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『あの世界』の常識に巻き込まれていく話  作者: 渡しログ
シェイプシフトデバイス
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5.6.08 - 不確定な思惑


 野菜の入った食事を食べた。

 妙な形で得られた、臨時の物資調達のおかげだ。


 まぁしかし。

 味が薄い。塩味しかしない。


「もう、ハーブやスパイスがないのよね。調味料の調達が必要だわ」


 ソフィアも苦労しているようだ。

「俺はべつにこれでもかまわねぇが、池のコケとかどうだ?」

「……生臭くなるだけじゃないかしら。でもこんどミラーのにだけ、入れてみる?」

「なんで俺がそんな実験を……」


「食事は、エネルギーが補充できればそれでいい。安全であればなお素晴らしい。いつも良い食事をありがとう、ソフィア」


「あら、どういたしまして。おかわり食べる?」


 ウォルターは、たまに、こうして他人をほめる。

 だから、ウォルターを煙たがっているヤツはいない。

 普段無口なので、効果も抜群のようだ。

 いまだに警戒しているのは、オレだけかもしれない。



 食事が終わってから、今後の計画を話し合う。

 床には、地図が広げられている。

 まずは、ストームが全員に質問を投げかけた。

「これからどうする? 正義の本隊って、どのくらいの距離にいるのかな」


 ウォルターが言った。

「馬で駆け戻って、半日から1日の範囲と考えておくべきだ」

「それって、どのくらい?」

「50キロか、あるいはもっと近いと考えておこう」


 ストームとウォルターが、地図に視線を落とした。

「この山の絵ってさ、ここの山かな?」

「確かに、他と比べて、インクの染みが濃くて若い。この数日に記した山だろうな。形も似ている」


「だとしたら、この山と、正義のコアの距離って」

「300キロ前後ってとこか」


 正義のコアとおぼしき箇所を示す場所も、南北は海に囲まれている。

 ゆいいつ、東に延びる陸地も、南側は深く海岸線にえぐられていた。

 地図を眺めると、その海が原因で、正義は北寄りの迂回を強いられてると見て取れる。


「彼らも、ルミナス・コアを目指していると考えていいだろうな」

「なにしにいくんだろう……」


「正義の戦略的立場から考えられると、絞られる目的は3つ」

「ん? なにとなに?」


「コアの破壊、あるいは破壊の阻止。もしくは、同盟会談の妨害だろう」

「そっか」



 まて。

 まてよ……


 カウント24の結末は、すでに極少数のプレイヤーには知られている。

 オレも、ストームも、それを知っている。

 ウォルターは、知っているのだろうか?


 カウント24は、ダレも知らぬ間に、ルミナス・コアが破壊されたという。

 もしその事実を、他の勢力も知っていて、それを前提に動いているのだとしたら?


 そうなれば、話は簡単だ。

 ウォルターが上げた3つの可能性のうち、考えられるのは1つしかない。


 ルミナス・コアの破壊だ。

 破壊されると分かっているのなら、あとはそれを誰が成し遂げるのか。

 報酬となるシェイプシフトデバイスは、誰が手に入れるのか。


 すでに各勢力の遠征目的は、ルミナス・コアの破壊競争にシフトしていると考えるべきだ。


 ウォルターは知っているのか?

 知っているなら、同盟会談というのは、なんだ?

 3勢力で話し合い、だれがルミナス・コアに行くのかを平和的に決めようとしている?


 正義のエレメントは、そこで3勢力を駆逐して、ルミナス・コアに昇ろうとしているのか?

 あるいは、同盟会談すら存在しない可能性も、考えておくべきだ。


 まぁしかし、いまは、ウォルターの話に合わせよう。

 というか、オレは口をだすのをヤメよう。


 それでも、ひとつだけ、明確になったことがある。


 1日も早く、少なくとも、正義よりも早く、ルミナス・コアに到達すること。

 そうしなければ、連覇をあきらめた正義が、自らこの世界を終わらせてしまう可能性がある。



 ソフィアが、口を開いた。

「なんにしても、このままじゃ、馬が衰弱しちゃうわ」

 未希が言葉を合わせた。

「そっかぁ。ご飯が4日でなくなっちゃうんだもんね」

「可哀そうだなぁ。なんとかなんねぇのか?」

 動物好きのミラーも、気にかけているようだ。


「キノコで少しは、持つかもしれないけど、気休めにしかならないわね」



「そこで、ひとつ、提案があるんだが」

 ウォルターが言った。

 めずらしく、今日はよくしゃべるな。


「ん? なにかいい案ある?」


「私の部下2人に馬を3頭預け、連絡要員として、エレメント・コアに向かわせたい。エレメント・コアまでは200キロだよな?。なら、2~3日で辿り着ける」


「3頭?」

「2頭にまたがり、1頭は馬の食糧運搬だ」


「でも、馬で近づいて大丈夫かな。下手したら攻撃されるかも」

「これを掲げていけばいい。遠くからでも判別できるだろう」


 ウォルターは、ごそごそとポーチを漁り、銀刺繍のスカーフを取り出した。

「ああ、そっか」



「それと、ここに向かっているハンス達だ」

「そうだね、途中でハンス達とすれ違うね。ここの状況を伝えてもらう?」


「彼らはもう、ここに近づかない方がいい。正義の部隊と鉢合わせたら、皆殺しにされてしまうだろう」


「……そっか、え、じゃあわたし達は? どうするの?」

「雨があがり次第、馬3頭と、ヘラジカ3頭、そして6人で、先へ進む」


「え……」


 ストームの表情が固まった。

 ミラーが、ため息をつきながら、のけぞった。

 ソフィアだけは、落ち着いていた。

 そうなることが、わかっていたかのような顔。



 そしてオレは、ひとつの結論を得た。

 ウォルターの言動を見るに、コイツは知っている。



 このカウントの結末を。




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