が手を離したら、ミラーをふり落として、どこかに駆け出しちゃいそうだわ」
未希が言った。
「魔法つかう?」
「それって、どんな魔法なの?」
「しばらくの間だけ、ミラーとこの子が、意思疎通できるようにしてみる」
「できるの? そんなこと?」
未希がミラーに声をかけている。
「ねぇ、ミラーさん。この子に名前つけてあげて」
「名前ぇ? それでうまくいくのか?」
オレは少し離れた。
荷車に繋がれている、ヘラジカに歩み寄った。
角がないので、2頭ともメスだ。
いまは、ルルがこの2頭のリーダーらしい。
つまり、未希に従うルルが、この2頭を従えている。
だから未希は、ヘラジカ達のキングということでもある。
未希が頼めば、オレも、ストームも、乗せてくれるのだろうか。
オレ達は、いますぐにでも、ここから離れなくてはならない。
正義エレメントのプレイヤーは、すぐ近くまで来ている。
追いつかれるのはもちろん、存在を知られることさえも避けたい。
だが……
ムリだな。
乗れるわけがない。
まぁ練習すれば乗れるのか。
いやだから、そんな時間はない。




