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『あの世界』の常識に巻き込まれていく話  作者: 渡しログ
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5.6.05 - 待ち伏せ


 オレ達は、すぐに行動を起こした。


 ウォルターとその部下2人は、山の中腹で伏せている。

 全てが見渡せる場所。

 そこで状況を見て、撤退するか参戦するかを判断すると言っていた。


 ルカは念のため上空へ。

 よほど視力にすぐれた者でもないかぎり、夜空の高いところを旋回するルカを見つけることはできないだろう。


 ストームと未希は、リュウタと共にいる。

 間違って相手が接近してきたら、すぐに距離を取るためだ。


 いざとなったら、リュウタが未希達を守ることになるが、リュウタを置いて逃げるくらいなら、未希はその場にとどまってしまうかもしれない。

 そうならないことを祈る。


 オレを含めた、残りの3人は、馬に乗った連中の進行方向の先で待機する。


 さらに、ソフィアが、地面にトラップを仕込む。

 仕込むのは、ストームが狙撃する予定の地点と、オレ達が潜む場所の100メートル手前。


 そして事前に、ナイトビジョンの魔法をかけた。

 これで、オレ達の視界は、昼間と大差ない。



 仕掛ける場所は、山の東側。

 なにもない大平原だ。

 だから、隠れる場所もない。


 オレ達は、地面に這いつくばって、気休め程度に姿を隠した。

 いちおう、夜の暗闇に紛れている。見つかるかどうかは、運頼みだ。




 それから、30分くらい待った。

 月はまだ、高いところにあるのでよく見える。


 1本の矢が、オレ達の近くに突き刺さった。

 作戦続行の合図として決めていた。

 リュウタが人間の匂いを嗅ぎつけたという知らせ。

 1本しか飛んでこないのは、すべて予測の範疇にあるという通知。


 松明などで明かりをつけることはできない。

 敵にも見つかってしまうからだ。

 しかし、未希はオレ達が潜む場所を正確に把握している。

 ストームは、その場所の近くを狙って、矢を放っただけ。



 さらに時間が経過した。

 ミラーのハラの音が頻繁に鳴りだした頃。

 遠く、夜の平原を進む、キャラバンのような姿を確認した。

 まだ、1キロかそれ以上の距離。


 だが見えている。

 人数もわかる。


 ウォルターの予測通りだった。

 プレイヤーは4人。

 馬は8頭。


 前を行くのは2人。

 後続の4頭の馬をロープか革紐のようなものでけん引し、最後尾に2人。

 全員、馬に乗っている。


 そして、問題が発生していた。

 進行方向が、少しズレている。


 オレ達が屈んでいる場所よりも、だいぶ南側に逸れる角度で進んでいる。

 これでは、ソフィアのしかけたトラップが意味をなさない。


 その場で、小声で軽く打合せをした。


「ミラー。見つからないように接近しよう」

「おう。あれじゃ、しょうがねぇな」


「ソフィアは、砂を掴んで、最後尾からついて来てくれ。砂が届く距離になったら教えてほしい」

「わかったわ」



 もうひとつ問題があった。

 あの進行方向では、ストームと対象との距離が、500メートル以内に入らないかもしれない。


 選択を迫られている。

 どうすればいいか。

 ふとストームが潜んでいる方角に視線を向けた。

 人影は見えない。あいつらも隠れている。

 なにも答えは得られなかった。



 オレ達は、進行方向に先回りするように、場所を移動して、また身を隠した。

 馬に乗ったプレイヤー4人も、徐々に近づいてくる。


 ストーム達はどうしているだろう。

 オレ達は、ナイトビジョンで遠くまで見渡せるから、4人のプレイヤーがよく見えている。

 しかし、向こうからは、見えていないはずだ。

 それでも、立ち上がったら、見つかってしまうだろう。

 ストームと未希も、動きたくても動けない。



 また、問題が発生した。

 馬に乗った4人が、隊列を崩し、集まってなにか相談を始めた。

 オレ達が潜んでいる場所を向いている。

 なにを話しているのだろう。


「なにしてやがんだ、あいつら」

「ねぇ、ふと思ったんだけど……あの中に魔法使いはいないのかしら?」


「どういうことだ」

「もし、先行偵察なら、気配を察知する魔法を使いながら進んでいてもおかしくないわよね?」


 確かに……その通りだ。

 なんの対策も無しに、こんな平原を馬にのって進むなんて、ただのマヌケだ。

 そんなマヌケを先行偵察に選ぶだろうか。


「見つかったか、あるいはオレ達の気配を察したか……そういうことか」

「いずれにしても、存在はバレてると思ってよさそうだな。じゃなきゃわざわざ、コッチ見ねぇよ」


「どうする?」

「どうするったってなぁ」

「ソフィア、砂はいつでもいけるか?」

「問題ないけど、あの距離はムリよ?」


 ミラーも、ソフィアも落ち着いていた。

 オレ達はそのまま、地面に伏せて、彼らの様子をうかがった。


 まだ距離は、半キロくらいある。

 顔つきまではよく見えないが、連中は全員男のようだ。

 両手を目の上にかざして、こちらを見ている者がいる。

 いまにも、馬を走らせてきそうだ。


「あんまり、精度がよさそうな魔法じゃないのかもね」

「そうだな。なにか気配があるくらいしか、察知できていないのか」


「にしても、馬で駆けてこられたらやべぇぞ。騎兵にゃ勝てねぇ」

「そうねぇ。私も直線以外で動かれると、風で砂の制御が難しくなるわ」


「それを先に言えよソフィア……詰みじゃねぇかそれ」

「あら、言ってなかったっけ? 私の魔法の弱点は風よ。微粒子なんて簡単に飛ばされちゃうからね」


 そんな話、聞いた記憶がない。


 4人の男達は、2人ずつに分かれた。

 2人と4頭の荷馬はその場にとどまり、残りの2人がこちらに近づいてくる。

 駆けてはいない。

 馬の速度は、歩行のペースだ。


 ミラーが言った。

「完全に、存在がバレてるなこりゃ」

「どうするのよ、見つかっちゃうわよ」


 このままじゃ、見つかるのも時間の問題だ。


「やるしかねぇだろ」


 ミラーがそう言った。


 やるしかない。

 ちょっと叩きのめすだけですめばいいが。

 これは、街のケンカとは違う。



 殺さなきゃ、殺される。

 殺し合いの瞬間が、近づいている。




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