5.6.09
翌日。
月が4割ほどの高さのところで、嵐がおさまった。
オレ達は、すぐに旅の準備を始めた。
撤収の指揮は、ウォルターが取った。
まずは、半地下の住居。
埋めはしないが、徹底的に土をかぶせて、近づいてもそうだとわからないように隠ぺいした。
準備が終わると、まずは、ウォルターにつき従っていた2人の部下。
2人は馬にまたがり、2日分の飼い葉と食糧を積んで、西へと旅立った。
そのあと、ウォルターは、ストームに声をかけた。
「ストーム」
「ん?」
「ヘラジカ3頭と、馬2頭を連れて、5人は先に行け。行き先はわかるな?」
「え、ウォルターは? どうするの?」
「山頂にこれを仕掛けたら、馬で駆けて、すぐに合流する」
ウォルターが手に持っていたのは、竹の筒。
中身は、マグネシウムと、蛍石だったか。
「私はこの光で、正義の本隊を山頂に誘導する。少しは時間稼ぎになるだろう」
「え、いいアイデアだけど、だめだよ。ミラーとかに行ってもらえば?」
「ミラーは旅の案内に必要だ」
ウォルターが、単独で別行動?
いいのか、それ?
「戻ってこれるのか、ウォルター」
「なんだ、心配か。ならソウジも来るか? おまえは馬に乗れるのか?」
行きたいが、馬に乗ることができない。
付け焼刃で乗れたとしても、走るのはムリだ。
足手まといになる。
「迷わずに戻ってこれるのか」
「問題ない。私は優秀だからな。すぐに合流する」
「なにを企んでいる?」
「ッハハ。とことん信用しないのだな、君は」
「おまえのどこを信じろというんだ」
「これは業務に必要だと判断した。だから私ではなく、アーネストを信じろ」
「それはムリだ。オレはアーネストも信じていない」
「なら、自分にとって必要だと思うのを信じてみろ」
オレに必要なもの?
不要なものならすぐに思いついた。
「オレは、おまえが戻らなくても、先に行くぞ」
「っフフ。それでいい。大切なものだけを守れ。他の連中のことなんて気にするな。すべては自分自身のためだ。おまえは、そういうヤツだろ?」
気持ち悪い。
なんだか、吐きそうだ。
そうだ。
よく考えたら、オレ達の目標には、なんの不都合もない。
ウォルターは、不確定要素。
いなくなるなら、それでいいじゃないか。
「行こう、ストーム。ウォルターは大丈夫だ」
「ん……ホントにいいの? ウォルター?」
「心配は不要だ。すぐに戻る」
「うわぁっ」
離れたところで、未希が大声を上げた。
その傍らで、前足を広げたリュウタが、南西の夜空をにらみつけていた。
白い牙をちらつかせながら唸り声を上げている。
「どうした?」
「すごい振動……まだ遠いけど、足音が沢山!」
「沢山って、いくつだ?」
「わかんない……リュウタが知ってるのは、20人と20頭まで。それ以上だと思う。車輪の振動もたくさんある」
正義の本隊なのだろうか。
「ここに近づいているのか?」
「違うよ、東のほうに向かってる」
ウォルターが言った。
「時間がない。先に行け。私は山に登る」
ストームが、その言葉に答えた。
「ん。なら行こう。ソフィアとミラーで先導お願い」
「オケィ」
「東でいいんだな。隊長の嬢ちゃん」
「ん、出発!」
ソフィアだけが、馬にまたがる。
荷物を積んだ1頭の馬の手綱を、ミラーが引く。
その後ろから、ルルと未希が並び、ヘラジカの荷車が後に続いた。
オレとストームは最後尾。
「今夜は、まっすぐ東に向かうから。かならず戻ってきてね、ウォルター」
ウォルターは相槌をうつと、馬にまたがり、山の方へと駆けていった。
パカパカと、馬の走る音が、夜の闇に消えた。
ミラーが言った。
「なんだか、大変なことになっちまったなぁ。生きて帰れんのかよこれ」
ソフィアが、馬上からミラーを見下ろした。
「なに、怖いのミラー?」
「そうじゃねぇけどよ、食糧も物資も、どう見ても片道切符だぜ?」
「いいじゃない。見てこれ」
どこで見つけたのか。
ソフィアが、ハーフサイズのボトルを出してミラーに見せた。
「なんだそりゃ?」
「リキュールだと思うわ。甘い香りの……ココナツかしら?」
「おいおい、まさかそれって」
「そうよ……正義のエレメントのお酒よ」
「まじか」
「マジよ」
「いつ開けるんだよそれ」
「最後に一緒に呑みましょう」
「ガッハハハ。なんだよ、死ぬ直前にならねぇと呑めねぇのかよ、ワッハハハハ!」
釣られて、未希も笑った。
「ココナツのお酒? みきも飲んでみたい。まゆさんは?」
おい……高校生……
「ん、わたしはお酒いい。いらない」
「おにいちゃんは?」
「……オレも、甘そうだからヤメとくよ」
「なによ、現代っ子ねぇ、ソウジもストームも」
片道切符の旅か。それもそうだな。
ルミナス・コアが破壊されたら、この世界が全てぶっ壊れるんだ。
そうなれば、帰る場所すらなくなる。
オレ達は進み始めた。
東の平原に出て、なにもない平地を進んだ。
とにかく距離を稼ぐ。
だから、少し早歩きだ。
先頭のソフィアだけが馬に乗っていた。
突如、その馬上のブロンド髪が、青い光を反射した。
振り返ると、山の頂上。
はげ山の南側。
まるで照明弾。いや、それ以上の青い光だ。
魂が抜かれそうな気がするほどに、青白く輝いていた。
はげ山の斜面も、ふもとの枯れ木の林すらも。
その直上の雲すらも青白く染めている。
未希が、吐息のように言葉を漏らした。
「うわぁ……綺麗……」
意図せず、全員が立ち止まって、その光りを見つめた。
あの光なら、かなり遠くまで、届くだろう。
正義の本隊も、いまごろどこかで、あの光を眺めているはずだ。
「行きましょう」
馬上のソフィアが言った。
「ん、そだね。ウォルター戻ってくるかな」
「そんなに心配?」
「だって、護衛対象だよ。クエスト失敗になっちゃうよ」
「ウォルターの護衛は、あの山のふもとまでなんじゃない?」
「え、そうなの? じゃあウォルターは、どうなっちゃうの?」
「おいおい、縁起でもねぇ。それより、ウォルターが作った時間が無駄になっちまう。先を急ごうぜ」
「そうね、進みましょう」
進む先の平原も、うっすらと青白く照らされていた。
その色も、徐々に薄くなり、元の黒い世界に戻っていく。
なんだか。
また、いろいろなことが、わからなくなりかけていた。
歩いて山を下りたとしても、そこから馬で走れば、まだ大した距離じゃない。
1時間かそこらで追いつくだろう。
なんだか、ウォルターに戻ってほしいような。
そんな、妙な感情が湧き上がってくる。
まぁ気のせいだな。
無視して先へ進もう。




